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第一話 12


その視線が、悠馬の持つ刀へ向く。


「それって……月読、やろ?」


「……っ」


悠馬の手に、わずかに力が入る。


「なんで、あんたがそれを……」


「なんでって、そら知っとるよ」


メビルは、にたりと笑った。


「そいつ、なかなか厄介なモンやからなぁ」


その瞬間、悠馬の頭の中で、つくちゃんが慌てた声を上げた。


(あかんっ! こいつ、ワイのこと知っとる!)


(えっ!?)


(えっ!? やないっ! とにかく気ぃ抜くなっ!)


その焦りが、そのまま悠馬にも伝わってくる。


ただの軽口じゃない。


つくちゃんが本気で警戒している。


それだけで、相手の危険度が一段上がった気がした。


「……あなた」


香久夜が低く言う。


「そいつから離れなさい」


「いやや」


メビルは即答した。


「せっかく、ここまで来たんやし?」


「ほんで、ようやく見つけたんやで?」


その言葉に、悠馬の背筋が冷える。


「……見つけた?」


メビルは、細長い顔をゆっくりと歪めた。


「せや」


「やっと、“鍵”を見つけたんや」


「――っ!?」


その瞬間、空気が一変した。


さっきまでの軽口とは違う。


その一言だけで、何か触れてはいけないものに触れたような感覚が走る。


「何を……言ってるの……?」


悠馬の喉が乾く。


メビルは、どこか愉快そうに首を傾げた。


「まだ聞かされてへんのかいな?」


「それとも、お嬢さんが黙っとるんか?」


その視線が香久夜へ向く。


香久夜の顔が、わずかに強張った。


「……余計なことを喋るな」


「おっと、図星かいな?!」


メビルが、くくっと笑う。


「まあ、ええわ」


「今日は、ここまでやな!」


そう言った瞬間――


後方で、あの巨大な狛犬が再び唸り声を上げた。


「ガルルルルル……」


さっきまで香久夜に押されていたはずなのに、その目にはまだ戦意が残っている。


「ビーダル、行くで」


メビルが軽く指を鳴らす。


狛犬――ビーダルが、低く唸った。


「待ちなさいっ!!」


香久夜が踏み込む。


だが、その瞬間にはもう遅かった。


メビルとビーダルの姿が、空気の歪みとともにふっと掻き消える。


まるで最初から、そこにいなかったみたいに。


「……っ!!」


薙刀の切っ先が、空を裂くだけに終わる。


静寂。


さっきまであった異様な圧だけが、薄く残っていた。


「……消えた……?」


悠馬が呆然と呟く。


その場に残されたのは、夕方の住宅街と、少し荒れたアスファルトだけだった。


香久夜は、しばらく何も言わずにその場を睨んでいた。


やがて、ゆっくりと振り返る。


「……無事?」


「えっ? あ、う、うん……多分……」


「そう」


短くそう言うと、香久夜は一歩近づいてきた。


そして――


「バカ」


「えっ?」


「なんで、いきなり飛び出すのよっ!」


「いやっ、でも……!」


「でもじゃないの!」


香久夜は、今にも怒鳴りそうな顔をしていた。


けれど、その目の奥には、怒りだけじゃない色が混じっている。


たぶん――


少しだけ、安心していた。


「……死んだら、どうするのよ……」


ぽつりと漏れたその一言は、さっきまでよりずっと小さかった。


「……あっ」


悠馬は、そこで初めて気づく。


この子、本気で焦ってたんだ。


本気で、守ろうとしていたんだ。


その事実が、妙に胸へ落ちてくる。


「……ごめん」


香久夜は、少しだけ視線を逸らした。


「……まあ、いいわ」


そして、悠馬の手元を見る。


「でも、それ……」


「えっ?」


悠馬が手の中を見る。


そこには、まだ銀色の刀――月読が握られていた。


「どうして、あなたが……」


香久夜の声に、ほんのわずかな戸惑いが混じる。


その時だった。


刀の中から、つくちゃんの声が響いた。


「……ワイにも、ようわからん」


「でもな……」


一拍置いて、


「こいつ、持っとるで」


「――触ったらアカン類のもんをな」




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