カフェ活
瀬尾日菜子は窓際のベッドに身体をダイブさせるとそのまま寝てしまった。さっきまでいたカフェでの会話が頭の片隅でリピートされていたけれど、それぞれの心の温度をなだめる余裕はなかった。
日菜子はいつも誰かの感情を空気のように感じ取ってしまい、それが怒りであれば穏やかになるように、悲しみであれば和らぐように、虚しさであれば満たされるように、想いを相手に注ぐことについ気を使い過ぎてしまう。相手の感情は相手のものなのに、自分がどうにかしないといけない衝動に駆られる。自分と相手の境界なんてまるでないかのようになってしまうこともあり、見失った自分を捕まえるのにまた、疲弊する。
日菜子は駆け出しのフォトグラファー。専門学校を卒業して、念願だったアンティークフォトスタジオ『Lotus』でアシスタントをしながら、仕事を覚える毎日。写真を撮ることが大好きな日菜子は、流れる時の中の一瞬を永遠にするような写真を撮りたくて、いつもカメラを持ち歩いている。プライベートのフォトアルバムアプリ『instants précieux―アンスタン・プレシュー―通称アンプレ』に載せる写真は、日菜子の閉じ込めたい一瞬で溢れていた。
昨夜は高校時代の友人、緒方舞と橘美織と月一のカフェ活で初めてのお店に行ったのだが、すぐに自分の気持ちを表に出してしまう大学生の舞と、こだわりの強いパティシエールの美織との会話で、いつも以上にエネルギーを使ってしまったようだ。
そうは言っても日菜子にとって二人は一番気心が知れていて、日菜子の特異な性質も理解してくれていた。
「高校の時も朱里はキラキラ女子だったけど、大学生になってからますますキラッキラ☆よね。」
舞が席につくなり言った。
「本当にね。毎日アンプレでキラキラ報告が忙しそうよね。」
美織が少し羨ましさを滲ませながら笑った。
お店の名前は『larme de lune』―ラルム・ドゥ・リュンヌ、一宮朱里のアンプレに載っていたお店だ。舞が朱里のアンプレで見つけると、すぐにでも行きたいと二人に都合を確認してきたのだった。
「でもこの雰囲気好き。たくさんのヴィンテージに囲まれて時間の流れが外と全然違う。あのグランドピアノ、誰か弾くのかな。」
日菜子はどこを切り取っても絵になりそうな店内をじっくり眺めながら言った。
「いらっしゃいませ。」
マスターらしき男性がメニュー表を持ってきた。
文字だけが載っているスタイリッシュなメニュー表を眺めると同時に舞が言った。
「あった!朱里のアンプレに載ってたプリン!」
「迷うな〜。やっぱりプリンかな。」
「私はテリーヌショコラ。」
舞と美織は朱里のアンプレに載ってたプリン、日菜子はテリーヌショコラを注文した。それぞれおすすめのコーヒーと共に。
――「あっ、かわいい猫ちゃん!」
カウンターのブランシュに気付いた舞は、ブランシュに駆け寄り撫でようとしたが、ブランシュはふらっと立ち上がるとカウンター裏の部屋に消えてしまった。




