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俺が書いたラブコメが現実になっている件について、完璧な生徒会長は何も知らないふりをする  作者: ウイング神風


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14/26

底辺作家の俺、文化祭デートを書いたらスランプになりました

「……よし! 今回は文化祭デートだ!」


 俺、桜庭悠馬は、自室のパソコンに向かって拳を握りしめた。


 現在執筆しているのは、俺のWeb小説。


『俺の人生はラブコメ展開らしい』


 前回の更新では、主人公とヒロインがついに恋人同士になった。


 長かった。


 実に長かった。


 相合傘から始まり、放課後の部活動、膝枕、そして休日デート。


 数々のイベントを乗り越え、ようやく二人の想いが通じ合ったのだ。


 ならば、次に描くべきものは何か。


 決まっている。


「……恋人同士になって初めての文化祭!」


 これしかない!


 しかも、現実の学校でも文化祭が近づいている。


 これはもう、神様が俺に与えてくれた創作のチャンスではないだろうか。


「……ふふふ。待ってろよ、読者諸君!」


 ……まあ、読者は一人しかいないんだけど。


 それでも、読者は読者だ。


 アイドルAさん。


 いつも感想を送ってくれる、俺にとって大切な読者。


 あの人を楽しませるためにも、最高の文化祭デートを書いてやる!


「……よっしゃ! 執筆開始!」


 カタカタカタカタ。


 俺は、勢いよくキーボードを叩き始めた。


     ◇ ◇ ◇


 文化祭。


 それは、学園ラブコメにおける最大級のイベントである。


 教室を飾り付ける生徒たち。


 廊下に並ぶ模擬店。


 普段とは違う、賑やかな校舎。


 そして、恋人同士になった主人公とヒロイン。


「……くううっ! 最高じゃないか!」


 俺は、思わず声を上げた。


 まずは、二人で文化祭を回る場面から始めよう。


 主人公がヒロインを迎えに行く。


 ヒロインは、いつもとは違う服装で現れる。


 そして、少し照れながら言うのだ。


『……今日は、一緒に楽しみましょうね』


「……いい! すごくいい!」


 俺は、自分で書いた台詞に感動した。


 続いて、模擬店巡り。


 チョコバナナ。


 たこ焼き。


 焼きそば。


 綿あめ。


 文化祭といえば、やっぱり食べ歩きだろう。


 主人公がチョコバナナを買う。


 すると、ヒロインが興味深そうに覗き込む。


『……一口、いただいてもいいですか?』


 主人公は、何も考えずに差し出す。


 そして、ヒロインが一口。


『……ふふっ。甘くて美味しいですね』


 その瞬間、主人公は気づく。


 ……これって、間接キスじゃないか!?


「……ぐはっ!」


 俺は、思わず机を叩いた。


 最高だ。


 最高すぎる。


 王道の間接キスイベント!


 こんな展開を思いつくなんて、俺は天才かもしれない!


「……いや、天才だ! 俺は天才だ!」


 誰もいない部屋で、自分を褒め称える。


 もちろん、現実の俺がそんなことをできるかと言われれば、答えはノーだ。


 九条先輩と間接キス?


 そんなことになったら、心臓が止まりそうになる。


 しかし、小説の主人公は違う。


 彼は、俺よりもずっと勇敢なのだ!


「……よし。次は、お化け屋敷だ!」


 俺は、再びキーボードを叩いた。


 暗い教室。


 不気味な音楽。


 突然現れる、お化け役の生徒。


 驚いたヒロインが、主人公の腕にしがみつく。


『……こ、怖いです』


『大丈夫。俺がついている』


 ……くううっ!


 これだ!


 これぞ、学園ラブコメ!


 さらに、主人公がヒロインを守ろうとする。


 しかし、今度は主人公のほうが驚いてしまう。


 ヒロインは、そんな彼を見て笑う。


『……ふふっ。あなたも怖かったんですね』


『う、うるさい!』


 ……いい。


 実にいい。


 完璧なヒロインが、主人公の前では普通の女の子になる。


 そんな関係性こそ、俺が描きたいラブコメなのだ。


「……よし。最後は、夕暮れの校舎だ!」


 俺は、さらに文章を書き進めた。


 文化祭が終わりに近づく。


 賑やかだった校舎が、少しずつ静かになっていく。


 二人は、人の少ない廊下を歩く。


 夕日が窓から差し込み、ヒロインの横顔を照らす。


『……今日は、楽しかったですね』


『ああ。俺も楽しかった』


 主人公が、そっとヒロインの手を握る。


 ヒロインも、その手を握り返す。


 そして――。


『……来年も、一緒に回りたいです』


『もちろんだ』


 ……よし!


 これで完璧だ!


「……うおおおお! 最高の文化祭回が完成したあああ!」


 俺は、椅子の上で大きく伸びをした。


 ……いやあ。


 やっぱり、ラブコメは最高だぜ!


     ◇ ◇ ◇


「……さて」


 俺は、完成した原稿を読み返した。


 チョコバナナ。


 たこ焼き。


 お化け屋敷。


 夕暮れの校舎。


 どれも、俺が書きたかったイベントばかりだ。


 主人公とヒロインの距離も、以前よりずっと近づいている。


 恋人同士になった二人が、初めて文化祭を楽しむ。


 その幸福感が、文章から伝わってくる。


「……うん。いい出来だ!」


 俺は、満足そうに頷いた。


 そして、次の話を書こうとした。


「……さて、次は……」


 キーボードに指を置く。


「…………」


 指が止まった。


「……あれ?」


 次の展開。


 文化祭の、そのあと。


 二人は、どうなるのだろうか。


「……えっと」


 俺は、画面を見つめた。


 主人公とヒロインは、すでに恋人同士。


 文化祭でも、十分に距離を縮めた。


 お互いの気持ちも、確かめ合っている。


 ならば、次は?


