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[完結]【猟奇的サイコスリラー】イミテーション  作者: てっぺーさま
最終章 悪魔の遊戯

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混沌

【悪魔も聖書を引用できる——】


衝撃のラスト!

あなたはきっと騙される!!

「お嬢様、始めてもよろしいでしょうか?」

 アサミと呼ばれる女に声をかけられ、麗子が笑みを浮かべてうなずいた。

 と、そのときだ。倉庫内にすさまじい爆発音が響き渡った。金属の扉が爆発物で吹き飛ばされたような音だ。直後に、騒々しい足音とともに暗がりから男たちがなだれ込んできた。自動小銃を構えた機動隊員のような集団が威圧感を放ちながら登場し、その後ろに背広姿の男たちが続く。総勢で二十人ほどか。

「動くな! 警察だ!」

 背広姿の男が拳銃を構えながら鋭い声で叫んだ。場の空気が一瞬にして様変わりした。突如現れた男たちによって、この場はあっという間に制圧された。

 拓海は呆然としながら成り行きを見守った。アサミと呼ばれる女は焦りを隠せず、視線を忙しなく周囲に走らせている。徹底して落ち着き払っていた女が動揺している姿は、どこか滑稽ですらあった。沢尻も同様だ。麗子を守るように彼女の前に立つものの、落ち着きを欠いた様子で焦りの色が浮かんでいる。常に冷静沈着だった男でも、さすがにこの状況では平常心を保てないらしい。

 だが、麗子だけは違った。驚きつつも、どこかこの状況を面白がっているように笑みを浮かべている。

「警察が来たわ! 今すぐすべてのデータを消去して!」

 アサミと呼ばれる女がスマホを耳に当て、叫ぶような声で指示を飛ばす。かなり切羽詰まった表情をしている。

 当然ながら、黒のボクサーパンツ姿の男たちも動揺を隠せないでいる。少し前まで醜悪な視線を美穂に向けていただけに、彼らの狼狽ぶりは見ていて小気味よかった。すると、男の一人が刑事たちとは反対方向へ駆け出した。他の者たちも慌てた様子であとに続こうとする。

 次の瞬間、耳をつんざく銃声が倉庫内に轟いた。鼓膜が破れるのではないかと思うほどの爆音だ。刑事の一人が天井に向けて発砲したのだ。銃声にたじろぎ、男たちの足がいっせいに止まる。銃の効果は絶大だった。男たちは銃を握る刑事を怯えた目で見つめて固まっている。その姿は、まるで屠殺を待つ無力な家畜のようだ。

 三十代後半ほどの刑事が麗子に向かって歩いていく。

 麗子の前に立ち塞がっていた沢尻だったが、刑事が目の前に来ると、不承不承といった様子で場所を空けた。

「新庄麗子だな? 十三時五十一分、誘拐監禁の容疑で現行犯逮捕する」

 刑事が手錠を取り出すと、麗子は苦笑しながら両手を前に差し出した。

 銃声による耳鳴りがいまだ続く中、拓海は手錠を掛けられる彼女の様子を呆然と見つめた。

 麗子以外の者たちは一か所に集められていた。沢尻、ビデオカメラを手にしていた白シャツの男二人、アサミと呼ばれる女と彼女の部下らしき黒服の男数名、そしてボクサーパンツ姿の男たちだ。彼らの周りを機動隊員が取り囲んでいる。機動隊員たちは自動小銃の銃口を床に向けて構えていたが、いつでも発砲できるようにと気を張っているように見えた。

 刑事の一人が、吊るされた佐藤のもとに歩み寄っていく。佐藤の股間に目を向けた刑事がすぐに視線を外す。その顔は苦悶に歪んでいた。それも当然だろう。あんなものを見て平気でいられるわけがない。

 美穂はというと、彼女は生気のない目で虚空を見つめていた。まるで電源を失った家電製品のように、単なる()()として存在しているかのようだ。

 拓海は今の一連の出来事に頭が追いつけないでいた。すべてがあまりにも突然すぎた。

「助かった……のか?」

 ふと麗子と目が合う。彼女が苦笑まじりに口を開く。

「拓海さん、あなた、意外と強運の持ち主なのね」

 敗北宣言ともとれる彼女の言葉に、胸の底から安堵感が湧き上がってきた。本当に助かったようだ。そんな中、倉庫内に甲高い声が響き渡った。

「はっはぁ! ざまあみろ! お前はそのまま刑務所でくたばっちまえ!」

 佐藤が吠えていた。この状況に息を吹き返したようだ。罵倒だけでは飽き足りないらしく、麗子に向かって唾も吐きかけてる。その憤怒は理解できた。彼は男にとって最も大切なものを奪われてしまったのだから。

 足の怪我はいずれ癒える。しかし、切り取られた陰茎は二度と元には戻らない。助かったのはいいが、彼は残りの人生を生殖器のないまま歩まねばならない。性行為はおろか、放尿にも苦労するだろう。ならば、いっそここで死んでいたほうがましだったのではないか。

「お前らよぉ! 何突っ立って見てんだよぉ! 早くおろせよぉ! おろせって言ってんだろぉ!」

 佐藤は今度は刑事らに罵声を浴びせていた。刑事たちは、どう下ろせばいいのか困惑した様子で立ち尽くしている。

 刑事の一人がスマホを耳に当てて救急車を要請した。

「はい。三台お願いします」

 手配を終えた若い刑事が拓海の背後に回り、背中側の拘束具を確認している。

「もう少し我慢してください。切断する道具を用意するんで」

 拓海は力なく刑事にうなずいて見せた。

 数人の刑事たちが美穂を拘束している器具を調べ始めていた。彼女はいまだ死人のように青ざめた顔で放心している。拓海は一刻も早く彼女のそばに駆け寄りたかった。

 佐藤はいまだ吠えまくっていた。だが、身体が揺れるたびに激痛が走るのか、苦悶の声をたびたび発している。

 拓海が彼と共謀して麗子を殺そうとした事実は、いずれ明るみになるだろう。だが、たとえ罪に問われたとしても、麗子の罪に比べれば軽く済むのではないだろうか。なんせ、彼女は佐藤のペニスを切り落としているのだから、軽い刑で済むはずがない。だが、どちらにせよ、今は命が助かったことを素直に喜びたかった。

