第一話 11
その瞬間、悠馬は無意識に地を蹴っていた……。
「えっ……!?」
自分でも、何をしたのか一瞬わからなかった。
けれど、次の瞬間にはもう――
悠馬の体は、香久夜とメビルの間へ滑り込むように飛び込んでいた。
「なっ……!?」
香久夜が目を見開く。
「ちょっ、あなたっ――!?」
メビルの細長い目が、わずかに見開かれる。
「おやっ……?」
その一瞬の隙。
悠馬の体は、まるで導かれるように動いた。
右足を踏み込み、腰を切る。
そして――
「――っ!!」
銀色の刃が、横薙ぎに走った。
ヒュン――ッ!!
鋭い風切り音とともに、メビルの胴体を狙った斬撃が一直線に走る。
「おっと……!」
メビルの体がふっと霞む。
転移。
さっきと同じだ。
だが――
「……そこだっ!」
悠馬の口が、勝手にそう言っていた。
気づけば、視線が“次に出る場所”を捉えていた。
右斜め後方。
空気の歪み。
そこへ向かって、ほとんど反射で刃を返す。
ガキィンッ!!
「……っ!?」
金属とも骨ともつかない硬質な音が響いた。
メビルの腕が、悠馬の刀を受け止めていた。
「へぇ……?」
メビルが、にたりと笑う。
「これは、ちょっと予想外でんなぁ……?」
その顔が、目の前にある。
近い。
異様に近い。
その瞬間――
全身の毛穴が、一斉に総毛立った。
(やばい――)
メビルのもう片方の腕が、蛇のような軌道で悠馬の喉元へ伸びる。
「うっ……!」
だが、その前に。
「触るなっ!!」
香久夜の怒声とともに、横から薙刀が閃いた。
メビルがすぐさま身を引く。
その一撃は空を裂き、代わりに後方の電柱の一部を深くえぐった。
「うわっ……」
悠馬の口から、間の抜けた声が漏れる。
(あれ、当たってたら普通に死んでたんじゃ……?)
「なに、勝手に前へ出てるのよっ!!」
香久夜が、怒ったように振り返る。
「えっ、いや……なんか、体が勝手に……!」
「勝手に、じゃないわよっ!!」
「危ないでしょ! バカっ!!」
「ええっ!? 助けに入ったのに!?」
「だからって、無茶していい理由にはならないのよっ!」
怒鳴りながらも、その立ち位置は完全に悠馬を庇っていた。
その背中に、妙な熱が宿っている。
(……ああ、ほんとに守る気なんだ……)
その一方で、悠馬の手の中の刀は、まだ微かに震えていた。
まるで、まだ終わっていないとでも言うように。
「いやぁ、ええなぁ〜」
メビルが、少し離れた位置で肩をすくめた。
「若い子らの青春、って感じで」
「殺すわよ」
香久夜が即答する。
「こわっ」
メビルはおどけたように両手を上げた。
だが、その目だけは笑っていなかった。
「でもなぁ……これは、ちょっと予想外や」
その視線が、悠馬の持つ刀へ向く。
「それって……月読、やろ?」




