表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/17

第一話 9


風もないのに、空気がひとつ揺れた。


「……っ」


悠馬の足が止まる。


視界の端に、嫌な黒い影が映った。


何か……違和感……


いや、何か……濃い不快感……


「……何か……いる!?」


「…………!?」


香久夜も、すでに気づいていたようだった。


その先――


住宅街の角の向こうから、巨大な影がゆっくりと姿を現す。


獅子のようで、犬のようで、でもそのどちらでもない。


そう……あの、狛犬のような化け物だった……。


「うそだろ……昼間でも出るのかよ……」


悠馬が思わず後ずさる。


香久夜は、逆に一歩前へ出た。


その目は、すでに戦う者のものに変わっている。


「下がってて……私が、相手するわっ!」


その声と同時に、彼女の右手に光が集まる。


淡く揺れる霊力が形を成し、やがて一本の薙刀となって現れた。


夕陽を受けたその刃は、どこか神々しいほどに美しかった。


「……えっ」


悠馬は思わず息を呑む。


昨日の夜にも見たはずなのに、こうして改めて見ると、現実感がまるでない。


「来なさいよっ!」


香久夜が静かに言った、その瞬間――


狛犬が吠えた。


「ガアアアアッ!!」


地面を砕くような勢いで飛びかかってくる。


だが。


「遅いっ!」


香久夜の踏み込みは、それよりも速かった。


その瞬間、彼女の足元から薄い光が広がっていく。


淡い膜のようなそれは、やがて二人を包み込むように周囲へ広がった。


すると、さっきまで普通に歩いていた人々が、まるでこちらを避けるように自然と進路を逸らし始める。


誰ひとりとして、この異常に気づかない。


まるで、この場だけが日常から切り離されたみたいに……。


そして――


薙刀が鋭く閃いた。


「ギャアアアアッ!!」


一撃。


たったそれだけで、狛犬の巨体が大きく吹き飛ぶ。


「つ、強っ……」


悠馬の口から、思わず本音が漏れる。


香久夜は止まらない。


着地した狛犬へ、一気に距離を詰める。


「はぁっ!」


「せいっ!」


流れるような連撃。


薙刀の軌道は無駄がなく、美しく、それでいて容赦がなかった。


狛犬は明らかに押されている。


さっきまでの凶悪さが、嘘みたいだった。


「……すごい……」


その姿に、悠馬は一瞬見惚れた。


だが、その時だった。


「いやぁ……これはまた、えらい元気なお嬢さんやなぁ」


聞き慣れない、間延びした声。


空気が、ぴたりと変わる。


香久夜の動きが止まった。


「……誰?」


その声のした方へ視線を向ける。


電柱の影から、ぬるりと何かが現れる。


その“気配”だけでわかった。


ただ強いとか、危ないとか――

そういう次元じゃない。


そこに“いる”だけで、

この場の空気そのものが、じわじわと塗り替えられていくような感覚だった。


悠馬の背中を、ぞくりと冷たいものが走る。


(……なんだ、あれ……?)


その瞬間、

悠馬は本能で理解した。


――あれは、さっきの化け物とは“別格”だ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