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声にならない言葉

「ブランシュは人見知りなんだ(笑)」

 マスターが苦笑いすると、舞は仕方ないというオーバーアクションを2人にして見せた。

「私いつも動物に逃げられちゃうのよね。」

「距離が近過ぎよ。舞はとてもフレンドリーだけど、最初っから距離感がないから。急に近づき過ぎて、警戒しちゃったのかもしれないね。」

 美織はとっさに出た言葉があまりフォローになってなくて、笑った。

「そこが舞のいいところでもあるんだけどね。私、高校入ってすぐあまり誰とも馴染めなくて、でも、舞が『一緒にお弁当食べよ!』って誘ってくれたから凄く嬉しかったの。今も昨日のことのように覚えてるくらいに。」

 日菜子の言葉に対して舞は、気にしていないという素振りをやや大袈裟に笑いながら見せた。

「まぁ、いつものことだから気にしてないわ。」

 そうは言いながらも、一瞬どこか遠くを見ていた舞を日菜子は見逃さなかった。舞はいつも明るく元気にしていて、思ったことをすぐに口に出してしまう。でも時々自分の感情を、例えば心の中の海底に深く鎮めているのかしらと思うほどに、誰にも見せていないのではないかと感じることがあった。


「舞、大学はどう?」

 話題を変えようと日菜子が話を振ると同時に、後ろからマスターの声がした。

「お待たせしました。本日のおすすめコーヒーはアラビカ種アフリカンムーンです。」

 ひとつひとつ違うデザインのカップに注がれたコーヒーが静かにそれぞれの前に置かれた。一緒に注文したプリンとテリーヌショコラは、シンプルにデコレーションされていて、丁寧な仕事がなされていると、日菜子は感じた。


 少しの淀みもない澄みきった漆黒の液体は、コーヒーと軽々しく呼べない、煌めきを浮かべていた。

 日菜子はひと口、口に含むと驚いた。さっきまで何を話していたのか忘れてしまうくらいの衝撃をもたらすコーヒー。今まで飲んだコーヒーの中でダントツの味わいだった。口の中に含んでいると香りが鼻に抜けていくのに、口の中にはさらにしっかり濃厚にコーヒーの余韻が貼り付いていた。この余韻に浸りたい日菜子は、スイーツを頼んだことを少し後悔した。テリーヌショコラを口に入れてしまうと、この余韻はどうなってしまうのか、そんな心配をしてしまうコーヒーは初めてだった。美織も黙って、目も閉じて味わっていた。パティシエールの彼女にとって、カフェを訪れ味わうことは、仕事みたいなものでもあったからだ。


 ――『誰にも触れて欲しくない』

「んっ?何か言った?」日菜子は声がした気がして、2人に聞いた。

「何も言ってないよ。日菜子、また何か聞こえた?」感情の波が日菜子にざわめきを与える。何とも言えない、あまり喜ばしくない感覚が日菜子の身体を駆け巡るようだった。

 ――誰の感情……?

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