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120 雨上がりのデート

 雨が止んだあと、俺たちは秋葉原の繁華街を散歩した。

 猫は人より聴覚に優れており、人混みの騒音はストレスになるので、ペットショップの預かりサービスを利用した。


「瀬古先輩は神田に住んでいるのだろう。よく遊びに来るのかい?」

「いえ、滅多に外出する時間が取れず……」

「そうだよね」


 流川は気軽に話しかけてくれる。

 半分以上が瀬古いのり関連の話題になるのは、お互いの共通点なのだから、仕方がないところだろう。


「瀬古先輩との同棲は楽しそうだね」

「……どうして一緒に住んでいると知っているのですか?」


 社長が漏らしたのだろうか?


「やっぱり図星か。初めて会った時からそんな気がしていたよ」


 動揺する俺を置き去りにするように、流川はドンドン進んでいく。


 ゲームセンターの前で足を止める。

 ポップな雰囲気のフロアに並んでいる二十台くらいのUFOキャッチーに目が釘付けになった。


「たまには俗っぽい遊びもいいな」

「得意なのですか? UFOキャッチャー」

「須田くんは苦手そうだよね」


 サングラスの奥の目が笑っていた。


「勝負しよう。どちらが先に景品を取れるか」

「別に構いませんが……俺が負けると思います」

「だったら先攻は須田くんに譲るよ」


 俺たちは丸っこいぬいぐるみが配置されている台を選んだ。

 ひょろっとしたアームが三本、頼りないのがプレイする前から分かる。


 100円を投入して挑戦するも、一回目は失敗。

 アームの爪がぬいぐるみの表面を撫でただけであり、一ミリも動いてくれなかった。


「これは典型的な確率機だよ」


 流川も100円を投入する。

 狙いはぴったり景品の真上だが、やる気のないアームは仕事をしてくれず、結果は俺と一緒だった。


「あと2,000円とか3,000円を投入したら、アームが強くなると思うよ。必要な金額は店によって違うけどね」

「へえ、やけに詳しいですね」

「瀬古先輩とよく勝負した」


 俺は千円札を両替してから、その中の一枚を投入した。


 二回目も失敗。

 リピート映像を見せられた気分になる。


「瀬古先輩はこういうゲームが苦手でね。バカ正直に挑んでいたから。いつも私が勝たせてもらったよ」


 次に流川が狙ったのはぬいぐるみのタグの部分。

 アームの爪がピンポイントで引っかかり、あれだけ動かなかった景品がいとも簡単に持ち上がる。


 そうか。

 最初はアームの可動域や開く幅をチェックしたのだ。

 人としての能力の差のようなものをつくづくと感じさせられる。


「おめでとうございます!」


 駆け寄ってきた店員のお姉さんが大きな景品袋を渡してくれた。


「どうだ。知恵で勝利するのは楽しいだろう」

「流川さんって勝利の二文字が似合いますね。カリスマ経営者って感じです」

「小学生のときトレーディングカードゲームの大会に出たことがある。地区予選の決勝で大学生相手に負けてしまった。悔しくてその場で泣いたよ」


 流川はサングラスを外した。


「負けることが何よりも嫌いなんだ。そのせいで体調を崩したり、大切な何かを失ったこともある」


 初代カノープスのことだ。

 流川が頑張りすぎたせいで入院し、組織に終止符を打つことになった。


「でも努力した結果、何かを失ったとしても、あとで三倍くらいになって返ってくる。人生は本当に良くできているよ」

「取り返そうとは思わないのですか? 失った物を?」

「過ぎ去った時間はかえってこないだろう」


 俺は黒真珠のように綺麗な瞳を見つめた。

 ふとした瞬間、社長と流川が重なる。


「それに私には龍造寺くんがいるから」


 気づいていたんだ。

 龍造寺から寄せられる好意に。


 それから俺たちはお店の前で写真を撮った。


 戦利品のぬいぐるみを流川が頭の上にのせる。

 それを俺がスマートフォンのカメラに収めてあげる。


 幼女がやると可愛らしい。

 しかしカミソリのような頭の冴えを知っている俺は、その二倍くらいあざとく感じてしまう。


 流川がプライベートのSNSを立ち上げて、


『今日は社外活動のため秋葉原まできました。これから自社へ戻ります』


 と写真付きで投稿したら、すぐにフォロワーから、


『お疲れ様です』

『思ったより元気そう』

『遊んでないでお仕事して〜』


 というリプライが寄せられた。

 その中には『助けてくださいよ〜』という龍造寺SNSからのコメントも含まれている。


「今日はデートに付き合ってくれてありがとう」


 ペルシャ猫を回収した流川がタクシーを呼び止める。


「途中まで乗っていくかい?」

「いえ、俺はまだ買い物が残っていますので」

「そうかい。須田くんとは近いうちに再会できる予感がするよ」


 俺はぎゅっと拳を握った。


「流川さん!」


 なるべく簡潔に、だけれども胸に刺さりそうな言葉を選ぶ。


「瀬古いのりは今でも流川さんを待っています!」


 この大都会で出会ったのも何かの縁だ。

 そんな気持ちが俺を突き動かした。


「ああ……」


 サクランボのような唇が笑う。


「痛いほど知っているよ」


 サイドテールの幼女をのせたタクシーは風のように走り去っていった。



        ※        ※



 そして四日後の月曜日。

 アプリケーション別セールスランキングが発表された。



================


 一位 幼女コレクション(先週十五位)

 ……。

 …………。

 四位 ガーリッシュ・メモリーズ(先週二位)


================



 俺たちは最初で最後になるであろう悲願の一位を獲得した。


 一方、流川のスキャンダル記事が響いたガルメモは初めて順位を落としており、後味の悪さを残す勝利となってしまった。

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