過去からのメッセージ
「はぁ……」
ため息をつきながら、オルフェ中佐がアビスの中から身体を引きずり出す。
「ハッキングは出来たのか?」
「まだダメだ。今、NCWとの接続を切った。皆、急いで解体してくれ。どういう意味かは分かるな? 中で生きているアビスは傷つけずに外装甲だけ外すんだぞ」
オルフェ中佐はそれだけでも疲れ果てたという様に、地面にへたり込んでしまった。俺達は中佐が潜り込んだ所を中心にして、解体作業を進め、どんどん内側へと掘り進んでいく。工兵作業に一番特化してる小稲が中に入れるようになると、格段に解体速度は速くなり、俺達はせっせと鉄くずとなったアビスのNCWを横の方へとどけていく。
「見つけました! これですね!」
小稲の明るい声がして、中から出てくると、オルフェ中佐が代わりに中に入る。
「でかした! これでハッキングできる!」
「あと15分で最初の4機のジャミングがきれます」
「全員、東の奥へ向かおう、オルフェのハッキングが完了するまで耐えるぞ」
マキュリスが床を突き破ったのは、現在地から見て東の奥側だった。そちらへ駆け寄ってみると、無数とも思える自動警備兵器が重なり合うようにして固まっていた。
「ボマーとタンクを狙え。誘爆で倒すぞ」
アサリナ大佐の号令と共に、全員がまずボマーとタンクに狙いをつけて射撃する。程なく大爆発が起こり、四つ目のジャミング装置まで壊れてしまった。
数台のタンクはまだ生き残っていて、放たれたロケットランチャーを避けながら、処理していく。
機体と機体の隙間にいるタンクのロケットランチャーにも弾を撃ち込み、無理矢理にでも誘爆をさせていくと、20体近くのローグタイプが自由になり、こちらへと疾走してきた。
初めてローグタイプに接近されたのだが、この機体は、攻撃範囲に入ると突然鋭いレーザーナイフを突出させ、敵を刺し貫くという近接戦闘タイプだった。
こんなのが頭上から降って来られたら、まず助からない。一度目の侵攻作戦の時、この機体に奇襲されて二人が死んだと聞いたが、その死に様がどうだったか、今は想像出来る。
「くそっ……多い!」
とにかく、数が多い。ローグタイプは脆いが素早く、しかも接近されたら即死させられる危険もある敵だった。この敵と戦いながらも、4足、ガーダーの相手をするのは、さすがに難しい。
「ローグは私がなんとかします。セトルさんはまずガーダーをお願いします」
比奈瀬さんがそう言い、俺にとりついたローグをレーザーブレードで切り落としてくれた。ガーダーがガーダーとやり合うのが一番効率が悪いと比奈瀬さんがいうので、俺は4足とガーダーのセンサーを優先して貰う事にする。
「パルスボットがいる、エルイル、撃てるか?」
「もう少し近づかせてから撃ちます」
ゆらゆらと宙を揺れながらこちらに来るパルスポッドが、敵の一番多いところに来た所でエルイルが発砲し、ポッドを破壊してプラズマ雲を発生させる。
その間に各人は弾が無くなるまで射撃し続けていた。
「ジャミング、終了します」
小稲の報告に、アサリナ大佐が舌打ちをする。ここはいい。しかし下はどうなる? 怒った所でオルフェ中佐が手を抜いている訳でも無い。各人、今は生き残る事を考えるしか無かった。
最初に設置した4機のジャミングも終わり、俺達がオルフェ中佐の所へ戻るも、オルフェ中佐はわりとのんびりとハッキングを続けていた。
「んー……これは、こっちかなぁ……うーん」
「ハッキングはどうなっている!?」
「6割という所だ。まだ時間がかかる」
「くそっ、ジャミングがきれた、下の様子を見てくる」
アサリナ大佐が怒気のこもった声でそう言うと、オルフェ中佐が呆れた様な声で大佐を止めた。
「このアビスのNCWは壊れてるから、もう下の敵はただの警備装置でしかないぞ」
「あっ……」
「あれっ?」
今、俺達は一生懸命、ジャミングに絡まっていた敵を一掃したのだが……。
「そんなことしてたのか!? なんで!」
「すまない。私が焦ったんだ……」
「まぁ、無数の敵に一度に来られても対処に困る。先手を打ったのは正解だろう」
「そ、そういう事にしておいてくれ」
事実、アサリナ大佐は焦ってはいたが、あれだけの数の敵が居たのだから、懸命な判断だっただろう。そしてオルフェ中佐の言葉通りなら、俺達はこのアビスのNCW部分を停止させた時点で、ほぼ勝利した事になる。
「……おっ? こ、これは……」
「どうした、オルフェ?」
「過去の映像データがメモリに残っている……というより、これは意図的に残された物だ。雪刃。この部分のデータを保存しておいてくれ」
「了解。データをピックします」
「あとセトルよ。お前用のNCWを見つけたが、ハッキングが終わるまで待ってくれ」
(そう言えば、そんな話があった……)
両親がネクスター様のNCWを3500に残すとかいうメッセージをオルフェ中佐が見せてくれた事があった。
「映像と、そのNCWは関連があると思うぞ、なんとか再生出来ないか?」
「やってみます」
雪刃さんはそう言うと、そのまま沈黙した。そして30秒も立たずに出来たと言った。
「まずは大佐と中佐に転送します」
「ああ、私は後にしてくれ、今はハッキングに集中したい」
「了解」
大佐は雪刃さんからもらった映像を一通り見ると、ため息を一つつき、皆にも見せて良いと許可を出した。
それはノイズまじりの古い映像で、一人の白衣を着た博士のメッセージだった。
「私はドクター・ルゴール。このアビスの開発責任者だ。アビスは完璧だ。アビスが生きている限り、ミシュテカは守られるだろう」
「フィーンドは強い。しかも進化している。しかしこちらも研究は続けている。いつか地球人はこのC9の地上に平和を取り戻すだろう。その為に私は研究を続ける」
「フィーンドに対抗する手段を見つけた。これでもうミシュテカが襲われる事は無い。私は勝った。たとえ狂人と言われようとも、私は奴らに勝ったぞ」
これとは別に、例のメッセージが音声だけ残っていた。父と母をネクスターに持つ子供の為に専用のNCWを作った。という奴だ。
「このルゴール博士って、もう死んでるんですよね?」
「100年以上前のデータだな。地球で延命技術が成功していたら、生きているかもしれないが、普通は死んでいるだろうな……っとよし、もう殆どハッキングは出来た」
「はー疲れた。あとは雪刃がやって。面倒な所は全部残して置いた」
「了解です……げっ! このニューロンサーキット、全部私が繋げるんですか!?」
「もう疲れたのだ。それを繋げたら終わりだけど、もう疲れたのだ」
「うう……わかりました、頑張ります……」
オルフェ中佐は本当に疲れたのだろう、そのまま横になるとNCWを来たまま眠ってしまっていた。
そしてその横で、ブツブツと独り言を呟きながら、雪刃さんが何か大変な作業を続けていた。
「ハッカーって、オルフェ中佐と雪刃さん以外にはおられないんですか?」
「もう一人いるが、かなり下だな……雪刃、応援は必要か?」
「いえ……単純作業ですから……時間があれば、一人で出来ます……あと2万2000本ぐらいの数のミクロンの糸を結んだら終わりです」
「一応……応援を呼ぶ事にする」




