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俺が書いたラブコメが現実になっている件について、完璧な生徒会長は何も知らないふりをする  作者: ウイング神風


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12/24

俺の小説では、今日から二人は恋人同士らしい

「今日は、本当にありがとうございました!」


 夕暮れの駅前。


 俺、桜庭悠馬は、九条栞先輩に向かって深々と頭を下げた。


 時刻は午後五時を少し過ぎたところ。


 朝十時から始まった、人生初とも言える休日デートは、いよいよ終わりを迎えようとしていた。


「ふふっ。こちらこそ、ありがとうございました」


 先輩は、いつものように上品な微笑みを浮かべた。


「とても楽しい一日でしたわ」


「本当ですか?」


「ええ。もちろんです」


 その言葉に、俺はほっと胸を撫で下ろした。


 いやあ、よかった。


 実は今日一日、ずっと心配していたのだ。


 九条先輩を退屈させていないだろうか。


 変なことを言っていないだろうか。


 俺なんかと出かけて、本当に楽しいのだろうか。


 そんな不安が、頭の片隅にずっとあった。


 しかし、先輩の笑顔を見る限り、どうやら杞憂だったらしい。


「……それにしても、今日は色々なところに行きましたね」


「そうですね。映画に、お昼ご飯に、お買い物……」


 先輩は、今日の出来事を思い出すように指を折った。


「どれも素敵な思い出になりました」


「俺もです!」


 映画館では、恋愛映画を観た。


 昼食には、先輩おすすめのカレー屋へ行った。


 そのあとは、繁華街でウインドーショッピング。


 雑貨屋を覗いたり、本屋に立ち寄ったり。


 俺がライトノベルの新刊を見つけて興奮していると、先輩は楽しそうに笑っていた。


 そういえば、先輩は俺が手に取った本を、やけに熱心に眺めていたっけ。


 ……きっと、読書好きだからだろう。


「……あの、桜庭くん」


「はい?」


「今日は、私に合わせてばかりではありませんでしたか?」


「……え?」


 突然の質問に、俺は首を傾げた。


「そんなことありませんよ!」


「……本当ですか?」


「はい! 俺も行きたいところに行けましたし、すごく楽しかったです!」


 そう答えると、先輩は安心したように微笑んだ。


「……それなら、よかったです」


 その笑顔を見た瞬間。


 どくんっ。


 心臓が、大きく跳ねた。


 ……ああ、もう。


 どうして、この人はこんなに綺麗なんだろう。


 学校では完璧な生徒会長。


 けれど、今日は少し違った。


 映画の感想を楽しそうに話したり、カレーを美味しそうに食べたり。


 雑貨屋で可愛らしい小物を見つけて、目を輝かせたり。


 そんな姿を見ていると、九条先輩も普通の女の子なのだと思えた。


 ……いや。


 普通の女の子にしては、破壊力が高すぎるけど。


「……ところで、桜庭くん」


「はい?」


「小説のアイデアは、浮かびましたか?」


「……っ!」


 その質問に、俺は思わず背筋を伸ばした。


「もちろんです!」


「まあ」


「今日一日で、色々なアイデアが浮かびました!」


 俺は、興奮気味に語り始めた。


「映画館でのデート! 食事中の会話! 買い物中に距離が縮まるイベント!」


「……ふふっ」


「特に、恋愛映画を観たあとに二人が気まずくなる展開とか、すごく使えそうです!」


 先輩は、楽しそうに耳を傾けてくれた。


「……それは、素敵ですね」


「はい! 早く帰って書きたいです!」


 俺がそう言うと、先輩は一瞬だけ目を伏せた。


「……そうですか」


「……あれ?」


「いいえ。何でもありません」


 先輩は、すぐに微笑んだ。


「桜庭くんが楽しそうで、私も嬉しいんです」


「……ありがとうございます!」


 俺は、深々と頭を下げた。


 やっぱり、九条先輩は優しい人だ。


 俺の夢を、いつも応援してくれる。


