コリドール78
高さ10メートルの巨大な門を中に入ると、左右に繋がる丸い大きなトンネルに入った。右を見ても左を見ても、深淵で先は見えない。
床も天井も黒い硬質な物質でコーティングされていて、足場はしっかりしているが、舗装されている訳では無いので、床面は凸凹になっていた。
このトンネルには高さ3メートルほどの横穴が無数に開いていて、それが通路の様になっていた。その通路の中もやはり硬質に塗り固められていて、まるで人工のチューブの中を見ている様だった。
この構造は今までのスキャンでは把握しきれず、マップを転送して貰っても、巨大なトンネルと、それを結ぶ小さなトンネルが無数に見えるだけだった。
「右から行こう」
カガネ隊長がそう指示した事に、特に理由は無かっただろう。俺達は武器を構えたまま、センサーで生体反応が近くに無いかどうか確認しながら、巨大トンネルの中を進む。
しかし、30メートルほど進んだ所で、トンネルの傾斜は上方へときつくなり、普通に歩いて登る事は困難な角度になっていた。
仕方無く横穴に入り、出来るだけ上へ向かう事を意識しながら、立体迷路の中を彷徨い歩く。
「何か、来ます」
丁度、小さなトンネルを出て大きなトンネルへと出ようとした時だった。全員が武器を構え、トンネルの壁に身を寄せてディスプレイのセンサーを注視する。
ゴゴゴゴ……と上方から地響きが聞こえてきたと思うと、それは振動に変わり、すぐに立っていられないほどの激震になった。
「な、何だ……このでかいのは?」
センサーに、巨大な生体反応の塊が、高速で近づいてくるのが表示されている。こんな巨大な生き物なんているのだろうか?
「皆、壁に掴まれ! 大きなトンネルを何かが通るぞ!」
カガネ隊長はセンサーとゴチャゴチャになっているマップの構造から、近づいてきている何かが、トンネルを通ってきていると判断した。
俺達は小さな穴の出口から 少し離れ、そして様子を伺うと、目の前のトンネルを轟音を立てながら黒い巨大な何かが、かなりの速さで通り過ぎていった。
そして、壁に開いている小さい穴に黒い体液をまき散らしていくのが見えた。
俺と隊長がすぐに、今、通り過ぎたのが何なのかを確認しようと出口に近づいたが、まき散らされた粘液は沸騰している様に湯気を上げながら急速に乾いていくのを見て、前に進む事が出来なかった。
「一体……何なんだ……」
今、起きた事を整理すれば、トンネルの中を何か巨大な生物が通っていて、その生物は黒い体液をまき散らしている。その体液が急速に気化し、硬質化してこの床面を作り上げているらしい。
「全員、迎撃準備!」
更にその巨大な生物は、何か小さな生物を吐き出しながら移動していた。センサーに反応している数は4匹、大きさはそれほどでもなく、形状は見るからに虫だった。
その虫が、小さい穴に入り込んできたのを見た時、俺は今、自分がどんな所にいるのかを理解した。
それは巨大なミミズの様な生物だった。アベリアさんがレーザーマシンガンで撃つと、あっけなくその回虫の様な生物は撃ち抜かれて、トンネルから抜け落ちていく。
他の3匹が別の方向に向かったのを確認して、出口から外を見ると、彼らのうち2匹は開いている穴の中へもぞもぞと入っていき、そして1匹は壁に食らいつくと、黒い硬質の壁を噛み砕きながら、新たな通路を作っていた。
「トンネルに出て、様子を見てくる」
カガネ隊長がそう言ってトンネルの外に出た後、周りの安全を確認して見回る。センサーにも生物反応は無い為、俺達にも降りて来るように言い、そして今し方出来たばかりの穴をのぞき込んでいた。
「つまり、このトンネルは、あの虫達が掘っていて、この硬い床面は親玉の体液が固まってできたって事か」
エルイルがそう言いながら、地面を軽く蹴っていた。
「という事は、アビスが作っている訳じゃないって事?」
そうアベリアさんがエルイルに尋ねると、エルイルはさぁ? という素振りを見せた。
「もしかしたら、こういうアビスなのかもしれません」
と雪刃さんが言うも、その想像は笑えるほど非現実的な事じゃないのは、目の前の風景を見ればわかる。
「あの巨大な生物が移動型アビスの更に生物として発展した姿で、小さい虫を産み出しながら、迷宮を作りつつ、その体液で修復もしている」
「そして、穴の中に入ってくる敵を倒し、この巨大な穴を降りて来る敵は、その巨大な親玉と出会う事になる」
一応は、アビスの発展した形と言えなくもなかった。しかし、あんな巨大な生物型のアビスをどうやって止めるのか、そしてハッキングなど出来るのか。そもそも機械ではなく生物だったらハッキングのしようもない。
「次は親玉の姿をじっくりと見る事にしよう。あとは、どうにかして上へと登るべきなんだが、どの道が正しいのか、さっぱりわからんな」
カガネ隊長がそう言いながらため息をついた。
「とにかく、横穴の中に入りましょう。この巨大なトンネルは、事実上逃げ場がないと思いますし」
アベリアさんがそう言うが、その顔は冷静さよりも恐怖で表情が強張っている様に見えた。
「アベリアは、虫が苦手か?」
エルイルがそう言うと、アベリアさんは黙ってエルイルの方をむいて強く頷いていた。
もしかしたら先ほど、即座に射撃をしたのも、虫が怖かったからかもしれない。
「映画でね、あるじゃない、巨大寄生虫とか、虫型異星人に食べられるやつ……ああいうの、子供の頃から苦手で……」
「想像上の生物にしろ、食べられたくは無いしな……しかも今、見た限りは、それが現実になってる」
「そうなの! あの虫に食べられるかと思ったの!」
「そうならない様に警戒は怠らないようにしよう。ひとまず、アベリアの言う通り、この巨大トンネルは親玉が来た時に、咄嗟に避けきれない。横穴を通りつつ、上へと向かおう」
小稲の情報では、今、居る所は2450階だが、上り下りしているので、正確な階数ではないという事だった。
途中、小さな穴の中で、何度か虫型と遭遇して撃退したが、彼らは噛みつく以外に攻撃する手段が無い為、あの虫だけでフィーンドを食い止めているとは考えにくかった。
「2500階からの補充組のビースト達はどこに行ったんだろう」
という俺の言葉を聞いて、カガネ隊長が少し苦い顔をした。
「追えば良かったな。すまない、完全に念頭になかった」
「いえ、俺も、今、そう言えばと考えた事ですから……この虫じゃフィーンドは殺せない。この虫達は自動補修機能の一端に過ぎない。なら、どんな奴が戦っているんだ? と考えたんです」
「……フィーンドを見かけないのも、気になりますね……私もセンサーは最大限にしているんですが……」
雪刃さんがそう良いながら上の方を見た。おそらく最前線はもっと上だ。そこに行くまでは比較的安全とも言えた。