「……デート?」


 いや、もう書いた。


「……手をつなぐ?」


 それも書いた。


「……告白?」


 もう付き合っている!


「……え、えっと……」


 俺は、頭を抱えた。


 ……やばい。


 何も思いつかない。


 これまでの俺は、二人が付き合うまでの過程を書いてきた。


 偶然の出会い。


 すれ違い。


 少しずつ縮まる距離。


 そして、告白。


 そこまでは、いくらでも想像できた。


 けれど。


 恋人同士になったあと、二人は何を目指せばいいのだろう。


「……わからん!」


 俺は、天井を仰いだ。


 付き合ったら、それで終わりなのか?


 いや、そんなはずはない。


 恋人になってからも、人生は続く。


 楽しいことも、悲しいこともある。


 喧嘩することだってあるだろう。


 でも。


 俺は、その先を知らない。


「……くそっ!」


 俺は、唇を噛んだ。


 これまで、ラブコメをたくさん読んできた。


 何度も、理想の恋愛を想像してきた。


 けれど、それはあくまでも物語の中の話だ。


 現実の恋人同士が、どうやって関係を続けていくのか。


 俺には、まだわからなかった。


「……やばい。これは、本格的にやばいぞ」


 俺は、もう一度キーボードに指を置いた。


 しかし。


「…………」


 一文字も書けない。


 頭の中が、真っ白だった。


「……なあああああああ!」


 俺は、思わず叫んだ。


 スランプだ!


 完全にスランプだ!


 あれほど勢いよく書けていたのに、突然、何も思いつかなくなってしまった!


「……どうする、俺!」


 俺は、机に突っ伏した。


 読者を待たせたくない。


 せっかく、毎回読んでくれる人がいるのだ。


 アイドルAさん。


 あの人は、いつも俺の小説を楽しみにしてくれている。


 だからこそ、適当な展開を書いて裏切りたくない。


「……でも、書けないんだよなあ」


 俺は、深いため息をついた。


 無理やり書こうと思えば、書けるかもしれない。


 新しいライバルヒロインを登場させる。


 突然、主人公とヒロインを喧嘩させる。


 あるいは、何か大きな事件を起こす。


 けれど。


「……それって、本当に俺が書きたい話なのか?」


 俺は、自分に問いかけた。


 読者を驚かせるためだけの展開。


 物語を続けるためだけの事件。


 そんなものを書いて、二人は幸せになれるのだろうか。


「……違うよな」


 俺は、小さく呟いた。


 俺が書きたいのは、誰かの心を温かくする物語だ。


 読んだ人が、少しだけ明日を楽しみにできるような物語。


 それなのに、今の俺は、続きを書くことばかり考えている。


「……駄目だ。いったん休もう」


 俺は、パソコンの画面を見つめた。


 そして、決心する。


「……更新延期のお知らせを出すか」


 正直、気が重かった。


 読者を待たせるのは、申し訳ない。


 しかし、納得できないまま書き続けるよりは、ずっといいはずだ。


 俺は、投稿サイトの編集画面を開いた。


 そして、文化祭回のあとがきに文章を入力する。


『いつも読んでくださってありがとうございます。次回の展開をじっくり考えたいため、しばらく更新をお休みします。楽しみにしてくださっている方には申し訳ありませんが、必ず続きを書きますので、少しだけお待ちください』


 ……よし。


 これでいい。


 俺は、更新ボタンをクリックした。


「……ふう」


 大きく息を吐く。


 これで、しばらく時間ができた。


 焦る必要はない。


 現実の文化祭だって、もうすぐ始まる。


 九条先輩と一緒に回る約束もしている。


 きっと、そこで新しいアイデアが浮かぶはずだ。


「……そうだよな」


 俺は、自分に言い聞かせた。


 実際に体験してみなければ、わからないこともある。


 今日までだって、そうだった。


 相合傘。


 部活動。


 休日のデート。


 九条先輩と過ごした時間が、俺の小説に新しい展開を与えてくれた。


 ならば、文化祭もきっと同じだ。


「……よし! 文化祭を楽しもう!」


 俺は、勢いよく立ち上がった。


 そして、パソコンの電源を落とした。


 今日は、もう書かない。


 無理に考えたところで、いいアイデアは浮かばないだろう。


 俺は、ベッドに潜り込んだ。


「……それにしても」


 天井を見上げる。


 主人公とヒロイン。


 二人は、これからどうなるのだろう。


 ずっと一緒にいるのだろうか。


 それとも、いつか別れる日が来るのだろうか。


 俺には、まだわからない。


 ただ、一つだけ確かなことがある。


「……幸せになってほしいな」


 俺は、小さく呟いた。


 自分が生み出した登場人物たちだ。


 できることなら、笑顔でいてほしい。


 たとえ、物語の結末がどうなったとしても。


 彼らには、自分自身の幸せを見つけてほしかった。


「……まあ、明日考えるか」


 俺は、目を閉じた。


 そして、ゆっくりと眠りに落ちていった。


 ……そのとき。


 俺は、まだ知らなかった。


 たった一行の更新延期のお知らせが、誰かの心を大きく揺さぶっていることを。


 そして。


 俺が書けなくなった『物語の続き』を、現実の世界で誰かが完成させようとしていることを。


 そんなこと、想像すらしていなかった。

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