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俺が書いたラブコメが現実になっている件について、完璧な生徒会長は何も知らないふりをする  作者: ウイング神風


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10/17

完璧な生徒会長と、初めての休日デート

 週末の土曜日。


 俺、桜庭悠馬は、駅前の繁華街に立っていた。


 待ち合わせ場所は、駅前にある大きな商業ビル。


 約束の時間は午前十時。


 現在の時刻は、九時五十分である。


「……早すぎたかな?」


 俺は腕時計を確認しながら、周囲を見渡した。


 行き交う人々。楽しそうに話すカップル。買い物袋を提げた家族連れ。


 いつもなら何とも思わない光景なのに、今日に限って妙に気になってしまう。


 なぜなら――。


「……デート、なんだよな」


 そう。


 今日は、九条栞先輩とのデートである。


 学校一の美少女。


 成績優秀、品行方正。


 誰からも慕われる、完璧な生徒会長。


 そんな人と、休日に二人きりで出かけるのだ。


「……いやいやいや、落ち着け俺!」


 俺は小さく首を振った。


 これは、先輩が元気になったお祝いみたいなものだ。


 決して、特別な意味があるとは限らない。


 ……ない、はずだ。


「……でも、先輩はデートって言ってたよな?」


 思い出した瞬間、顔が熱くなった。


 駄目だ。


 考えれば考えるほど、緊張してしまう。


 俺は気を紛らわせるため、スマートフォンを取り出した。


「……そうだ。小説のPVでも確認するか」


 小説投稿サイトにログインする。


 俺の作品、『俺の人生はラブコメ展開らしい』。


 本日のPV数は――。


「……一」


 安定の一PV。


 相変わらず、俺の小説は大人気とは程遠い。


「……とほほ。ラブコメ王への道は、まだまだ遠いぜ」


 しかし、この一PVには価値がある。


 なぜなら、いつも読んでくれる人がいるからだ。


 謎の読者、アイドルAさん。


 俺がどんな話を投稿しても、必ずと言っていいほど感想を送ってくれる。


「……今日も読んでくれたのかな」


 そう思うと、自然と頬が緩んだ。


 いつか、この人にもっと面白い物語を届けたい。


 そのためにも、今日のデートを創作の参考に――。


「おはようございます、桜庭くん」


「……っ!?」


 突然、背後から声をかけられた。


 俺は慌てて振り返る。


 そして――。


「…………」


 言葉を失った。


 そこに立っていたのは、一人の少女だった。


 腰まで届く、艶やかな黒髪。


 透き通るような白い肌。


 そして、柔らかな微笑み。


 白いワンピースに、淡い色のカーディガン。


 足元には、上品なデザインの靴。


 いつもの制服姿とは、まるで違っていた。


「……九条、先輩?」


「あら。どうしました?」


 先輩は不思議そうに首を傾げた。


「私だと、わかりませんでしたか?」


「い、いえ! わかります! もちろんわかります!」


 俺は慌てて答えた。


 しかし、正直に言おう。


 あまりにも綺麗すぎて、一瞬、誰なのかわからなかった。


 学校でも十分に美しい人だと思っていた。


 けれど、私服姿の九条先輩は、それ以上だった。


「……あの、桜庭くん?」


「は、はい!」


「そんなに見つめられると、少し恥ずかしいです」


「……っ!」


 しまった!


 完全に見とれていた!


「す、すみません!」


「ふふっ。謝らなくてもいいですよ」


 先輩は楽しそうに笑った。


「……それで、どうでしょうか?」


「……え?」


「今日の服装です。似合っていますか?」


 そう言って、先輩はワンピースの裾を軽く整えた。


 ……待ってくれ。


 そんな質問、反則だろ。


「……すごく、似合っています」


「……本当ですか?」


「はい。とても綺麗です」


 言ってしまった。


 思わず、本音が飛び出した。


 すると、先輩は一瞬だけ目を丸くした。


 そして、ほんのりと頬を赤らめる。


「……ありがとうございます」


 その笑顔に、俺の心臓が跳ねた。


「今日のために、少しだけ準備した甲斐がありました」


「……今日のために?」


「ええ。せっかくのデートですもの」


「……っ!」


 デート。


 やっぱり、デートなんだ!


 俺は心の中で絶叫した。


 くううっ!


 俺の人生、どうなっているんだ!?


 まるで、自分が書いたラブコメの主人公じゃないか!


