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263 幼女株式会社 vs カノープス(後半)

「龍造寺くん、あのプレーは仕方ない。頭を冷やしたまえ」

「分かってますよ」

「スタミナは最後まで保つかね?」

「後半で絶対に仕留めます。延長戦なんてありえません」

「にしても姫井さんには一杯食わされたな。体格の小ささを逆用してきたね。龍造寺くん以外で対応に当たろう」

「試合が終わったらデコピンしてやりますよ」

「こらこら……」


 龍造寺の目が本気になっている。

 眉間にシワを寄せており、闘志のギアが一段上がった感じだ。


「本来の力を出し合えば、勝つのはカノープスだ。忘れるな」

「うっす!」


 審判がホイッスルをくわえた。


「スコア2-1! カノープスボールで試合再開です!」


 残り時間を考えると、あと二回か三回はスコアが動きそう。


「ここは集中して守っていこう!」


 社長が声を張り上げたとき、カノープスが一斉に攻め上がってきた。


 相手の考えは手に取るようにわかる。


 二点差に戻して試合を決定付けたい。

 しかしカウンターを食らって同点になるのも怖い。

 セオリー通りにいくなら無謀な攻撃はできないはずだが……。


「龍造寺くん! 速攻でいくぞ!」


 だよな。

 とことん俺たちを苦しめるつもりらしい。


 流川がボールを龍造寺に預けた。

 それをワンタッチで流川に返す。


 カノープスの攻撃は強力なのだが、弱点があるとすれば、

『流川からのパス』→『龍造寺のシュート』

 という組み立てに頼りすぎていること。


 つぶすなら龍造寺にボールがわたる前。

 流川のところでカットするのが得策だ。


「抜かせねえよ」

「神宮寺さん……」


 神宮寺と流川のマッチアップになった。


 これは願ってもない展開といえる。

 神宮寺の運動能力があれば、流川からボールを奪うことは造作もないはず……。


「なっ⁉︎」


 流川がいきなり加速した。

 別人のようにボールタッチが上達している。


「アップ練習のときから私は本気を出していません。弱い私のイメージがこびり付いている神宮寺さんなら、ほぼノーリスクで抜くことができます」


 おのれぇ!

 流川ァァァァ!

 心の中で吠えているうちにもボールはどんどん迫ってくる。


「龍造寺くん、あとは任せたよ」

「あいよ!」


 動揺している場合じゃない。

 フリー状態の龍造寺がシュートモーションに入っている。


 狙いは右か?

 それとも左か?

 あえてド真ん中か?

