ショコラテリーヌ
「ごめん。空耳かも。」
ふわっと日菜子の心の中に湧いてくる言葉は感覚も一緒にもたらす。さっきのは胸が締め付けられるような痛みを伴う悲しみの感覚だった。だけど、胸騒ぎがするだけで確信があるわけではない。曖昧だ。だから、確かなことは言えない。
「たぶん気のせい。最近仕事が忙しくて寝不足気味だからかも。」
日菜子は湧いてきた心のざわめき隠すように、自分をも納得させる言葉を選んだ。
「美味し♡」
黙々とプリンを口に頬張りながら美織が言った。
「静かだね、美織。」
舞はプリンをひと口、金色のスプーンですくった。
「美味しすぎて言葉が出ないのよ。」
美織は口の中にあったプリンを愛おしそうに飲み込んで続けた。
「私、こう見えてもパティシエールだし、スイーツ大好きでいろいろ食べてきたけど、ここのプリン最高!!」
「日菜子、ひと口食べてみる?」
「ありがと。でも今日は止めとく。このコーヒーの名残惜しい香りを消したくないのよ。ホントはショコラテリーヌも、どうしようかなって思ってたところ。」
「えっ!じゃあ私食べてあげようか?」
美織は満面の笑顔を日菜子に向けた。
「いいよ。はい、どうぞ。」
日菜子は美織にお皿を手渡した。
「じゃあ私もひと口ちょうだい。」
舞も横から手を伸ばした。
「♡♡♡」
美織と舞は目をまんまるくキラキラにさせ、目を合わせると頷き合った。
「どうしたの?」
「日菜子も食べてみなって!!」
「舞の言う通りよ!ほら!」
2人の勢いに圧倒された日菜子は、ショコラテリーヌをひと口食べてみた。
「美味しい。何これ……。」
想像してたのと全く違った。柔らかく口の中でゆっくり溶けていく。甘過ぎずショコラの苦みをほのかに感じながら口の中に余韻を残して消えていく。ラズベリーソースと合わさるとラズベリーの甘酸っぱさがショコラの苦みを包みこんで、爽やかに溶けていく。決してコーヒーの残り香を邪魔しない、上品で控えめなテリーヌショコラは、まるでこのコーヒーのために作られたスイーツのようだった。
「考えすぎだったかもしれない。こんなに美味しいコーヒーもスイーツも初めて。」
「ねっ!言ったでしょ!」
まるで自分が作ったかのように、美織は得意気に言った。
「ホントだね!」
「残りは日菜子食べる?」
「いいよ。食べて。」
美織が名残惜しそうにしてたので、日菜子は笑顔で残りをあげた。
プリンを食べ終え、コーヒーカップも空になった舞は、スマートフォンを取り出すと、しきりに画面を開いては閉じてを繰り返していた。
「舞、どうしたの?さっきからスマートフォンばかり気にしてるようだけど…。」
「あっ、ごめ〜ん。」
「さては、彼氏できた?」
「そんなんじゃないって。」




