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「社長と神宮寺さんの一番の違いはね、スキルの深さっていうより、スキルの幅かな」


 俺と加賀美は『北海道&沖縄料理』のお店へやってきた。

 何だかんだで毎月三回くらい訪れている行きつけの料理屋といえる。


「あら、伊織ちゃんだ」


 俺たちの対応をしてくれたのは、引き締まったスタイルの奥さんだ。

 ホールには野生のクマ……じゃなくてプロレスラーのように逞しい旦那さんの姿もあった。


「ギャル子はどうしたの? あの子ったら最近はお酒を飲みだして、うちの店で泡盛(あわもり)のボトルをキープしているのよ」


 ギャル子とは神宮寺のことである。

 今日は社長と一緒に渋谷へ行っていることを告げると、出張なら仕方ないわね、といって奥さんはペロリと舌を出した。


「あら、また背が伸びたんじゃないの? ギャル子を超えたの?」


 奥さんの手が加賀美の頭を優しくポンポンする。


「ここの豚足を食べているお陰で神宮寺さんを抜きました」

「可愛いことをいうじゃない」


 加賀美さんって本当に人当たりがいい。

 こういう人間が組織に一人いると、潤滑油の役割を果たしてくれて、ズキズキした空気を心配しなくて済む。


「どうして加賀美さんはそんなに性格が良いのですか?」


 四人掛けのテーブルに案内してもらい、日替わり定食をオーダーする。


「え〜。性格の良さだったら、社長や須田くんの方が上だと思うけどな〜。ほら、私ってぼんやりしているイメージでしょ」


 加賀美は運ばれてきた水に口をつける。


「社長だって割と抜けていますよ。プライベートだと特に」

「社長は天然だからね。この前の居酒屋の一件は面白かったな。『私って豆類全般が食べられないんだよね』と言いながら枝豆を食べていてさ。その席にいた全員が『……』ってなったよ。さすがに『それ、豆ですよね?』とは指摘しにくいし。社長がトークに夢中になって、豆を豆と認識しなかったら食べられるらしいね」


 俺は口の中身を吹きそうになる。


「無茶苦茶ですが、あの社長ならありえますね」

「うん、社長は愛されキャラだから。観察したくなるんだよ。ほら、話題にしたくなる人間っているでしょ」


 ハーフサイズの炒飯、ハーフサイズのソーキそば、そこに副菜三品のついた定食が運ばれてきた。


「私は主張が弱いタイプだから。性格が良いっていうより、控えめというか、消極的というか、没個性なんだよ」

「……なるほど」


 でも困っている姫井をすぐにフォローしてあげたけどな。

 俺が渋々頷いたとき、加賀美が悲しそうな顔を向けてくる。


「没個性のくだりはすぐに否定して欲しかったな。『そんなことないです。加賀美さんには加賀美さんの魅力があります』とかさ」

「……いやいや、俺の人間力はそこまで高くないです」

「なんてね。嘘だよ。冗談だよ」


 加賀美が悪戯いたずらっぽく小首を傾げながら割り箸を割った。


「でも幼女って、ときどき自分のことを卑下したくなるんだよ。私ってツマラナイ女だよね、とか、私って可愛くないよね、とか。もしそんな女性と出会ったら、一時的に自信を失っているだけの可能性があるから、秒で否定してあげてね。これはお姉さんとの約束だよ」

「……なんすか。急に加賀美さんが可愛らしくなりました」

「むふふ……」


 白魚のような指が伸びてきて、俺のシャツの袖口を気にする。


「須田くん、ボタンが一つ外れかかっているよ」

「あれ? 本当だ。全然気づきませんでした」

「私が直してあげよっか?」


 俺は一瞬だけポカンとする。


「職場に針と糸を置いているから。このくらいなら簡単に直せるよ。それとも社長に直してもらう?」


 テーブルを挟んでいるのに、加賀美との距離が急接近したような錯覚に襲われた。

 職場の先輩とわかっていても胸がドキドキする。


「いや、社長にやってもらうと、針で指を突き刺す未来しか待っていないので」

「だったら私で決まりだね」


 加賀美は頬っぺたに手を当てて、うっとりと目を細める。


「見返りとして社長の恥ずかしい話か面白い話を聞かせてよ。神宮寺さん、姫井さんが知らないネタがいいな」

「ええとですね……急にいわれましても……」

「時間はたっぷりあるからさ」


 俺と他愛のない話をしているだけなのに、加賀美はとても楽しそうにしている。

 それが後輩として何気に嬉しかった。



        ※        ※



「あれ?」


 定食を食べ終わり、幼コレをぽちぽちプレイしていた俺は、小さい異変に気づいた。


「加賀美さん、幼コレのレスポンス、いつもより悪くないですか?」

「……本当だね。お昼休みだからユーザーが多いのかな」

「あるいは新規ユーザーが急増したとか」


 ちょっと遅い。

 いや、まあまあ遅い。


 画面の切り替わりのたびに、ローディング中であることを示すくるくるマークが表示されるのだ。


「いや、ユーザーの接続数が問題とは思えないけれど……」


 エンジニアの顔になった加賀美があごに手を当てながらいう。


 忙しい現代人は小さい待ち時間を嫌う傾向がある。


 ECサイトなら二秒とか。

 ソーシャルゲームなら一秒とか。

 このレスポンス速度だと何割のユーザーが許容してくれます、という暗黙の指標があるのだ。


 俺たちは顔を見合わせた。


「これってシステム障害ですかね?」

「すぐに解決しないと死んじゃうやつだよ!」


 非常にやばい……。

 社長&神宮寺という黄金コンビがいない状況で、俺たちの幼コレのサーバーに何か異変が起きている。

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