休み無き戦い
(りょ、両手両足!?)
その台詞を聞いて、俺は壁際に身体を寄せ、そのまま盗み聞きしてしまった。
「考えようによっては、ガーダーとしては、一番効率の良い身体になったとも言えますよ。右足が壊れてしまったのも、衝撃に耐えられないからだし、右手が動かなくなったのも、爆風を避けられなかった為ですし」
(あの時だ……)
カガネ隊長が怪我をした時、それ以上に比奈瀬さんは怪我をしていたんだろう。それなのに何も言わず、上まで俺達と共に行動していた。身体は完全に欠損しない限りは痛みは麻酔されるし、もし失ってもすぐにその部分は止血されて麻酔される。だから本人が言わない限りは骨折等をしても他人には分からない。
いや、小稲は知っていただろう。知っていて、でも、比奈瀬さんに口止めされていたに違いない。
あの、3500階のアビスを止めた時、小稲は物静かだったが、それは色々な事を知りつつも、誰にも言えないから、一人で黙って耐えていたのだろう。
(それにしても、両手両足を失って……)
心に何か突き刺さる痛みを感じた時、カーテンをあけて比奈瀬さんが中から出てきて、目があってしまった。
「あ……セトルさん……」
NCWをつけていない比奈瀬さんは両手両足が義手と義足になっていたが、人工皮膚のおかげであまり目立たなくなっていた。しかし、それよりも俺の目前にある、この豊かな二つの膨らみに、俺の視線はあまりにも正直に直視してしまっていた。
「あ、あの……見過ぎです」
「ごめんなさい」
胸元を閉じ、頬を染めながら俺の横を通り過ぎていく比奈瀬さんは、ごく普通の女性だった。
「盾をかまえている限りは、胸は守られるからねぇ」
とドクターも、困った様な顔で答えていた。
「彼女の言った事はわりと本当の事でね、言い換えるともう、彼女を強化する部位は無いんだよ。ガーダーとして、盾役として、彼女は最高の身体を手に入れたとも言える。そういう風に前向きに考えた方が良いのかもしれないね」
「こんな事を本人の前で言うのもなんだが……異常なのは君の方が遙かに上になりそうだしね」
「どういう意味ですか?」
「見に来たんだろう? XV1を」
「はい」
「あれはX6K形を元にした改良型だが、移動時のポテンシャルが他の機体とは別次元の速さになってる。三輪車とバイクぐらいの差だ。それにおいつく反射神経と、そしておいついたとしても身体を動かす事ができるかという運動神経の問題がある」
「あの機体には近接武器が多くて、銃器類は補助武器としてしかついていないのはその為ですか」
「うむ。あれは、敵に近づき、殴り、蹴り、斬り、こめかみに銃口を突きつけて撃つという殺戮マシーンだ。まぁDDシリーズは全部殺戮マシーンだがね、破壊兵器ではなく、生物をいかにして素早く殺すかという事に重きを置いている」
「フィーンドを倒すためですか」
「おそらくはそうだね。例えばマキュリスを相手にしたなら、あの機体なら簡単に倒せそうな気がしないか?」
「ええ、マキュリスは動きの遅い巨体の敵でした。近づき、斬り、その内蔵に弾丸を叩き込む事が出来るなら、手強い相手でもない様に思います」
「セトル君の射撃能力は、その動体視力と反射神経の賜だ。君なら使いこなせると思うよ。そして、私から言わせて貰えれば、君はとても優しい。比奈瀬君の様な仲間を守る為に君は全力を尽くすだろう。君の性格が鬼神ではなく巨乳好きで良かったよ」
「いや、巨乳が好きという訳ではないんですけど……魅力的ですけどね」
あやうく変な性癖にされる所だった。
目の前には研究用のカプセルに入ったXV1式があったが、今すぐに着る気にはなれなかった。いずれは着なければならない時がくる。それまでは、もう少し休んでおきたかった。
「3000階から3500階までは、敵の反応がないのか」
「はい。調査しましたが、敵の気配はありませんでした。その代わりに太陽系軍の犠牲者達の遺体が二小隊分あったのみです」
「3000階を突破して、3500階に逃げ込んだが、そこで殺されたのか」
「もしかしたら、ですが、3500から3000階は、あのNCW形アビスが管理していたかもしれません」
「そう考える方が、納得がいくな。あのアビスは、奇策が通じたからこそ倒せたが、もし正攻法で攻めていたなら、時間と犠牲者が増えるだけだった。敵の数から考えても、3000階を中心に上下を守っていたと見て間違いないだろう」
「時期を見て、序々に前線基地を大きくしていきたいが、今は資材も人材も不足している。しばらくは現状を維持するしか無い。報告ご苦労、下がってくれ。あと、カガネ隊長を呼んでくれ」
「では、失礼します」
調査兵が去った後、数分後にカガネが入室し、アサリナ大佐に敬礼をする。
「カガネ、入室します」
「怪我は?」
「鼓膜が破れましたが、今時分の医療なら鼓膜は治りますから」
「そうか。小隊が動けるなら、3000階の偵察を頼みたい。まずは3001階までの調査を行ったのだが、敵は存在しなかった。おそらく3500階のアビスが上下1000階を防衛していたと思われる」
「問題は3000階だが、センサーに生体反応があった為、すぐに退却させた。フィーンドが3000階にいる可能性がある。そして3000階にもアビスは存在する筈だ。詳細な情報が欲しい」
「分かりました。全員の健康状態を見て、連れて行ける者を選抜します」
カガネ隊長に呼ばれ、全員が集合したのを見て、隊長は小さく笑った。
「皆、健康そうで良かった」
「隊長は大丈夫ですか?」
小稲に聞かれて、隊長は大きく頷いた。
「セトルは何故NCWを着ていない?」
「今からラボに受け取りに行きます。出撃まで預かっていてもらったんです」
「そうか。では各自NCWに搭乗して武装後に出撃ゲートに集合」
という命令に応じて集まってみると、皆の装備は大きく変わっていた。
まずアベリアさんはチェーンガンではなくパルスライフルを持っていた。しかしそれは連射形のパルスガンで、威力も弾速もケタ違いになっているそうだった。
カガネ隊長もアサルトライフルを持っていたが、弾薬はプラズマ粒子になっていて、よくわからないとぼやいていた。
エルイルのスナイパーライフルは細く、短くなっていて使いやすそうになっていた。
小稲の機体には六連装の小型ミサイルがついていて、タンクのロケットランチャーから弾を取らなくても良いようになっていた。
雪刃さんは頭部に俺の機体と同じパルス砲がついていて、肩に青白い光を放つユニットを装備していた。自己防衛用のバリアだそうで、詳細は教えてくれなかった。
比奈瀬さんは両手足の装甲が強化され、見た目に強そうなガーダーになっていた。両手足が機械化された事で、重装備が出来る様になった恩恵だった。
俺の機体に関しては、色々と変更が多すぎて、新機種を貰いましたとだけ言っておいた。
「ではカガネ隊、これより偵察任務に入る。目標は3000階。情報では生体反応があったと聞いている、十分に注意しろ」




