父さんの受難とその連鎖
俺の名前は福山田潤。頭のネジが飛んだ父親と、何を考えているかわからない祖父を持つ男だ。
最近、彼らは俺の現場に頻繁に現れ、保護者面よろしく見学していくらしい。本物の親や孫でもないのに何が『保護者』だと思うのだが、一応は業界の大先輩なので、俺もスタッフも強く言えずにいた。
そんな感じなので、毎回落ち着いて収録に臨めやしない。
——と、そんなことを考えていると、向こうから緒方さんがべしょべしょに泣きながらやってきた。こういう場合は無視一択なのだが、それを許さないのが、粘着質の強い父親が持つ鋼のメンタルだ。
「彗〜、聞いてよぉ」
「今日もいい天気だなぁ」
「最近父さんがさぁ」
「あっ、いっけな〜い!もうすぐ収録の時間だ。早くスタジオに入らないと」
「待って、彗」
「なんですか。急いでるんです、離してください」
「スタジオ入りまであと三十分以上あるよね?パパの話聞くくらいできるよね?」
「なんで俺のスケジュール把握してるんですか。マネージャーか何かですか」
「パパだよ!」
「俺はあなたの息子じゃありません!」
こうやっていつも緒方さんの勢いに飲まれて、ついつい話を聞いてしまうのだ。
「あのね、彗。実はちょっとお願いしたいことがあって……」
「今さら急に改まって、なんですか」
「彗のほうからさ、父さんに『パパを虐めるのはやめてください』って頼んでくれない?父さんも、彗の言うことなら聞くと思うんだよね」
「なんかもういろいろと間違ってるので、ツッコむ気も失せました」
「このままじゃメンタル弱々になって、生活に支障が出ちゃうよ〜」
「仕事に支障が出なければいいんじゃないですか」
「お仕事にも影響が出てるんだよ〜。知ってる?パパ、父さんが演じるキャラに頬染めてピアノで連弾させられたんだよ?」
「あれは好きでやられているのかと思っていました」
「そんなわけないでしょ!しかも、アニメで退場したキャラなのに、何食わぬ顔で劇場版に出てるんだよ?もはやホラーでしょ」
「多くのファンがついている人気キャラなので、仕方ありませんよ」
「リテイク何回も出しちゃうし、そのたびに父さんに詰められるし、トラウマものだよ……」
「それはまあ、同情しないこともないです」
「そうでしょ?!だから彗、なんとかして!」
「なんとかと言われましても、俺は特に被害に遭っていないので、なんともしようがないです」
そうなのだ。
石田さんは、緒方さんにこそ執着しているけれど、俺には何もしてこない。せいぜい収録現場にやってきて、静かに見学して去っていく。それくらいなら、断然緒方さんのほうが迷惑している。
「父さん、彗のこともめちゃくちゃ溺愛してるよ?」
「えっ、そうなんですか?」
「随分前に父さんとバトルアニメに出たでしょ?能力系の」
「俺が敵役で出てたやつですよね?あまり、と言うか全然絡みはありませんでしたが」
「あのビジュアル、赤くて長い髪のキャラだったでしょ?パパのデビュー作のキャラに似てるからって、父さんがわざわざ孫にって当てがったんだよ」
「それ、製作者側の人間がやることじゃないですか」
「あとは、彗が主演で公務員役をやったやつ。あれもバディ役に父さんが出るはずだったんだけど、エンディングで歌を歌わなきゃいけないことが分かって辞退したんだって」
「みんながアイドルのように歌ってたあの時代を、歌わずに駆け抜けたことについては心から尊敬します」
「ぬらりひょんでは、彗をリアル孫にしようとしてたんだけど、その時ちょうど体調崩してオーディションを受けられなかったって、悔しそうにしてた」
「良かった!祖父役が遊佐さんで本当に良かった!」
「他にも、自分が出てるアニメに彗を引っ張ってくることが多数……」
「もういいです。お祖父様が父さん以外に、俺にも執着していることは分かりました」
「彗……」
「——なんですか?」
緒方さんは真剣にこちらを見つめてきた。
「さっき『父さん』って呼んだ?ねぇ、呼んだよね?」
「……呼んでません」
「ねぇ、もう一回言ってよ〜。父さん記念日にするからさぁ」
「あなたは本当にもう、なんなんですか!やめてください」
俺は必死で緒方さんの過剰なスキンシップ沼から這い出す。これは中々、二重でストレスのかかるやつだ。
こうして俺は、知りたくなかった事実を知り、新たなストレスの種を増やしたのだった——。
※共演するために手を尽くした、という話は創作です。事実無根ですのでご理解ください。