 だからこそ、いつか恩返しをしたい。


 俺が書いた小説で、先輩を笑顔にできたら。


 それほど嬉しいことはないだろう。


「……では、そろそろ帰りますね」


「ええ。気をつけて帰ってください」


「はい! 九条先輩も!」


 俺は、先輩に向かって手を振った。


「また学校で会いましょう!」


「……はい。また学校で」


 先輩も、小さく手を振り返してくれた。


 俺は、その笑顔を胸に刻みながら歩き出した。


 ……よし。


 早く帰ろう。


 今日の出来事を忘れないうちに、小説に書きたい。


 そんなことを考えながら、俺は駅前の人混みへと消えていった。


 そのとき。


 俺は、気づかなかった。


 背後で、九条先輩がいつまでも俺を見送っていたことに。


 そして。


 その微笑みの奥に、俺が想像もできないほど強い想いが隠されていたことに。


     ◇ ◇ ◇


「……よっしゃあああ!」


 帰宅してから、一時間後。


 俺は自室のパソコンに向かい、勢いよくキーボードを叩いていた。


 カタカタカタカタ。


 指が止まらない。


 まるで、今日一日の出来事が、そのまま文章になっていくようだった。


「……くううっ! 最高だぜ!」


 俺は、思わず拳を握りしめた。


 現在執筆しているのは、俺のWeb小説。


『俺の人生はラブコメ展開らしい』


 今回のテーマは、デート回である。


 主人公とヒロインが、休日に二人きりで出かける。


 映画館で恋愛映画を観る。


 食事をしながら、互いの好きなものを知る。


 そして、夕暮れの帰り道。


 二人は、ついに自分たちの気持ちに気づくのだ。


「……いい! すごくいい!」


 俺は、自分で書いた文章を読み返した。


 もちろん、現実とまったく同じ展開ではない。


 小説なのだから、多少の脚色は必要だ。


 実際の俺は、九条先輩に告白なんてしていない。


 そもそも、そんな勇気があるはずもない。


 しかし、小説の主人公は違う。


 彼は、ここで一歩踏み出すのだ。


「……よし。告白シーン、いくぞ!」


 俺は、再びキーボードを叩いた。


 夕焼けに染まる駅前。


 帰ろうとするヒロインを、主人公が呼び止める。


 そして――。


『俺は、君のことが好きだ』


 ……くううっ!


 王道!


 圧倒的王道!


 だが、それがいい!


 俺は興奮しながら、続きを書いた。


 ヒロインは驚き、頬を赤らめる。


 そして、少しだけ涙を浮かべながら答える。


『……私も、あなたが好きです』


「……よっしゃあああ!」


 俺は、椅子から立ち上がった。


 ついに!


 ついに、二人が恋人同士になった!


 相合傘から始まった物語。


 放課後の部活動。


 膝枕。


 そして、休日のデート。


 数々のイベントを乗り越え、ようやく二人の想いが通じ合ったのだ。


「……いやあ、長かった!」


 俺は、感慨深く頷いた。


 ……まあ、まだ物語は終わらないけど。


 むしろ、ここからが本番だ。


 付き合い始めた二人の、甘酸っぱい日常。


 初めての恋人としての文化祭。


 そして、二人の将来。


 考えただけで、いくらでも展開が浮かんでくる。


「……やっぱり、ラブコメって最高だぜ!」


 俺は、満足そうに笑った。


 いつか、ライトノベル作家になりたい。


 俺の物語で、誰かを笑顔にしたい。


 その夢は、まだまだ遠い。


 でも、こうして小説を書いている時間が、俺は何よりも好きだった。


「……さて。投稿するか!」


 俺は、誤字脱字を確認した。


 文章を読み直し、タイトルをつける。


『第十二話 夕暮れの告白』


 ……よし。


 完璧だ。


 俺は、投稿ボタンをクリックした。


『投稿が完了しました』


「……さあ、来い!」


 アクセス解析画面を開く。


 PV数。


 ゼロ。


「…………」


 更新。


 ゼロ。


 もう一度、更新。


 ゼロ。


「……知ってたああああ!」


 俺は、机に突っ伏した。


 ……くううっ!