     ◇ ◇ ◇


「……そういえば、九条先輩」


「はい?」


「身体の調子は、もう大丈夫ですか?」


 俺は、先輩の顔を覗き込んだ。


 数日前。


 先輩は、生徒会の仕事を頑張りすぎて倒れてしまった。


 あのときの青白い顔を、俺はまだ覚えている。


「ええ。おかげさまで、すっかり元気になりました」


「……本当ですか?」


「ふふっ。疑っていますね?」


「だって、先輩はすぐ無理するじゃないですか」


 俺がそう言うと、先輩は困ったように微笑んだ。


「……そうですね。少し反省しました」


「少しじゃ困りますよ!」


「では、たくさん反省しました」


「……本当でしょうね?」


「ええ。桜庭くんとの約束ですもの」


 先輩は、胸の前で小さく手を合わせた。


「昨日も、早めに休んだんですよ」


「……おお!」


 俺は思わず感心した。


「素晴らしいです! 九条先輩!」


「ふふっ。そんなに褒められると、照れてしまいます」


「いや、褒めますよ! ちゃんと休むのは大事ですから!」


 先輩は、嬉しそうに微笑んだ。


「……桜庭くん」


「はい?」


「あなたのおかげです」


「……え?」


「あなたが教えてくれたんです。何もしない時間も、大切なんだって」


 先輩は、空を見上げた。


「昨日は、久しぶりにゆっくり眠れました」


「……それなら、よかったです」


 俺は、ほっと胸を撫で下ろした。


 やっぱり、先輩には元気でいてほしい。


 いつも俺を応援してくれる人だからこそ、無理をしてほしくないのだ。


「……さて」


 先輩は、こちらへ向き直った。


「それでは、桜庭くん」


「はい!」


「今日のデートは、エスコートしていただけますか?」


「……え?」


「ふふっ。今日は、あなたにお任せしたいんです」


 先輩は、期待に満ちた瞳で俺を見つめた。


 ……エスコート。


 つまり、デートの進行を任されたということか。


 待ってくれ。


 俺に、そんな高度な技術があると思うのか!?


 俺は、ただの底辺Web小説家だぞ!


 恋愛経験なんて、ほぼゼロだ!


 知識の大半は、ライトノベルから得たものだぞ!


「……あの、九条先輩」


「はい?」


「俺、こういうの慣れていないんですけど……」


「大丈夫ですよ」


 先輩は、優しく微笑んだ。


「私も、こうして男の子と休日に出かけるのは、あまり慣れていませんから」


「……そ、そうなんですか!?」


「ええ。ですから、一緒に楽しみましょう?」


 その言葉に、胸が温かくなった。


 完璧な九条先輩にも、慣れていないことがある。


 そう思うと、少しだけ緊張が和らいだ。


「……わかりました!」


 俺は、勢いよく頷いた。


「今日は、俺に任せてください!」


「まあ。頼もしいですね」


 先輩は、嬉しそうに微笑んだ。


 ……よし。


 こうなったら、全力で楽しませてやる!


     ◇ ◇ ◇


「まずは、映画館に行きましょう!」


「映画館ですね。楽しみです」


 俺たちは、駅前の商業ビルへ向かった。


 休日ということもあり、周囲は多くの人で賑わっている。


 カップルや家族連れ。


 友人同士で買い物を楽しむ学生たち。


 そんな人混みの中を、俺たちは並んで歩いた。


「……ところで、桜庭くん」


「はい?」


「今日は、どんな映画を見る予定なんですか?」


「恋愛映画です!」


「……まあ」


 先輩の瞳が、嬉しそうに輝いた。


「素敵ですね」


「はい。最近公開された作品で、評判もいいみたいなので」


「……ふふっ。楽しみです」


 先輩は、少しだけ歩幅を緩めた。


 俺も、それに合わせて歩く。


 すると。


「……桜庭くん」


「はい?」


「一つ、お願いしてもいいですか?」


「……お願い?」


「ええ」


 先輩は、少し恥ずかしそうに微笑んだ。


「……手を、つないでもいいですか?」


「…………へ?」


 俺の思考が停止した。


 手をつなぐ。


 つまり、あれだ。


 ラブコメでよくある、恋人同士の定番イベント。


「……て、手ですか!?」


「はい」


「……俺の?」


「ふふっ。もちろんです」


 先輩は、小さく首を傾げた。


「……嫌でしたか?」


「い、いえ! 全然!」


 俺は慌てて首を振った。


 すると、先輩は嬉しそうに微笑んだ。


「……ありがとうございます」


 そして、そっと手を差し出してきた。


 俺は、緊張しながらその手を取る。


「……っ!」


 柔らかな感触。


 細い指。


 そして、ほんのりと伝わる温かさ。


 ……駄目だ。


 心臓が、うるさすぎる。


「……ふふっ」


 先輩は、楽しそうに笑った。


「桜庭くん、緊張しています?」


「……そ、そりゃしますよ!」


「……どうして?」


「だって、九条先輩と手をつないでいるんですよ!?」


 すると、先輩は一瞬だけ目を丸くした。


 そして、嬉しそうに微笑んだ。


「……私も、少し緊張しています」


「……え?」


「でも、とても幸せです」


 その言葉に、俺の胸が熱くなった。


 ……ああ、もう。


 この人には、本当に敵わない。


 俺は、そっと先輩の手を握り直した。


「……じゃあ、行きましょうか」


「はい」


 先輩は、嬉しそうに頷いた。


 こうして、俺たちは映画館へ向かった。


 手をつないだまま。


 まるで、本当の恋人同士のように。


 ……いや。


 これは、現実だ。


 俺が書いた小説ではない。


 九条先輩と過ごす、たった一度の休日。


 だからこそ、大切にしたい。


「……九条先輩」


「はい?」


「今日は、絶対に楽しみましょうね!」


 先輩は、幸せそうに微笑んだ。


「ええ。もちろんです」


 そして、小さな声で付け加えた。


「……あなたと一緒なら、どこへ行っても楽しいですから」


 ……っ!


 またしても、心臓に悪いことを!


 俺は、顔が赤くなるのを感じながら、映画館の入り口へ向かった。


 ……まったく。


 今日一日で、俺の心臓は何回跳ねることになるのだろうか。


 そんなことを考えながら。


 俺たちの、初めての休日デートは始まったのだった。

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