セトル専用機、XV1
雪刃さんがぶつぶつ言っているのは、どの番号とどの番号を繋げるかを確認していて、それはつまり一回に一本ずつ接続しているという事だった。あと2万以上もそれをしていたら、俺ならきっと根負けするだろう。
しかもこのアビスのNCWは壊したが、ハッキングは終わってない以上、自動防衛装置との戦闘は続いている筈だった。そう考えると、一刻も早くハッキングは終わった方が良かった。
それから30分の後、ハッカーを含む一小隊が登ってきて、雪刃さんを手伝ってくれる事になった。
「エルスです、遅くなりました」
「あー、エルスちゃん来てくれたんだ、良かった……」
「雪刃先輩、大丈夫ですか? かなり疲れてますよ? ちょっとお休みになられた方が」
「うん……でも、まだあと19000あるの……」
「げっ、なんですかこれ、ズタズタになったニューロンサーキットの復元ですか!?」
「オルフェ中佐がそこまでは揃えてくれたの」
「えー! 2万のつなぎ目をいったい何億のニューロンから選り抜いたんですか……」
「うん、だからオルフェ中佐の方が遙かにすごい事をしたわけ。あとは繋ぐだけなら、やるしかないでしょ」
「はぁ……そうですね、頑張りましょう……」
ヘルプにきたハッカーは雪刃さんの後輩らしかった。そしてその会話からすると、オルフェ中佐は神がかりな事をしたらしかった。
「大佐……下は、だいたい沈黙させましたが、ここはどうですか?」
「なんとか、掃討した。下の連中には世話をかけたな」
「いえ、相手が途中でただの警備ロボットレベルに動作が変わったので、そこからは楽でした。センサーさえ潰せばいいだけですからね」
「そうか。ここも時間の問題だから、最低人数だけ残して、まずは怪我人と疲労した者達をつれてメインベースにつれて撤退してくれ」
「大佐もお戻りになった方が……」
「私はいつもの事だ。それに、今は楽にしてるよ」
「了解です。では、適宜、連絡係だけ残して、怪我人と疲労度の高い者を連れてメインベースに撤収します」
「頼む」
男性兵士は敬礼すると、すぐに走り去っていった。やはり、このチームに女性陣が多いだけで、全体としては男性兵の方が多いのだろう。
ここにいるだけでも女性はアサリナ大佐、オルフェ中佐、小稲、雪刃さん、アリシアさん、アベリアさん、比奈瀬さん、古川さんがいて、そこにエルスさんという女性ハッカーも加わった。男性は俺とエルイルだけだった。
それから一時間して、オルフェ中佐も起きると、しぶしぶ作業に参加していたが、それから30分後には作業を終えてしまった。
「やっぱオルフェ中佐はすごい……」
「迷い無く繋いでましたよね、全てが見えてる感じでした……」
「まぁ……私はそれぐらいしか能がないから。それで許してよ。はい、これでこのアビスは完全に安全になりました。そして、あそこにあるのが、セトル様のNCWです」
アビスの一部に整備ボックスがつけられていて、その中に焦げ茶色のNCWがあった。ケースを開いて見ると、焦げ茶部分は皮革の様で、見た事も無い素材だったが形自体はX零式と同じだった。ひとまず今来ているNCWを脱ぎ、そちらに乗り換えてみると、胸の所のプレート銘にXV1という形式名が浮かび出た。
「あれっ、この機体……」
「どうだ? その機体自体は新しい物の様だが?」
「こ、これ……内蔵武器しか選べないんです。オプションでいちおうBMGも持てますが……メインウェポンじゃないんです」
「メインウェポンは?」
「ビームマチェット、光子砲、プラズマ放射器、チャージパルスキャノン、パルスシールド」
「……フィーンドを殺すための武装か」
「その機体のテクノロジーは、メインベースで研究した方が良さそうだな。さて、どうする。敵が来る気配は無いが、一度戻るか?」
「小稲、スキャンしてくれ」
「はい、えっと、スキャンはしてあるんですが……3300まで敵の反応はありません。代わりに、いくつかの味方の反応が……」
「味方の反応?」
「あの、でも、生命反応はないんです。おそらくNCWのバッテリーがまだ生きているだけで……」
「……落ちてきた太陽系軍の兵士と同じか……わかった。今はとにかく戻ろう。メインベースに連絡して、ここに前線基地を作る為に2小隊を派遣してくれ」
3500階から4000階に戻るのは、メインシャフトエレベーターを解放する事で簡単に戻る事が出来た。大佐をはじめ俺達は英雄扱いで基地に戻り、そして、まずは今回の勝利を祝うと共に、治療と休憩をする為に眠りについた。
俺が眠りについている間、XV1式はラボラトリーで研究され、新しい武器の開発のヒントにもされていた様だ。
今回は皆、極限まで疲れていたらしく、殆どの者が二週間近くポッドの中で眠りについていた。途中で、一度起きる事があって、ラボを見に行ったが、ドクターからまだ休憩が必要だと言われて、XV1の事はあまり話して貰えなかった。
機体の全身に、まるで装甲の様に皮が張り付けられているのだが、その成分が特定出来ず、研究は行き詰まっていた。武器に関しては、従来の光学兵器の延長であり、小型化と威力の増加とエネルギー効率が参考にされ、現在の武器の強化に繋がるそうだった。
俺はポッドの中でうつらうつらとしながら、あのルゴール博士という老人の事を思いだしていた。あれは俺が初めて見る地球人だった。幼年学校から見ていた映像資料の人間達やミシュテカの人々と何も変わりの無いただの人間だった。
俺は……このミシュテカに住む人達は、C9という星で産まれた人間だが、遺伝子は地球人から受け継がれている。俺達は地球人なのか、それとも宇宙人なのか。その違いは一体何によって決められるのか。
ミシュテカの人間とネクスターの人は違う。更にメインベースでサイボーグ化された俺達はもうただの人間では無い。おそらくミシュテカに住む人達は、俺達ネクスターを見て怯え、警戒し、避ける事だろう。でもそれは、一般の人達が軍に勤める軍人を見て怯えるのと変わりない事かもしれない。
『お前は特別なんだ。お前が未来を変えるんだ』
「…………」
そんな事を言われた記憶なんて無いのに、あのルゴール博士にそう言われた様な気がして、嫌な気分になってポッドから出た。
体調のデータをみると86%。まずまず元気は戻ってきている。普通に一仕事ぐらいはできるだろう。
改めて、あの機体を見に行くためにラボに入ると、右手に比奈瀬さんの後ろ姿が見えた。
「比奈瀬さん、もういいでしょう。両手両足を失って、それでもまだ続けるんですか?」




