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NCWを着たアビス


――BF3600


 気がつけば、俺達は目的の3600にまで到達していた。ただひたすらに黙々と前進する事で先に進めたのは、ここまでの作戦が成功しているからだった。


「3600設置、起動します」


「……ここからは、私達次第だな……」


 オルフェ中佐が腰に手を当ててそう言った。その隣に立つアサリナ大佐の胸ほどしか身長がなかった。後ろから見たら、やっぱり子供にしか見えなかった。しかし、同じ小柄なイメージを持つ雪刃さんと見比べてみると、雪刃さんの方が更に小さかった。

 おかげでアサリナ大佐と比奈瀬さんとシアリカさんがとても大人に見えるのだが、彼女達も女性としては平均的で、飛びぬけて背の高い方では無かった。


 カガネ隊長が居ないのがどうしても気になる。隊長が居ない以上、今はアサリナ大佐がこの2小隊のリーダーだった。


「これより3500階アビスの攻略を開始する。我々の第一の目的はオルフェと雪刃の両名のハッキングを成功させる事だ。それを邪魔する敵は全て排除する。ハッキングに何時間かかろうが、完了するまで撤退する事は無い」


 俺達が失敗すれば、ここまでにジャミング装置を護衛している人達も全員が死の直面に晒される。当然俺達自身が生きて戻る事も無いだろう。自分で提案した作戦だったが、本当に多くの人を犠牲にして、その屍の上を乗り越えて前を進む作戦になってしまった。

 こういう時、カガネ隊長は俺のプレッシャーを和らげてくれる様な言い回しをしてくれる事が何度もあったが、アサリナ大佐にはそんな気配は微塵も感じられなかった。最初に機械の様なクールな女性だと感じたが、今もそれは変わらなかった。


「3500階までの最短距離を走る。三箇所、天井に穴があり、そこを登る事になる。敵は基本的に無視して走るがボマーとタンクは処理する。では前進開始!」


「行ってらっしゃい!」


 3600階のジャミング装置を護衛する6人が、俺達に敬礼をして見送っていた。

 基本的ににアサリナ大佐についていくのみで、前方に敵が居れば破壊、あとは周囲への警戒を怠らない事、それだけだった。

 迷路の中を走り、角を曲がり、障害物を越え、一部の天井に開いた穴を上がって先へ進む。ある程度進んだら、後続との距離が離れすぎていないかを確認し、隊列を維持して進む。

 途中、ボマーが遠くに見えたが大佐は無視して先へと進んだ。すぐ近くに上への穴があり、追ってこられないと考えての事だった。

 3560まで登った時は、ガーダーと直面したが、驚いた事にオルフェ中佐は眼前でパルスガンを撃って痺れさせると、そのままセンサーを片手で掴み、数秒でハッキングして味方にしてしまっていた。

 ハッカーとはそんな事まで出来るのかと雪刃さんに聞いたら、自分には出来ないと言っていた。オルフェ中佐が同行しているのは、何か特別なハッキング能力をもっているかららしかった。

 その後3530まで敵に出会う事は無く、三つ目の天井の穴を抜け、3529階へ。パルスボットが居た為、遠くから破壊して、プラズマ雲の効果が切れるまで待ち、再度前進。

 3520階を通過、3510も通過し、とうとう3500のフロアに出た。


「止まるな! オルフェと雪刃を護衛しつつアビスまで走れ! こちらの動きは全てばれている!」


 大佐の言う通り、フロアのあちこちにいた警備ロボットが迷うことなく俺達の方に向かって来ていた。タンクとボマーだけは最優先で処理する必要があり、遠くに見えるアビスを見つつも、真っ直ぐには近づけなかった。


