カガネ隊長の撤退
「3800階、ここに設置します」
「頼む」
カガネ隊長と共に上から来る敵を撃退していたが、スロープの先はバリケードになっていて、この吹き抜けのフロアを抜けるにはそこを通らなければいけなかった。
「ジャミング、開始します」
ブィィィンというモーター音と共に、ジャミング装置が震えだし、電波妨害を行い出す。するとバリケードに隠れていたパルスボットがふわふわと姿を現した。
「おっ!?」
慌てて俺がパルスボットを破壊すると、案の定 プラズマ雲が放出され、後に続いて出てきた4足機やローグ、そしてタンクが混乱して落下していく。
「タンクやっべぇぇ……」
今、先にタンクが出てきていたら、俺達はどうなっていただろうか? 比奈瀬さんがなんとか耐えてくれたかもしれないが、それでも無傷という訳にはいかなかった。
しかしジャミングしている以上は敵の正確な姿は見えないし、バッテリーの熱量だけでは、どれがタンクは見分けがつかない。
「パルス弾、入れますから、突入お願いします」
雪刃さんに言われて、カガネさんと比奈瀬さんが頷く。雪刃さんは天井に当てて跳弾の9要領で手榴弾を放り入れると、バジィィンという電子爆発音がした。
すぐに隊長が飛び込み、急いで俺も飛び込んで前後左右の敵を確認する。
「ボマー!」
カガネ隊長はそう叫ぶと、俺を比奈瀬さんごと蹴飛ばしていた。
「た、隊長!?」
俺は比奈瀬さんの頭上を転がる形でなんとか彼女の背後にしがみつき、目の前で大爆発が起きるのを見る事しか出来なかった。しかも爆発は何度も起こり、このフロア全体を大きく揺るがしていた。
比奈瀬さんの盾のおかげで、外部にいる者は全く無傷だったが、俺を蹴飛ばして中に逃げた隊長が心配だった。
「隊長!」
「……ああ……ちょっと失敗したな……」
隊長はバリケードの影に隠れて難を逃れていたが、ヘルメットの半分が黒く焦げていた。3800階に登ってきた比奈瀬さんとアベリアさんが、左右の敵に対して応戦し、エルイルも続いて登ってくる。
その後に小稲が隊長の所までやってくると、首を横に振った。
「首から上、左半分の機能が全部壊れています。首と左耳に痛みはありませんか?」
「すまない、左耳はちょっと聞こえない」
「すぐに降りて医療班の治療を受けて下さい」
「わかった……」
そう言うとカガネ隊長はフラフラと一人で立ち上がろうとしたので、あわてて肩を貸す。
「隊長を下まで送って来ます」
「お願いします」
「よし、私達はここでアサリナ大佐が戻るまで待機しよう」
アベリアさんがそう言って、通路の奥へと銃口を向けていた。
スロープを使って下へ降りると、他の兵士達が不安げな顔で隊長を見送っていた。3900まで降りると、アサリナ大佐とオルフェ中佐がいて、すぐにカガネ隊長をベースへと運ぶように指示を出した。
「上へ戻ろう。時間に余裕は無い」
アサリナ大佐はそう言い、ここからはオルフェ中佐も同行し、古川さんとシアリカさんも含めて小稲達の所へと戻る。
3799階。敵が作った迎撃用の吹き抜けフロアを抜けると、見慣れた鋼鉄の迷宮の中に戻る。地図はあらかじめスキャンできているが、ジャミング装置が作動している以上、敵との戦闘は出たとこ勝負だった。
たった今、カガネ隊長がギリギリで助かった様に、一番厄介なのはボマーだった。パルスボットも厄介だが、タンクとボマーの炸裂弾は人一人を簡単に殺してしまう。
それを見分ける手段が無いまま、あと99階を進み、3700階に次のジャミング装置を仕掛ける必要がある。
「カガネを後退させたのは痛いが、この爆発はかなり私達に有利になったな」
オルフェ中佐が、爆発した穴を見上げてそう言った。一体どれだけの誘爆があったのか、先が見えないほど、天井は爆風で貫かれていた。
同時にこれだけの大きな穴があけば、ジャミング装置を引き上げて直接上へ登る事が出来る。装置自体は巨大で重いが、迷路の中を引きずっていくつもりだった事を考えれば、遙かに楽だった。
その縦穴は3799から3731と60階分にわたって縦穴をつくってくれていたが、登っていくにつれて、何が起こっていたのかが分かると、うんざりとした気持ちになった。
アビスはこの3800から3700までの迷宮にタンクとボマーを大量に配置し、適宜突撃させるつもりだったのだろう。それがジャミングによって前線がどうなっているのか判断がつかなくなり、ここに待機したままになっていた。
そこに飛び込んできたカガネ隊長が最初のボマーを爆発させると、その誘爆で別のボマーが爆発し、さらにタンクが積んでいたロケットランチャーが誘爆し、そして更に広範囲に爆発をまき散らすといった、敵にしてみれば最悪の事態が起こった。
あの時、カガネ隊長の判断がもし遅れていたり躊躇したりして、ボマーが吹き抜けに出てくる事があったなら、こちらが大惨事になっていたのは免れない。おそらく、カガネ隊は全員、あそこで吹き飛んでいただろう。
(俺に、そこまでの判断力はあるだろうか……)
ただ敵を倒すのがうまいだけじゃどうにもならない。もちろん、そういうスキルをもった俺を必要としてくれる人達が居るのは分かる。でも俺はその人達を助ける事が出来るのだろうか? 自分一人が生き残るのが精一杯で……それは皆も同じ気持ちを持ってるってのは分かっているけど……それでもカガネ隊長の様に、瞬時の判断が皆を救う事が出来る人はやはり希で、だからこそカガネさんは隊長と呼ばれるのだろう。今の俺は、ただのゲーム野郎でしかなかった。
――BF3730
ジャミング装置をここまで引き上げた後、本隊の兵士も上へ上がりやすい様に簡易のはしごを作る。上方でのスキャンでは、3700の敵は4体。3600階にまで3体の敵が確認出来た。ジャミング装置がその効果を失えばもっと増えるだろう。
3700にジャミング装置を設置すれば、あと残りは一台のみ。それを発動させた後は、3500階のアビスへと突撃する。
最初に起動させた四つのジャミング装置は、そろそろ時間がきれる頃だった。
「3700、ジャミング設置、起動します!」
迅速に30階を登った俺達は、場所を選ぶ余裕などなく、手近なところでジャミング装置を起動させた。でなければ、3600階の敵が来てしまう。
吹き抜けを抜けた後の兵士達の疲労も、かなりの物になっている。逆に下でジャミング装置を守っている兵士達は、倒す敵がいなくなって、楽になった事だろう。
しかし、それも、上のアビスを止めなければ、全てが水泡に化す。
ひたすら迷宮の中を進み、マップを見て道を確認し、上への道を探し、敵を倒す。そういう繰り返しのゲームを思い出しながら、俺は無言で先へと進んでいた。
今は、これが自分に出来る最大限の事だった。いち早く敵を見つけ、そして被害を受ける前に倒す事、それを出来る限り完璧にこなしつづける。俺はゲーム野郎だが、今居るのは現実の無限迷宮の中だった。




