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第40話 測量と計測

 四人は送りの馬車から降りると、それを見送った。

 馬車を待たせておくと動物に襲われるので、馬車は行きだけらしい。

 帰りは行き着いた近くの村で馬車を頼むのが普通だが、以前はもう歩けなかったので途方に暮れていたらしい。


「さて……。皆狼避けの鈴は持ったね」

 アルベルトに言われる。Grailが何も警告をしないので、即時の危険ではないのだろうと藍は思う。


 孤立した狼が現れた地点。

 血痕が残っていた斜面。

 ヨーナスが倒れ、応急処置を行った場所。


「……なんだか、思い出しますね」

 藍が言うと、ヴィヴィアナが静かに頷く。

「この辺りに、あの狼がいないと良いけど……」

「当該の狼は狂犬病を発症していたので、十日程度で死んでいるはずです。ですが、この一帯の野生動物にはとにかく注意をしましょう。錯乱していないと思っても、とにかく接近は避けるべきです」

 Grailの言葉に皆が頷く。

「それで——測量方法はどのように?」

「歩いて書いて、歩いて書いて、だね」

 グランハルトの言葉に藍は耳を疑った。

「……えっと……測量士さんとかいないんですか?」

「我々のことだね」

「え? 魔術師じゃ」

「それも我々だね」

 ヴィヴィアナは「神官ってそういうの知らないんだっけ……?」と不思議そうに言いながら藪に入っていった。

 後をアルベルトが続く。


 Grailと二人になると、Grailは藍の疑問に簡潔に答えた。

「日本でも整備されていない森に入るのは危険です」

「それはそうですけど……」

「彼らは魔法という手段で身を守れ、時に水の浄化や火を起こせます。身軽に見えますが、我々の感覚ではフル装備に当たります。これは魔術師以外が測量を行わない決定的な理由です」

 確かに、と藍は頷くとアルベルトたちが手を振る方へガサガサと進んだ。

 ズボンじゃないと絶対行かせられないとGrailに散々言われたが、こういうことかと納得する。


「……Grail、何か……早く測量する方法ってないんですか?」

「よりよい回答のため思考しますか?」

「してくださーい」

「では、長くなるので一度二人を呼んでください」

 藍が二人に戻ってきて欲しいと大声を上げる。

 Grailは静かに思考した。


 そして、二人が来る前に説明を始める。

「現代の測量は目的に合わせて手法を選択しています。航空レーザー測量、空中写真測量、高精度GPSによるGNSS測量があります」

「どれだったら、Grailに再現できます?」

「航空レーザー測量が最も現実的です」

「じゃあ、それで行きましょう」


 二人が頷き合う頃、アルベルトたちは戻った。

「どうかしたのかい?」

「やっぱりアイには大変だった?」

 藍は首を振った。


「これより、一帯の測量を開始します。どなたか、箱状のものをお持ちの方はいますか?」


 Grailの言葉に、藍まで含めて目を瞬かせた。


 ヴィヴィアナが弁当箱——竹製のランチカゴを取り出す。

 中身は小さなリンゴとサンドイッチが入っているだけの簡素なものだ。日本の弁当からはあまり考えられない。

 Grailはそれを受け取ると、近くにあった木に絡まる蔦を引きずり剥がし、弁当箱に結んでつける。

「グランハルトさん、ヴィヴィ、蔦を増やして結んで伸ばして下さい。私は椎名さんと詠唱符の作成を行います」

 二人の背を見送る。


「私はあなたの鉛筆です。世界は確実にそう認識しています」

 Grailが手を伸ばす。

「——あなたが書いていると認識させられれば、最初から光路線となり、理解が及ばなかった地点で光路線は消えます」

「……理屈はそうかもしれないです」

「やってみましょう。今から書くものは、これまでで一番長くなります。集中が必要です」

「難しそう……。わかるかな……」

 Grailは笑った。

「椎名さん、できるよ。君が信じる文明の利器——GVPAを信じてみて」


 藍はGrailの手を取り、空いている手で詠唱符を押さえる。

 Grailは説明を開始しながら、詠唱符に一気に文字を書きだした。


 当たり前のように線は光り輝いていく。

 航空レーザー測量に必要な概念。

 レーザー光の照射、ドローンとして機能する浮遊、反射を受け取る受信器に必要な物事の基礎知識。 

 重力、揚力、ジャイロセンサー、拡散しない直進性の高い光。


 藍の額に汗が浮かぶ。

 かなりの難易度だが——理解はできる。

 小学生向けの言葉だからかもしれない。

 Grailが三十五枚もの詠唱符用紙を作成し、手を繋いだまま藍に渡す。

 繋いでいた手が離れる。

 そこからは藍は息をしなかった。

 光り続ける詠唱符と、何も書かれていないありったけの紙、インク壺、それから小石を弁当箱に入れ、蓋をする。


「行け!!」


 叫んだ瞬間、箱が巨大な円形の魔法陣に包まれ——蔓を残して一気に空に上がっていく。


「えぇ!?」

「アイ!?」


 アルベルトとヴィヴィアナ、Grailが眩しそうに空を見上げる。

 藍は手を胸の前に組み、また息を止める。


 今——


「——照射」


 空に浮かぶ円形魔法陣の上に、さらに巨大な魔法陣が浮かび、カッと強い光を放つ。

 そして、魔法陣は全てが消え、箱はそのまま風に流されながらどこかへ落ちて行った。


 藍はへなへなとその場にへたり込み、皆が駆け寄った。

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