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俺が書いたラブコメが現実になっている件について、完璧な生徒会長は何も知らないふりをする  作者: ウイング神風


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19/21

底辺作家の俺、ついに書籍化の打診が来ました!

 カタカタカタカタ。


 放課後の文芸部室に、キーボードを叩く音が響いていた。


「……よし! 今日の更新も完了!」


 俺、桜庭悠馬は、ノートパソコンの前で大きく伸びをした。


 現在、俺が連載しているWeb小説。


『俺の人生はラブコメ展開らしい』


 この作品は、最近になって大きな変化を迎えていた。


 そう。


 ついに、読まれるようになったのである!


「……ふふふ。今日のPVは、っと」


 俺は、投稿サイトの管理画面を開いた。


 そこに表示されている数字を見て、思わず目を見開く。


「……い、一万!?」


 累計PV、一万突破。


 一万である。


 十でも、百でも、千でもない。


 一万!


「……うおおおおおおっ!」


 俺は、思わず椅子から立ち上がった。


「一万PVだあああああ!」


 ……すごい。


 これは、本当にすごいことだ。


 少し前まで、俺の小説は一日一PVあれば喜んでいた。


 更新しても、誰にも読まれない。


 何時間もかけて書いた話が、誰の目にも触れない。


 そんな日々が、当たり前だった。


 それなのに。


「……一万PVって、マジかよ」


 俺は、何度も数字を確認した。


 更新しても、一万。


 もう一度更新しても、一万。


 ……夢じゃない!


「……もしかして、俺」


 ごくり、と唾を飲み込む。


「……ラブコメ王になれるんじゃないか?」


 いや、まだ早い。


 さすがに早すぎる。


 一万PVでラブコメ王を名乗ったら、本物の人気作家たちに怒られそうだ。


 でも。


 少なくとも、俺の物語を読んでくれる人が増えている。


 それだけで、胸がいっぱいになった。


     ◇ ◇ ◇


 きっかけは、文化祭のあとに投稿したエピソードだった。


 主人公とヒロインの別れ。


 それまで順調に恋愛を重ねていた二人が、それぞれの夢のために別々の道を選ぶ。


 そして、主人公は新しい場所で、新しいヒロインと出会う。


 正直、投稿するときは怖かった。


 せっかく結ばれた二人を別れさせるなんて、読者に嫌われるかもしれない。


 そう思っていたからだ。


 しかし、結果は予想外だった。


『別れのシーンで泣きました』


『主人公の夢を応援するヒロインが切なすぎる』


『新ヒロイン、めちゃくちゃ好きです!』


『最初のヒロインにも幸せになってほしい』


 感想欄には、今まで見たこともないほどのコメントが並んでいた。


「……すげえ」


 俺は、一つ一つの感想を読み返した。


 中には、厳しい意見もあった。


『せっかく付き合ったのに、別れさせる必要あった?』


『最初のヒロインが好きだったので残念です』


 ……うん。


 その気持ちも、よくわかる。


 俺だって、最初のヒロインには幸せになってほしい。


 だからこそ、彼女自身の人生を描きたかった。


 主人公の隣にいることだけが、幸せではない。


 自分の夢を追いかけることだって、大切なのだ。


「……ちゃんと、最後まで書かないとな」


 俺は、小さく呟いた。


 賛成してくれる読者も、反対してくれる読者もいる。


 それは、俺の物語を真剣に読んでくれている証拠だ。


 だから、どちらの声も無駄にはしたくなかった。


 俺は、ランキング画面を開いた。


 学園ラブコメ部門。


 そこには、見慣れた作品名が表示されている。


『俺の人生はラブコメ展開らしい』


「……おおっ!」


 ランキングに、載っている!


 しかも、少しずつ順位が上がっている!


