269 早乙女シイナからの贈り物
今年も残り10日となった。
雪が降りそうなほど寒い土曜日、幼コレの『クリスマスイベント』に続いて『お正月イベント』を用意するという、殺人的スケジュールと戦っていた。
メンバーは全員出社である。
助っ人のクリスティナに加えて、休日出勤NGの瀬古姫井コンビも今回ばかりは仕事している。
「これが全集中の呼吸だぁ!」
社長は身体能力がUPしている模様。
いるよな……。
水の呼吸をつかう小学生……。
「僕はロリコンの呼吸なので〜す!」
うん。
姫井なら絶対そうくると信じていた。
メチャクチャ軟弱そうな呼吸法だけれども大丈夫だろうか……。
「また始まったよ……」
サブカル女子の有栖川がくつくつと笑っている。
忙しいとはいっても睡眠時間を削られるほどではないし、会社のツートップが冗談を飛ばしているのは、余力が残っている証拠といえよう。
「お前たち、もう2時間働いたからな〜。今日は残り1時間だぞ〜」
神宮寺が忘れずに釘を刺しておく。
お医者さんの許可をもらって、『週15時間しか働けない』ところを『週21時間まで働ける』よう拡張してもらったのである。
12月だけの特例措置であり、『1日3時間まで』という縛りは変わらないけれども、『戦闘力40%増』の恩恵はバカにできない。
「そろそろお昼にしようかな〜」
「でしたら出前のお弁当を注文するのです!」
人数分のデリバリー弁当を頼んで、みんなで一緒に食べることにした。
休日出勤のとき、いつもより豪華な飯を食べると、驚きの満足感があったりする。
「オフィスにある荷物、そろそろ荷造りしないとマズいよね」
雪森が心配そうにいう。
「管理会社との契約は12月31日までですっけ?」
奈良橋が山積みのダンボールを見つめる。
「一個も荷造りしていないな……」
そういう加賀美は苦笑いしている。
「最悪、マキャベリーの事務所を倉庫代わりにするしかないな。メノウに頭を下げて隅っこの方を借りよう」
神宮寺が提案すると、仕方がないですね、とクリスティナは理解を示してくれた。
持つべきものは助け合える隣人といえよう。
……。
…………。
荷造りしないとね、と言ったそばから、この会社に荷物が届いた。
一個目はカノープスの総務部から。
入社案内の紙や、各種誓約書と一緒に、カノープスの社員番号を割り振った名簿が同封されている。
名前の表記に間違いがないか最終確認してください、という意図らしい。
================
324 有栖川后
325 加賀美伊織
326 神宮寺あすか
327 須田正臣
328 瀬古いのり
329 奈良橋涼
330 姫井ゆり
331 雪森如月
================
『あ』の有栖川がトップで、『ゆ』の雪森がラスト。
シンプルに五十音順というわけか。
「なぬっ⁉︎ 私よりマサくんの方が、番号が若いだとぉ⁉︎」
「ふっふっふ。俺の勝ちですね」
「ぐぬぬ……しかも328番とか、面白みの欠片もないではないか⁉︎」
「3月28日……調べてみると、明治9年に廃刀令が出されていますね」
「サムライが死んだ……」
この中にシイナの名前は含まれていない。
理解していたことだが、いざリストを見せられると寂しい。
「でも三桁になっちゃいますね。今まで一桁ですから。一軍のレギュラーから三軍へ降格しちゃった気分です」
雪森のセリフに全員がうなずく。
「働くオフィスもバラバラになるだろうな」
神宮寺が頭の後ろで手を組みながらいった。
「親会社のカノープスに配属される人と、子会社のCゲームスに配属される人で、所属が分かれちゃうんだね」
「そうそう」
4人と4人で別々の部署へ行くことが決まっている。
カノープス組は瀬古、神宮寺、姫井、俺の4人。
こっちは流川のマターであり、企画と戦略と広報の手伝いをさせられる。
Cゲームス組は加賀美、奈良橋、雪森、有栖川の4人。
こっちは龍造寺のマターであり、幼コレの運営に専念すると思われる。
親会社だから偉いということはないし、子会社だから給料が低いなんてことはない。
それにカノープスは成長著しいから、同じところに配属された4人だって、一年後にはバラバラになるかもしれない。
一番の高ポストが与えられるのは加賀美。
『Cゲームス 代表取締役社長 加賀美伊織』
子会社とはいえ、仲間から社長を輩出するのである。
いかにカノープス社員から信頼されているか、一目でわかる証拠といえよう。
まさに融和の象徴である。
(瀬古、神宮寺、姫井の3人は高ポストを辞退した。カノープス古参社員とのあいだに軋轢が生じるから、カノープスの独自色を壊したくないから、という理由だった。流川もすんなり納得してくれた)
「来年からは加賀美社長だな。部下を30人くらい管理するんだろう」
「止してくださいよ、神宮寺さん。実質、部長くらいのポジションですってば」
落ち着いたタイミングで加賀美の社長就任祝いをやろう、という話が決まった。
……。
…………。
もう一個の荷物は金属加工メーカーから。
品名のところに『特注レーザー彫刻ガラス』と記されており、大きさの割にそこそこ重い。
「これ、シイナさん宛てに届け物ですよ」
「ありがとう。一緒に開封しましょう」
一個を開封してみると、クリスタルに金属プレートを閉じ込めた表彰盾みたいなやつが、緩衝材の中から出てきた。
これが社員の数だけある。
「私の名前は外す予定だったけれども、いのりさんが9人一緒にするとゴネるから」
出来栄えをチェックするように、シイナは色んな角度に傾けている。
満足したのか、机の上にセットした。
================
幼女株式会社 社員一覧
001 瀬古いのり
002 姫井ゆり
003 神宮寺あすか
004 加賀美伊織
005 有栖川后
006 雪森如月
007 奈良橋涼
008 須田正臣
009 早乙女シイナ
精勤に励みに当社の発展に尽力した者の名をここに記します。
20XX年 12月吉日
================
「なんか賞状みたいですね」
「まさに賞状よ。頑張りましたで賞。いのりさんからのリクエスト。形として残るものがいいって。実用品にする案もあったのだけれども、それだと壊れちゃうから、シンプルに盾にしたわ」
シイナが一箱差し出してきた。
「須田くん、今までご苦労さま。私の名前も入っているから。ありがたく墓場まで持っていきなさい。デスクなり、トイレなり、台所なり、毎日見えるところに飾って、毎日モチベーションを上げるといいわ。幼女株式会社のことを思い出して『あの頃は若かったな』と感慨にひたるの。受け取り拒否はさせない。文句があるなら能天気ツインテールにいいなさい」
「いえ、嬉しいです。ありがとうございます」
「会えなくなるけど、元気でね」
「ええ、シイナさんも」
一足早いけれども、サヨナラの握手をした。
「ゆっくり準備しないと辛いわ。新しい門出というのはね。でも、悲しさもすぐに忙しさで上書きされる」
初めてシイナと会ったとき。
精神的にどこか不安定なイメージだった。
あれから季節が一周したことで、シイナの心は豊かになり、俺の人生にもプラスの影響を与えてくれた。
この先、一緒に働けないけれども。
どうかお元気で。




