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117 青天の霹靂

「うわっ! お酒くさいっ!」


 俺が朝一番のオフィスにやってくると、ビールやワインやカクテルの香りをごちゃ混ぜにした、とてつもない異臭が鼻をついてきた。

 指で鼻腔に栓をしながら、換気のために窓という窓を開け放っていく。


 この不衛生な空気はヤバい。

 社長はともかく姫井が嗅いだらご立腹だろう。


 俺が休憩エリアへ足を運ぶと、元凶であろう幼女が四人、酒気を全身にまとったまま、思い思いの姿勢で寝ていた。

 よっぽど楽しい夢を見ているらしく、どの顔も幸せそうだ。


「まったく、ここは自宅じゃないのに……」


 転がっている空き缶の量や、衣類を脱ぎ散らかしている状況から察するに、彼女らは徹夜で飲み明かしたらしい。

 もちろん酒好きの神宮寺の発案であろう。


「神宮寺さん、起きてくださいよ」


 体を揺すっても返事がない。


「また姫井さんに怒られますよ」

「……」


 学生時代に居酒屋でアルバイトをしていたときの記憶が沸々と蘇ってくる。


 閉店時間を過ぎても居眠りしている客がいて、何をしても目覚めず、かといって外に放り出すわけにもいかず、店長さんの頭を悩ませていたのだ。


「どんだけお酒に強いんだか……」


 幼女のくせに大人顔負けといえよう。

 俺なんて生ビール二杯か三杯が限界だし、社長にいたっては一口でもアウトなのに。


「おはよう……あれ? 匂うね」


 トイレに寄ってから出社してきた社長が顔をしかめた。


 神宮寺が熟睡しているのを良いことに、キャミソールの上から胸元をペタペタと触って、そのサイズをチェックし始める。

 かと思いきや無断でキャミソールの内側をのぞき始めた。


「はっ⁉︎ 前より胸が少し成長している⁉︎」


 その事実がかなりショックだったらしい。

 自分の胸の前で腕をクロスさせて、はあ、と淡い吐息をもらしている。


「何やってんすか、社長。それは立派なセクハラなんじゃ……」

「だって気になるんだもん!」


 ほぼ毎日観察している俺にいわせると、神宮寺の胸が成長したという実感はないが、幼女の社長だからこそ気づける変化があるのかもしれない。


「おはようございます」


 そこに姫井も出社してきた。

 今日は清楚な水色のドレスを着ており、くすんだ金髪を映画に出てくるお姫さまのように編み込んでいる。


 姫井は鼻をクンクンさせてから、全開になっている窓を気にした。

 フランス人形のような顔がわずかに歪む。


「姫ちゃん、ちょっと失礼するね」


 社長の手が姫井の胸をドレスの上からペタペタした。

 手応えがないことに満足したらしく、ニコッと愛らしい笑みを振りまく。


「どうされたのです、社長?」

「いや、姫ちゃんは私を裏切らないと思ってね。それが確認できて安心したよ」

「はぁ……僕が社長を裏切るなど、天地神明に誓ってありえませんが……」


 何のことか理解できない姫井は、釈然としない様子で首を傾げた。

 貧乳コンプレックスに悩む社長と、つるぺた信者の姫井は、永久に相容れない存在ともいえる。


「それにしても……」


 涼やかなブルーサファイアの瞳があられもない姿で寝ている神宮寺たちを見つけた。

 腕組みをしてから不機嫌そうに指をトントンさせて、


「神宮寺さん! 今すぐ起きてください! あと入浴券を渡すので、即刻スーパー銭湯へ行ってきてください!」


 と大声で叱り飛ばしたのだ。


「うわぁ!」


 早朝のオフィスに大きな雷が轟いたとき、気持ち良さそうに寝ていた神宮寺たちの体が、ビクン、と電気ショックを食らったように震えた。

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