116 プロモーションビデオ
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水曜日の幼コレのメンテナンス後、SNS上には次のようなつぶやきが流れていた。
幼コレ@公式アカウント(1/2)
「幼女コレクションの700万DLを記念して新キャラクターを実装いたしました。
《対象キャラクター》
巫女いのり(CV:瀬古いのり)
入手方法はヘルプからご確認いただけます。
参戦記念イベントを多数ご用意しましたのでぜひお楽しみください。」
幼コレ@公式アカウント(2/2)
「ショップに下記アイテムを追加しております。
・700DL記念パッケージ松(1,980円)
・700DL記念パッケージ竹(980円)
・700DL記念パッケージ梅(480円)
販売期間はxx月xx日 24:00までとなります。
1ユーザー様につきそれぞれ3回まで購入可能です。」
ユーザーの反応。
「声って社長なの?」
「PV観ろ。本物だぞ!」
「幼女フォーラムで実物見たから間違いない」
「どうした⁉︎ 声優を雇う金がないの⁉︎」
「いや、セルラン20位圏内だから!」
中には鋭い意見もある。
「パッケージがいつもより豪華……」
「ガルメモが登場したからお尻に火がついた!」
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ちなみにプロモーション映像はこんな感じ。
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ガサガサカザ……。
下草を踏む音からムービーは始まる。
鬱蒼とした森の中を駆け抜けていく巫女いのりと妖狐のコン。
見えない何かを警戒するように、コンは頻繁に後ろを気にしている。
『きゃっ!』
悪地に足を取られてしまった巫女いのりの体が宙に浮いた。
落下の衝撃で負傷してしまい、幼い足には一筋の赤い線が走っている。
迫ってくる異形の影。
殺気立つ妖狐は威嚇の声を放つ。
バシンッ!
死角からの一撃をもらったコンの体が巨木に打ちつけられ、巫女いのりの足元に力無く転がってしまった。
か弱き乙女の悲鳴が響く。
必死に立ち上がろうとして失敗するコン。
私が助けないと……。
でもどうやって……。
心の扉を内側からノックするように、巫女いのりの心臓が、ドクン、と強く脈打つ。
ドクンッ……ドクンッ……ドクンッ……‼︎
ふいに襲ってきた頭痛のせいで頭を押さえたとき、脳内に『もう一人の妖狐』の声が響いてきた。
『巫女に宿りし妖狐の血が……』
ぽう、と赤く発光し始める二つの眼。
『……今……目覚めるっ!』
青白い炎のエフェクトに包まれる彼女の体からは獣耳と尻尾が生えていた。
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大体、三十秒くらいの短い動画である。
PVに対するユーザーの反応。
「紙芝居w」
「PV=アニメ じゃないから」
「フレーム数の少ないアニメと思えばよろし」
中には好意的な意見もある。
「王道だけどこういうストーリー好き」
「他のキャラでもやって欲しい」
姫井いわく『予算的にはこれでも足が出ちゃった』らしい。
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メンテナンスが完了し、ゲーム環境をユーザーに開放したとき、とてつもない達成感と、泉のような充足感が同時に湧いてきた。
ギリギリの任務をこなしたという感慨に浸りながら、近くにいる先輩たちと抱擁を交わしていく。
「須田くん、この一年でとても成長しましたね」
姫井から最上級の褒め言葉をかけてもらったとき、嬉しさで目の奥が熱くなった。
「そうだぜ。殊勲賞があったら送りたいくらいだ」
神宮寺が手のひらを向けてきたので、俺は腰を落としてハイタッチを交わした。
「みんな、本当にお疲れさま! ちょっと気が早いけど、お祝いをしよう!」
社長が持ってきたのは、パーティーなどでお馴染みのクラッカーであった。
『いっせーのーせ!』で根元の紐を引っ張ると、仕込まれている火薬が爆発し、たくさんの紙吹雪が舞い落ちてくる。
一個のプロジェクトを無事に完遂した。
その瞬間を大好きな仲間と迎えるのは、サラリーマンの数少ない醍醐味なんだなと、つくづく思わされる。
「簡単なものしか用意できなかったけれども……」
出前で注文しておいたサンドイッチやオードブルが続々とテーブルに並んでいく。
各人の手元に配られたのは、黄金のように輝くノンアルコールのシャンパンだ。
「乾杯!」
一日限定のお祭りムードに全員が酔いしれた。
「今日は金一封が出ます」
まずは功労者の神宮寺から。
それから姫井、加賀美という流れで受け取っていき、とうとう俺の順番が回ってきた。
封筒の中には社長のポケットマネーから捻出した万札とは別に、それぞれの社員へと宛てた感謝の手紙が入っているらしい。
俺は便箋を開いてみた。
そこには丸っこい文字で『ご褒美をあげるね』と一文だけ認められている。
「マサくんにはいつも言葉で感謝しているから……」
ふと顔を上げると、産毛が触れそうな距離に社長の顔があった。
完全に油断していた俺は、全員が見守る前というのに、まんまと頬にキスをされてしまう。
また一本取られたな。
心の中で負け惜しみをいうが、もう一回キスして欲しいのが本音である。
「おい、ラブラブじゃねえかよ」
調子に乗った神宮寺の指笛が小気味よく響く。
「マサくん、私を看病してくれてありがとう」
全員がヒューヒューと煽ってくるものだから、社長の方まで炎にくべられた石炭みたいに赤面していた。




