鍵
「みゃ〜ぉ。」
鳴き声のする方に目をやると、日菜子の足元に銀色のフサフサした猫が寄ってきた。さっき舞が追いかけて行った猫だった。
「綺麗な猫ちゃん」
日菜子は猫を抱きかかえると、膝のうえに載せ背中を撫でた。
「シルバーの毛色――ライトに当たると白色にも見えるのね。ホント綺麗な猫ちゃんね。」
ブランシュはとても心地よさそうに日菜子の膝の上に丸くなっていた。
「ブランシュ、おいで。どこに隠れていたの?」
マスターが日菜子のそばでくつろぐブランシュを見つけると、声をかけた。
「みゃ〜。」
まったく動こうとしないブランシュを見て、日菜子は笑った。抱きかかえて顔を寄せ、
「あなたはブランシュっていう名前なの?私は瀬尾日菜子、よろしくね。」
猫相手に自己紹介した日菜子は、そのままカウンターにブランシュを連れて行こうとすると、カチャンと音がした。ブランシュから何かが落ちた。日菜子が拾うと鍵のようだった。
「これは何の鍵?ブランシュ、あなたのもの?」
日菜子はブランシュに話しかけながら、カウンターまで歩いて行った。カウンターにたどり着くとブランシュは日菜子の腕の中から、ふわっと飛び降りてカウンターの定位置に丸くなった。日菜子は拾った鍵をマスターに手渡した。
「ブランシュ、この鍵どこで拾ってきたんだい?」
マスターがブランシュに聞いても、寝そべったまま、しっぽを大きく一度揺らめかせただけだった。
「不思議な猫ですね。それともあなたが特別なのかしら。ブランシュとお話できるなんて。」
日菜子はカウンター席に座ると言った。
「ははは。僕は特別なんかじゃないよ。もちろんブランシュもね。僕はカフェマイスターだよ。」
マスターは日菜子に名刺を差し出した。
Larme de la luneオーナー
夜カフェマイスター
早瀬 エベン
手渡された名刺にはそう書いてあった。シルバーの箔押しがブランシュの毛並みのように美しい色の名刺だった。
「ブランシュがそこまで人を警戒しないのは、初めてだよ。君の方こそ、何か特別なものを持っているのかい?」
「私は瀬尾日菜子。ただのフォトグラファーの卵ですよ。早瀬さんとブランシュの間には目に見えない繋がりがあるようには想いますけどね。」
「――そうだね〜。どうだろう?」
日菜子の言葉に早瀬は微笑むと、鍵を持ってピアノの方に歩いて行った。
「ピアノを店に置いたのはいいんだけど、鍵が見あたらなくてね。ずっと探していたんだよ。」
早瀬はピアノの鍵穴にブランシュが持ってきた鍵を差し込んでみた。クルッと回ったが開かなかった。
「おかしいな。この鍵だと思ったのだけどな…。」