 ネット小説の世界は、厳しいぜ!


 こんなに頑張って書いたのに、誰にも読まれないなんて!


「……いや、待て」


 俺は、顔を上げた。


 まだ、希望はある。


 そう。


 俺には、あの人がいる。


「……アイドルAさん!」


 俺は、両手を合わせた。


「どうか、今回も読んでください!」


 すると。


 ピコンッ。


「……お?」


 PV数が、一になった。


「……来たああああ!」


 俺は、思わず叫んだ。


 そして、続けて通知音が鳴る。


 新着コメント、一件。


 ユーザー名は――。


『アイドルA』


「……アイドルAさあああん!」


 俺は、歓喜した。


 早速、コメントを開く。


『今回も素晴らしいお話でした。デートの場面、とても素敵でしたわ。私も、こんなふうに大切な人と過ごしてみたいです』


「……ぐふふ」


 俺は、思わず頬を緩めた。


 ……そうでしょう、そうでしょう!


 今回のデート回には、俺の実体験が詰まっているのだ!


 もちろん、告白の部分は完全なフィクションだけど。


「……それにしても、アイドルAさんって、本当にいい人だなあ」


 俺は、画面を見つめた。


 いつも読んでくれる。


 いつも感想をくれる。


 俺がどんな展開を書いても、必ず応援してくれる。


 こんな読者がいるなんて、俺は幸せ者だ。


「……よし。返信しよう!」


 俺は、キーボードに指を置いた。


『いつも読んでくださってありがとうございます! 今回も楽しんでいただけて嬉しいです! これからは、恋人同士になった二人の物語を書いていきたいと思います!』


 送信。


「……よし!」


 俺は、満足そうに頷いた。


 そして、次の展開を考え始めた。


「……さて。次は、恋人同士になって初めての文化祭だな!」


 俺は、アイデアノートを開いた。


 文化祭。


 模擬店。


 お化け屋敷。


 そして、夕暮れの校舎。


 考えただけで、胸が高鳴る。


「……くううっ! 楽しみだぜ!」


 俺は、再びキーボードを叩き始めた。


 ……そのとき。


 俺は、まだ知らなかった。


 俺の唯一の読者、『アイドルA』の正体を。


 そして。


 俺が書いた『告白』という展開を、彼女がどんな気持ちで読んでいたのかを。


     ◇ ◇ ◇


 同じころ。


 九条栞は、自室でスマートフォンを見つめていた。


 画面には、桜庭悠馬の小説が表示されている。


『第十二話 夕暮れの告白』


 彼女は、何度もその文章を読み返していた。


「……ふふっ」


 小さな笑みが漏れる。


「……桜庭くん」


 九条会長は、そっとスマートフォンを胸に抱いた。


「……今日のデート、楽しかったですね」


 窓の外では、夜の街が静かに輝いている。


 九条会長は、幸せそうに目を閉じた。


「……次は、告白ですか」


 その声は、誰にも届かなかった。


 けれど。


 彼女の微笑みは、いつもより少しだけ深かった。


「……楽しみにしていますね、桜庭くん」


 そして、彼女は再びスマートフォンを開いた。


 そこには、悠馬からの返信が届いていた。


『これからは、恋人同士になった二人の物語を書いていきたいと思います!』


 九条会長は、その文章を見つめた。


 そして、静かに微笑んだ。


「……ええ。私も、楽しみです」


 まるで、それが自分自身に向けられた約束であるかのように。


 彼女は、幸せそうに画面を見つめ続けていた。

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