 プレッシャーが肩にのしかかったとき、味方が一人、シュートコースに飛び込んできた。


「君の好き放題にはさせないよ!」


 ポニーテールの幼女。

 加賀美だった。


「カガミィ‼︎ テメエェ‼︎」

「龍造寺くんに悪い癖があるとすれば、大切な場面で必ず最強の一撃を繰り出してくるってことさ!」


 至近距離でボレーシュートが炸裂。

 超必殺技『ドラゴントルネード』の破壊エネルギーを加賀美は腹部で受け止めたのである。


「ぐはっ……」


 加賀美の体が吹き飛ばされる。

 跳ね返ったボールも相手コートを転がる。


「ボールはまだ死んでいないから!」


 その遺言を受けとった社長、姫井、奈良橋がパスを回して、最後は神宮寺がゴールに押し込んだ。


 これでスコアは『2-2』。

 加賀美の執念が呼び込んだカウンター劇であった。


 ……。

 …………。


「社長……申し訳ありません……私が一緒に戦えるのはここまでです……」

「加賀ちゃん!」


 社長が涙ながらに叫んだ。


「須田くん……先輩らしい活躍ができなくてゴメン……やっぱり龍造寺くんには勝てないなぁ……」

「加賀美さん!」


 俺も涙ながらに叫んだ。


 ここは自陣のゴール前である。

 ぐったりして動けない加賀美をみんなで囲んでいた。


「幼女株式会社、メンバーチェンジします!」


 一名の交代カードをつかって、

 OUT:加賀美

 IN:雪森

 とする。


 きっと何年経っても忘れない。

 恐ろしいドラゴンに立ち向かっていった勇者のような幼女がいたことを。


「スコア2-2! カノープスボールで試合再開です!」


 ここからは一進一退の攻防が続いた。


 カノープスが攻めてくる。

 俺たちはカウンターで返す。

 するとカウンターのカウンターが飛んでくるという具合に攻守が目まぐるしく入れ替わった。


 ギャラリーとしては一番エキサイトする展開だ。

 プレーヤーとしては体力の消耗が激しすぎる。


 俺は龍造寺のボレー弾に食らいつく。

 すると相手キーパーも負けじとスーパーセーブを連発してきた。

 この時間帯はキーパー同士の戦いでもある。


 スコアが動かないまま、残り時間が3分……2分……1分と減っていく。

 チャンスが巡ってくるのはあと一回か二回か。


 ボールの競り合いになったとき、集団の中から流川が飛び出してきた。

 無人の野を行くようにドリブルで駆け上がってくる。


 その視界を邪魔するのはツインテールの幼女。


 瀬古いのり vs 流川マキ。

 この一戦を象徴するようなマッチアップが最終盤で実現したのである。


 どうする、社長?

 真っ向勝負する気なのか?


「本気で来い、流川!」

「瀬古先輩は私に勝てない!」


 流川がいったんスピードを緩める。

 美しい切り返しを披露すると、社長はフェイントにかかり、呆気なくバランスを崩してしまった。


「うん、私だと流川に勝てないね」


 その口元がほころぶ。


「私一人だと、ね」


 飛び出してきたのは姫井。

 体の小ささを利用して社長の後ろに隠れていたのだ。


「なっ⁉︎」


 俺の位置からは丸見えでも、流川の位置からだと、空から降ってきたように映るだろう。


 姫井と流川の体がクロスする。

 さっきまで流川の足元にあったボールは、磁石で引き寄せられるように、姫井の足元に収まっていた。


「最初にいいましたよね! 僕たちが登場したからには、二点差なんてあってないようなものなのです!」


 姫井から奈良橋へ。

 奈良橋から神宮寺へ。

 神宮寺から社長へとパスがつながり、最後のシュートが放たれる。


 ゴールキーパーの手に当たったボールは、俺たちの願いに押されるように、ぎりぎりゴールラインを割っていた。


「やったぁ!」


 歓喜の瞬間が訪れる。


「私たちの優勝だぁ!」


 ジャンプしながらガッツポーズした社長を、駆け寄ってきた神宮寺たちが揉みくちゃにした。


 ……。

 …………。


 ゴツンと超次元の頭突きがヒットした。

 ピッチ上にうずくまったのは流川。


「なあ! 流川さん! 『敗者に用はない! 時代は勝者を望んでいる!』とか格好つけていたのは、あなたでしょうが! 流川さんが敗者になって、どうするんすか!」

「……面目ない」


 流川はずぶ濡れになった猫みたいな目をしていた。

 やり過ぎたと反省したのか、龍造寺は手を差し出して起こしてあげる。


「……すみません……流川さんに当たっちゃいました」

「気にするな。頭突きの一発や二発、痛くもなんともない」

「じゃあ、お言葉に甘えてもう一発」

「……やっぱり痛いからやめて」


 フィールドを去っていくカノープス一軍に惜しみない拍手が注がれる。


 流川はメンバーを整列させると、応援席に向かってぺこりと頭を下げた。


「フットサルなら瀬古さんに負けないとか言い出したから、私も協力してあげたのに……」

「返す言葉もないな。今日の流川マキは世界一格好悪いリーダーらしい」

「まあ、流川さんらしい終わり方ですけどね」


 流川はおでこの痛みを気にしており、悔しさを押し殺そうとしているのが遠目でもわかった。


「龍造寺くんは、こんな私でも付いてきてくれるか?」

「…………」

「まあ、嫌だといっても付いてきてもらう予定ではあるが……」

「何いってんすか。流川さんこそ、こんな私でいいんすか?」

「なるほど。お互い様だな」

「大将は流川さんです。だから試合に負けたのも流川さんのせいだと思っています。私の力を過信したのが一番の敗因です」

「…………10年ちょっと前の全国高等学校サッカー選手権、テレビで観ていたよ」

「…………」

「同じスコア。同じ負け方だったな。二度も辛い思いをさせて申し訳ない」

「……よしてくださいよ」

「……泣いているのか?」

「……流川さんを勝たせてあげられなかったこと、あの日と同じくらい辛いです」

「……そうか。……私も似たような気持ちだよ」


 ここでも一つ。

 大切な人との絆が深まった。

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