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夜カフェマイスター

「美味すぎっ!―過去一の美味さです!!ずっと口の中で味わっていたい。」

 静夜がうなるとマスターは笑った。

「そんなに気に入ってもらえたなら、素直に嬉しいな。」

 マスターは洗い物の手を止め微笑んだ。ペルシャ猫のブランシュがふと顔を上げ、静夜を見るとしっぽをひと振りし、また丸まって寝てしまった。

「前ここ通った時、このお店なかったと思うんだけど、いつできたんですか?」

「2週間前だよ。海の見える街でゆっくりカフェのお店をしたいと探してたら、ここにたどり着いたんだ。」

 そう言うとマスターは名刺を取り出した。銀の箔押し加工がされた上品な名刺だった。


    Larme de la luneオーナー

       夜カフェマイスター

            早瀬 エベン


「夜カフェマイスター?早瀬さんは、どうして夜カフェなんですか?」

「エベンでいいよ。夜でもスイーツが無性に食べたいって思う時あるでしょ?がっつりディナーでもなく、酒飲みでもなく、ホッとひと息つきたい時あるじゃない?そんな時にふらっと立ち寄れる場所になりたいなってね。」

「いいですね。カフェで過ごす時間は贅沢で特別な時間だと想います。僕カフェ巡り大好きなんで、通っちゃいますよ。あっ、僕は朝香静夜アサカシズヤ。一応大学生です。」


 開店してすぐのお店にお客は静夜だけだったので、静夜は、ついカフェオーナーでありマイスターでもある、早瀬エベンと打ち解けてしまうくらい話し込んでしまっていた。そろそろ帰らなければとスマートフォンで時間を確認していると、静夜と同じくらいの女の子三人組が店内に入ってきた。


「わ〜かわいい。ここよ。あかりのInstants précieux―アンスタン・プレシューに載ってたお店。プリンが映えて美味しいって絶賛してた。」

「さすがあかりね。情報が早いわ。常にアンテナ張ってる感じだもんね。」

「独特な雰囲気のお店ね。」

 はしゃいだように高い声で話す女の子二人と、もの静かな女の子がテーブル席に案内されていった。店内は急に騒がしさを感じ始めた。


「やべ。帰らないと。レポート書かないといけなかったんだ。また来ます!」

 コード決済で支払いを済ませ、エベンに挨拶すると、ブランシュが静夜の足元に寄ってきた。静夜の周りを一周すると、ニャーーンと鳴いた。静夜はブランシュを優しく撫でると笑顔で言った。

「ブランシュ、僕《Larme de la lune》」が気に入ったよ。また来るね。」

「珍しいな。ブランシュが挨拶しに行くなんて。よほど君のこと、気に入ったんだな。」

静夜は心地よい余韻を感じながら店を後にした。

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