第一話 7
その時、つくちゃんはなにか、妙にしょんぼりして見えた……
「……?」
「で? その大物の付喪神様が、なんで俺なんかのところに?」
悠馬がそう聞くと、つくちゃんは少しだけ声を潜めた。
「実はな――警告に来たんや!」
「警告?」
「せや」
つくちゃんは真面目な顔を作る。
「あの、香久夜ってヤツはな――」
「とんでもないヤツなんや!」
その瞬間だった。
つくちゃんの動きが、ぴたりと止まった。
次の瞬間――
『だれが、とんでもないヤツなのよっ!』
「うわっ!?」
悠馬が思わずのけぞる。
今の声は、明らかにつくちゃんの声ではなかった。
「げっ!? 香久夜さま〜っ!?」
つくちゃんが飛び上がる。
「いつから聞いてたんや!?」
ダルマの口が、勝手に動く。
だが、そこから響いたのは、つくちゃんの声ではない。
香久夜の声だった。
『最初からよっ!』
「ええっ……!?」
悠馬とつくちゃんは、一気に固まった。
『まったく、ろくなこと言わないんだから……』
「えっ、これ……キミの声?」
『そうよ』
つくちゃんの口が、当然のように動く。
『それはただの連絡手段と――』
香久夜は一拍置いてから、いつもの調子で言った。
『あなたのマーキング用に持たせただけだから』
「……マーキング?」
『居場所の把握と、緊急時の連絡用よ』
『ついでに、逃げられないようにするためでもあるけどね』
「いや、それ普通に怖いんだけど……」
『怖くは、ないわよっ!』
「いや、かなり怖いよ!?」
『うるさいわね……とにかく、それは肌身離さず持っておくこと!』
『いいわねっ!』
『もし何かあれば、私がすぐにわかるから』
『下手に消えられると、あとが面倒なのよ』
「えっ?」
『……あっ』
ほんの一瞬だけ、香久夜の声が止まった。
『……なんでもないわ』
「いや、今なんか言ったよね?」
『言ってないっ!』
「いや、絶対言っただろ……」
『とにかく!』
香久夜は強引に話を戻す。
『それを持ってる限り、あなたのことは私が把握できるの』
『だから、安心してなさい!』
その声には、いつもの強気さの奥に――
ほんのわずかな本気が混じっていた。
悠馬は、つくちゃんを見つめた。
小さな赤いダルマ。
七ころび、八起き。
そして、遠くにいるはずの香久夜の声。
「……なんか、いろいろすごいな……」
『当然よ』
香久夜の声が、どこか誇らしげに響く。
その横で、つくちゃんが小さくぼやいた。
「……ワシ、完全に道具扱いやん……」
「なんか……キミもいろいろ大変なんだね」
悠馬がそう言うと、つくちゃんはしばらく黙ったあと――
こくりと頷いた。
その姿を見て、悠馬は少しだけ笑う。
「じゃあ、お前――」
「つくちゃん、でいいよね?」
「えっ」
つくちゃんが顔を上げる。
「付喪神の“つく”だし」
「わかりやすいだろ?」
「……まあ、悪くはないけど……」
「今日から、お前はつくちゃんな」
「いや、なんか軽ない?」
「つくちゃん」
「……はい……」
つくちゃん――新たな相棒(?)は、どこか諦めたように肩を落とした。
その様子を見ながら、悠馬は小さく笑う。
そして机の上には、赤いダルマがひとつ。
ただのキーホルダーだったはずのそれは、いつの間にか――
自分の“日常”を、確実に変化させ始めていた。




