外道
「敵、生体反応あり! ビーストの反応ではありません!」
小稲のその警告に、全員がいよいよか、と覚悟を決める。センサーに写っているのは2メートルほどの人型だった。
そいつは大トンネルの中を歩いていて、横穴にいる俺達には気付いていない。
そっと、穴の側から近づいてくるフィーンドを見た時、俺達は互いに顔を見合わせた。
「地球上の生物でない事は確かね。ビーストに失礼だわ」
全身、筋肉の塊の様なごつい体躯の頭部は、人型の様でありながらもそうではない。ハエトリグモの様に小さな眼を四つ持っていて、虫の様に下あごがあり、鋭い牙が生えている。その口からは涎が垂れ落ちていて、床上に落ちると白い煙を立ち上らせていた。
「小稲、データはとった?」
「はい」
「では、全員、攻撃開始。私とセトルは近接戦。アベリア、エルイルは後方より射撃支援。雪刃は状況分析、小稲はセンサーで他の敵の接近を警戒。いくぞ」
黒いトンネルの横穴から出てきた俺とカガネ隊長の姿を、奴は見逃さなかった。すぐに四肢を地面に着けて、四つん這いになると、一気に空を跳躍して飛びかかってくる。
「うっ! これじゃ撃てない」
アベリアさんが銃口を向けるも、フィーンドが着地したのはカガネ隊長の側で、撃てば味方に当たりかねない。
「なるほど、この為のXV1型か」
カガネ隊長の機体は急ごしらえながらも、俺のXV1式の格闘能力をエミュレートする形で導入されていた。
近接武器は持たないが、両腕とヘルメットの部分にパルス砲とエネルギーガンの銃口があり、射撃武器が使えない距離でも、容易に相手を狙う事が出来た。
目の前に着地したフィーンドに対し、青白いエネルギー弾を速射するが、相手はそれを両腕でガードし、一度距離を取る。相手が反撃してくるとは思わなかったらしく、2メートルほどの距離をとってから、下あごを開けてヘビの様にシュウウと威嚇していた。
しかし、それだけの距離があれアベリアさんの火器が有効に使える為、フィーンドは更に火力の高いビームマシンガンの攻撃に晒されることになった。
片足をかすめたBMGの弾が、その肌をえぐり取ったのを見て、慌ててフィーンドは壁に向かって走り、アベリアさんが撃てない位置へ潜り込もうとする。
「アベリアさん、左側に別の穴があります。そちらから撃てます」
「了解、そっちにいこっか」
近接射撃武器はどうしてもその銃口のサイズとエネルギーの消費量から、破壊力が無く、けん制にしか使えない。勿論、相手の目や怪我した部分を撃てば致命傷になるが、先ほどの様にガードされると弾かれてしまう。
それは以前に見たマキュリスの時もそうで、彼らはレーザーでは焼き切る事が出来ても、パルス砲やエネルギー弾、ビーム兵器などにはある程度の耐性を持っている様だった。無論、20ミリ程度の銃弾では傷一つ追わせるのも困難だった。
(相手の方が早いのか……でも、これ以上早く動けても、人間の身体の方がもたないしな……)
アベリアさんの重撃から逃げるフィーンドを追うも、距離がさほど縮まらない。こちらは所詮は機械の力を頼りにしていて、相手の様に純粋に筋肉での運動能力に長けている訳ではなかった。
なんとかカガネ隊長と挟み撃ちで追い込んでいくと、今度は向こうはこちらを向いて、威嚇をしてきた。カガネ隊長とは既に近接距離にて痛い目を見ていた為、今度は俺の方を狙ってみようという事だろう。その方が俺にとっても好都合だった。
「セトル、来るぞ」
「はい」
フィーンドは一度壁に跳ね、壁をパンチで殴って穴を開けて、そこに手をかける。こちらが壁を登れないという事は理解している様だった。
そして、その高さから両足に力を込め、壁を蹴ると、体当たりする様に俺に突進して来た。その左手が大きく開き、肉食獣の様な爪を持った五指が開いていた。それで俺の身体を引きちぎるつもりだろう。
相手は俺の事を何も知らなさすぎた。俺の右手の肘についている大型のレーザーマチェットが展開し、その刃に緑色のレーザー光を宿す。
左手と左足を床につき、右足は後方へ伸ばして踏ん張ると、俺は右手のマチェットを垂直に振り切り、突っ込んできた相手の胴体を二つに切り裂いた。
相手の肉を切り裂き、その内蔵を焼き切った手応えはばっちりあった。
『危険! 濃硫酸反応』
「げぇ!」
自分の頭上で切り裂いた敵から、血と体液が宙にまき散らされる。おそらく、胃液に相当する消化液が濃硫酸なのだろう。その飛沫が俺の身体にぽつぽつと降り注ぎ、白い煙をあげる。
慌てて伸ばしていた右足と踏ん張っていた左足で地面を蹴り、前方へ転がる事で最悪の事態を避ける事は出来た。
背後に内臓を撒き散らしながら床面に落ちたフィーンドは、あれだけの手応えがあったにも関わらず、肩から腹の部分までしか切り裂く事が出来てなかった。いや、上半身を切り裂いた時に濃硫酸の警告が出たので、そこで手を緩めて逃げたのが幸いした。そのおかげで敵を分断出来なかったが敵の体液の濃硫酸を被る事も無かった。
痛みからのたうち回る敵に対し、エルイルのライフルが、その頭部を一撃で吹き飛ばしていたのは、一応は情けからだろうか。
「セトル、大丈夫か?」
「セトル機、被害率、8%程度です」
「すいません、ちょっと調子に乗りました」
「無事なら良い。その程度の損傷なら、小稲に修理して貰え」
「はい」
「隊長! フィーンドの死体が!」
「ん?」
アベリアさんの通信に、頭部を撃ち抜かれたフィーンドの方を見ると、その身体がまるで傷口から燃える様にして、その場で灰になっていくのが見えた。
「フィーンドの体内で何かの化学反応が起こっています。おそらく、死ぬと一部の体液が反応を起こして自壊してしまう様です」
雪刃さんが解説しながら、俺達にデータを送ってくれた。濃硫酸を体内に含む敵は、その他にも何かの体液と混ざる事によって、身体が溶ける、もしくは分解されてしまうらしい。
「……エルイルさんが頭部を破壊したのは正解です。おそらく、彼らは死ぬ時には、有害な体液をまき散らす為に自爆するのだと思います。今回は先に頭部を破壊されたので、爆発せずに、自壊してしまっています」
床上に穴を開け、溶解してしまったフィーンドを見つつ、カガネ隊長が言う。
「死んだら自爆するというのは生物ではなく兵器だ。少なくとも兵士ではない」
その時は、俺は隊長が一体何を言っているのか、よく分からなかった。俺達が戦っているこのフィーンドも、ビーストと同様に兵器であり、生物では無い。そう言っているだけだと思っていた。