「……やったぜ!」


 俺は、思わず拳を握りしめた。


 昨日よりも、今日。


 今日よりも、明日。


 少しずつ、俺の小説が誰かに届いている。


 その実感が、たまらなく嬉しかった。


 けれど。


 喜びの中に、一つだけ気がかりなことがあった。


     ◇ ◇ ◇


「……アイドルAさん」


 俺は、感想欄を開いた。


 そして、ある名前を探す。


『アイドルA』


 俺の小説を、最初から読んでくれていた人。


 PVがゼロだったころから、毎回のように感想を送ってくれた人。


 俺にとって、最初の読者であり、最も大切な読者だった。


 しかし。


「……やっぱり、いないか」


 最近、その名前を見かけなくなっていた。


 最後にコメントをくれたのは、主人公とヒロインが文化祭を楽しんだ回だった。


 その次の、別れのエピソード。


 そこから、ぱったりと感想が途絶えた。


「……もしかして、嫌われたかな」


 俺は、苦笑いを浮かべた。


 アイドルAさんは、最初のヒロインをとても気に入っていた。


 いつも、二人の恋愛を応援してくれていた。


 だからこそ、別れの展開が受け入れられなかったのかもしれない。


「……そりゃ、そうだよな」


 俺は、椅子の背もたれに体を預けた。


 最初のヒロインを好きだった読者にとって、突然の別れはつらいだろう。


 しかも、主人公は新しいヒロインと出会ってしまった。


 納得できない人がいても、不思議ではない。


 それでも。


「……一言くらい、感想を聞きたかったな」


 ぽつりと呟いた。


 面白くなかった。


 この展開は嫌いだ。


 そんな言葉でも、よかった。


 何も言わずにいなくなってしまうことが、少しだけ寂しかった。


 俺は、過去のコメントを開いた。


『今回も素晴らしいお話でしたわ』


『桜先生の物語を、いつも楽しみにしています』


『これからも、応援していますね』


 懐かしい言葉が並んでいる。


「……ありがとう、アイドルAさん」


 俺は、画面に向かって小さく頭を下げた。


 あの人がいなければ、俺は途中で執筆を諦めていたかもしれない。


 誰にも読まれない小説を書き続けるのは、想像以上につらいことだからだ。


 それでも、あの人だけは読んでくれた。


 毎回、感想を送ってくれた。


 俺の夢を、応援してくれた。


「……いつか、また読んでくれるといいな」


 そう願いながら、俺は画面を閉じた。


     ◇ ◇ ◇


「……さて!」


 俺は、気持ちを切り替えた。


 落ち込んでばかりはいられない。


 今は、新しいヒロインの物語を書かなければならないのだ。


 彼女は、明るく元気な女の子。


 誰とでもすぐに仲良くなれる、いわゆる陽キャである。


 前のヒロインが落ち着いた優等生タイプだったのに対して、新しいヒロインは感情表現が豊かだ。


 笑うときは、思いきり笑う。


 怒るときは、はっきり怒る。


 そして、主人公が落ち込んでいるときは、遠慮なく背中を押してくれる。


「……いいキャラになったよなあ」


 俺は、満足そうに頷いた。


 ただ、彼女にも悩みがある。


 明るく振る舞っているからといって、何も考えていないわけではない。


 周囲の期待に応えようとして、無理をすることだってある。


 だからこそ、主人公と出会うことで、彼女自身も成長していく。


 そんな物語にしたかった。


「……よし。次の話も頑張るか!」


 俺は、キーボードに指を置いた。


 そのときだった。


 ピロン。


「……ん?」


 パソコンから、通知音が鳴った。


 メールが一通届いている。


「……なんだろう?」


 俺は、何気なくメールソフトを開いた。


 差出人を確認する。


 小説投稿サイトの運営事務局。


「……運営から?」


 一瞬、嫌な予感がした。


 もしかして、何か規約違反でもしてしまったのだろうか。


 いや、待て。


 俺、変なこと書いてないよな?