 刑事に二の腕をつかまれながら麗子が連行されていく。その様子を目で追っていると、彼女は腕をつかむ刑事に何やらささやいた。すると、刑事がしぶしぶといった様子でうなずいたかと思うと、麗子を伴ってこちらに向かってきた。

 麗子は手錠を掛けられながらも、神々しい威厳と気品が内面からにじみ出ていた。生粋の資産家令嬢ならではの高貴な威厳に、拓海は畏怖(いふ)の念すら覚えた。

 彼女が目の前に立ち、拓海は何を言われるのかと少し身構えた。

「拓海さん、今どんな気持ち?」

 そう聞かれ、拓海は言葉に詰まった。今は何とも形容しがたい気持ちだった。助かったのだろうが、椅子に縛られたままでは手放しに喜べなかった。

 麗子の顔に悲壮感は微塵もなかった。彼女は手錠の掛かった両手を掲げると、いたずらっぽい笑みを浮かべた。

「あーあ、わたし、こんなのつけられちゃった……。でもまた、すぐに会えると思うわ。すっごい優秀な弁護士を雇って、無罪を勝ち取るの。だって、あなたは佐藤さんと二人して、わたしを殺そうとしたんですもの。ある意味これって、正当防衛だと思わない?」

 確かに彼女の言う通りかもしれない。証拠となる隠し撮りされた映像が山ほどあるはずだ。それが麗子側に有利に働くのは間違いない。それに、遺産目当ての結婚という動機は陪審員の心証を悪くするだろう。だから、あながち麗子が無罪になる可能性もゼロではないのかもしれない。むしろ、今の彼女の自信に充ちた顔を見ていると、確実に無罪を勝ち取りそうな気がしてしまう。

 そんなことを考えていたところで、「そこまでだ」と刑事が遮り、麗子の腕をつかんで連れていこうとした。

「あ、待って、最後に一言だけ」

 麗子は強引に踏みとどまると、両手を招き猫のように上げて見せた。彼女の右手には、赤いボタンが付いた小さなスイッチがあった。

 彼女が勝ち誇った顔で言う。

「これ、何だと思う?」

「そ、それは!?」

 先ほどまで沢尻が持っていたものに違いない。いつの間にか麗子の手に渡っていたようだ。

 刑事に警告するよりも早く、麗子が親指で赤いボタンを押し込んだ。

「待て、麗子!」

 すぐさま甲高い悲鳴が響き渡った。美穂の首に電流が流れたのだ。刑事が異変に気づいて麗子に飛びつくが、彼女は地面に転がると、スイッチを死守するように身体を丸める。

「麗子、放せ! 頼むから放してくれ!」

 拓海は声の限りに叫んだ。そこに美穂の悲鳴が重なる。彼女の悲鳴は絶えることなく響き続ける。

 別の刑事が加勢に入る。一人が麗子を羽交い締めにして仰向けにさせると、他の二人がスイッチを握った指を引き剥がしにかかる。美穂の悲鳴はなおも続いている。やがて三人掛かりで、刑事たちは麗子からスイッチを奪い取ることに成功した。同時に悲鳴も止んだ。とたんに不気味な静けさが倉庫内に漂った。

 美穂に目をやると、刑事の一人が彼女の安否を確認していた。彼女は口から泡を吹き、白目を剥いていた。腰回りには黄色い水たまりが広がり、さらに汚物の匂いも漂ってきた。どうやら今のショックで排便してしまったらしい。

「刑事さん! 美穂は、美穂はだいじょうぶですか!?」

 拓海がそう叫ぶと、美穂に寄り添う刑事は力なく首を横に振った。どうやら、状態はあまり良くないらしい。

 刑事二人に脇を抱えられていた麗子が、勝ち誇った笑みを浮かべてこちらを見下ろしてくる。

「この……!」

 殴り殺してやろうと思い、拓海は身を前に乗り出した。だが、ステンレス製の椅子が軋んだだけに終わる。代わりに、麗子を思いっきり睨みつける。しかし、彼女は意に介する様子もなく平然としていた。

「これで、少しは気が晴れたわ」

 麗子は鼻を鳴らして卑屈な笑みを浮かべた。そして、険しい顔をした刑事に乱暴に腕を引っ張られて連れていかれた。

 拓海は遠ざかっていくその背中を怒りのまま睨み続けた。彼女とはまた、裁判などで顔を合わせることになるのだろうか。できれば、あの顔はもう二度と見たくなかった。

 沢尻とアサミと呼ばれていた女も、麗子に続くように連行されていった。ボクサーパンツ姿の中年男たちだけがその場に留まり、機動隊員によって囲まれている。彼らはみな膝を抱えて怯えきっている。

 拓海は美穂に視線を向けた。まだ意識を取り戻していないのか、力なく首を垂れている。

「美穂……」

 早く彼女の安否をこの目で確かめたかった。そして意識を取り戻したなら、この計画に巻き込んでしまったことを全力で謝りたかった。

 果たして美穂は、許してくれるだろうか。こんなことがあっても、以前のように愛してくれるだろうか——。

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