「エルイル、あれ!」


「お、おう!」


 走っている時、俺は天井や一部の柱に、不自然な棒が飛び出しているのを見つけた。そのうちの一つを撃って壊すと、雷光を放ちながら折れる。

 エルイルが遠方の金属棒を吹き飛ばすと、その一帯にあった金属棒がショートし、そしてその下にいたロボット達が同士討ちを始めた。


「あれはアンテナか!」


 オルフェ中佐がそう言い、他の者にもアンテナを破壊する様に指示する。

 皆が自分の持っている武器でそれらしい物を撃って壊すが、全てが効果があるわけではなく、しかし、壊して悪い事も起こらなかった。

 遠くでボマーが自爆し、そしてタンクが別の敵と戦い、パルスボットが爆発する。完全に混乱している所もあれば、まだこちらに向かってくる敵も居た。

 アビスまであと50メートルほどまで近づくと、なるほど、無数とも言えるほどに、アンテナが各所に着き出している。このアンテナ群を使って、ネットワークを構成し、各警備ロボットに指示を出しているのだろう。

 だから重要な一本もあれば、単なる電波の通り道でしかないアンテナもあったらしい。それらのアンテナを折りつつ、付近の敵を掃討しつつ、ようやくアビスの元へと辿り着いた。

 例の如く、アビスはレーザートーチ等で自分自身を防衛するが、それを壊して円筒の側面に二人が張り付く。

 このアビスは高さ6メートルほどの円柱型をしており、上中下の三つに別れて稼働していた。一番上は天井にアームを伸ばして作業をしていた。中央部からは8つの角状の鋼材が突き出していた。おそらくは電波を発信しているアンテナだろう。しかしこれを簡単に折る事は出来そうにないので、他の細いアンテナを壊す事にした。


 アビスの向こう側に回ったアベリアさんとエルイルはシアリカさんと小稲のサポートを受けながら、射程限界付近のボマーとタンクを狙っていた。そしてアビス近くの敵はアサリナ大佐と俺と古川さんが処理し、近づき過ぎた敵は比奈瀬さんが片付けていた。

 やがて、ハッキングよりも先に、アンテナを全て壊してしまった事で、敵の動きは止まってしまい、二人の護衛は格段に楽になった。


「…………」


 二人とも片時も休む事無く手先を動かして、アビスの回路部分を操作し続けていた。一箇所が終われば別の箇所に移動してハッキングを行い、一部の装甲をレーザーナイフで焼き切って中の方にも手を差し込んでいた。


「……これはまずいな、ハッキングできない」


「オルフェ、どういう事だ?」


「このアビスはこれ自体がNCW化されている。つまり、アビスの本体が中心核に存在し、その周りを囲んでいるのは鎧だ。今、私達がハッキングしていたのは、NCWの部分だからいくらやったところでアビスが停止するわけじゃない」


「このアビスを停止させるには、NCWを脱がさないといけない」


「脱がすって、どうやって……」


「とにかく、外側から壊していこう」


 という事になり、俺達は皆で近接武器を持ち、外壁を切り裂き、中の回路を引きちぎり、周りへと捨てていくという解体作業をする事になった。


「ジャミング終了まであと1時間半です」


「面倒だなぁ、アビスそのものを壊したら大変な事になってしまうしなぁ」


 とオルフェ中佐はぼやきながらも、その手は止めずに解体し続けていた。アビスが停止すれば、物資補給も修繕も行われなくなり、地下のミシュテカが滅亡する。このアビスは俺達にとっては敵であると同時に、ミシュテカにとって大切な存在だった。

 さてどこまでが本体で、どこまでがNCWなのかも分からず、解体作業を続けていたが、ある程度まで外装を剥がした時、オルフェさんが届いた! と歓喜の声をあげた。

 彼女の上半身はアビスの柱の横につきささっていて、ここからだとお尻しか見えない。しかしこの先で彼女は必死でハッキングをしているに違いない。

 今、下手に外装を壊してオルフェ中佐の邪魔をするのも怖かったので、俺達はひたすら待った。

 そして大体40分が経った時、アビスの電源が落ちた様に暗くなった。



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