 不安になりながら、件名を確認する。


『【重要】作品の書籍化に関するお問い合わせ』


「…………」


 俺は、固まった。


 ……え?


 書籍化?


「……しょ、書籍化?」


 もう一度、件名を読む。


 間違いない。


 そこには、確かに書籍化と書かれていた。


「……いやいやいや!」


 俺は、慌ててメールを開いた。


 本文には、出版社から俺の作品について問い合わせがあったことが、丁寧な文章で記されていた。


 どうやら、ある大手出版社の編集者が『俺の人生はラブコメ展開らしい』を読み、書籍化に向けて話をしたいと考えているらしい。


「…………」


 俺は、画面を見つめた。


 一度、目を閉じる。


 もう一度、開く。


 ……消えていない。


「……ま、マジかよ」


 心臓が、どくんと跳ねた。


 出版社。


 編集者。


 書籍化。


 今まで、遠い世界の話だと思っていた言葉が、目の前に並んでいる。


「……俺の小説が?」


 信じられなかった。


 少し前まで、PVゼロだった小説だ。


 誰にも読まれず、何度も落ち込んだ。


 それでも、書き続けてきた。


 そんな俺の作品を。


 出版社の人が、読んでくれた?


「……うそ、だろ」


 俺は、メールを最初から読み直した。


 そこには、今後の打ち合わせや企画検討について書かれていた。


 もちろん、まだ正式に書籍化が決まったわけではない。


 これから話し合いを重ね、企画が進むかどうか決まるのだろう。


 それでも。


 俺にとっては、十分すぎる出来事だった。


「……やった」


 小さな声が漏れた。


「……やったぞ」


 拳を握りしめる。


 そして。


「……やったああああああああ!」


 俺は、思いきり叫んだ。


「俺の小説に、書籍化の打診が来たああああ!」


 嬉しかった。


 どうしようもなく、嬉しかった。


 ずっと夢見ていた。


 自分の書いた物語が、一冊の本になることを。


 誰かが書店で、その本を手に取ってくれることを。


 そして、読んだ人が少しでも笑顔になってくれることを。


「……ついに、ここまで来たんだな」


 俺は、ゆっくりと椅子に座り直した。


 画面には、書籍化の打診メール。


 その隣には、俺の小説の管理画面。


 累計一万PV。


 少しずつ上がっていくランキング。


 そして、増え続ける読者からの感想。


 すべてが、夢のようだった。


「……九条先輩にも、報告しないとな」


 俺は、思わず微笑んだ。


 先輩は、ずっと俺の夢を応援してくれた。


 文芸部を作ってくれた。


 執筆できる環境を整えてくれた。


 スランプに陥ったときも、励ましてくれた。


 だからこそ、この知らせを一番に伝えたかった。


 ……でも。


「……アイドルAさんにも、伝えたかったな」


 ふと、そんな言葉が漏れた。


 最初から読んでくれていた、たった一人の読者。


 あの人が、この知らせを聞いたら、どんな反応をするだろう。


 きっと、喜んでくれる。


 ……そう、信じたかった。


 俺は、もう一度メールを見つめた。


「……よし!」


 そして、深く息を吸い込んだ。


 まだ、夢が叶ったわけじゃない。


 ここからが、本当の勝負だ。


 編集者との打ち合わせもある。


 原稿の修正も必要になるかもしれない。


 それでも。


「……絶対に、書籍化してやる!」


 俺は、力強く宣言した。


 いつか、自分の物語で誰かを幸せにする。


 その夢が、ようやく現実に近づいたのだから。


 ……ただ。


 そのときの俺は、まだ知らなかった。


 俺が夢に近づくほど、遠ざかっていく人がいることを。


 そして。


 誰よりも俺の成功を願っていたはずの読者が、今は俺の物語を読むことさえためらっていることを。


 俺は、何も知らなかった。


 ただ、夢が叶うかもしれないという喜びに、胸を躍らせていたのだった。

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