疑問
【悪魔も聖書を引用できる——】
衝撃のラスト!
あなたはきっと騙される!!
拓海はふと、頭に浮かんだ疑問を口にした。
「……民間療法を、試したのは?」
「ああ、あれはね。生きるのに必死じゃないとリアルに見えないでしょ? あなたに疑念を抱かせないよう生きるのに必死な重病人を演じたのよ。でもさ、あなたもあれよね。良き夫を演じるなら、せめてセカンドオピニオンくらい提案しなさいよ。こっちはばれないよう必死にやってたっていうのに、あなた、最初からわたしがだまされてるって信じ込んでるもんだから手を抜き過ぎなのよ。ただ優しい言葉をかけてくるばかりで、正直いろいろ歯がゆかったわ」
確かに麗子の言う通りだ。拓海は、一度たりとも彼女を疑おうとしなかった。
「あと覚えてる? 祈祷師を呼んだとき、わたし、ベッドで顔を上げられなかったでしょ? あれはね、あの人の言葉にショックを受けて本気で泣いてたからなの。泣いたせいでメイクが崩れちゃって、顔を見せれなかったの。で、何で泣いたかっていうと、あれってただの演出のつもりで呼んだんだけど、驚いたことに、あの祈祷師は本物だったの。あの人、わたしに何て言ったと思う? あの人ね、あなたのご主人はあなたを愛してませんよって断言したの。あの人はあなたを一目見ただけで悪意を見抜いたのよ。すごいでしょ? わたしマジでビビっちゃって。しかも、どうやらわたし、悪い霊をたくさん背負ってたみたいで、パパほどじゃないけど、いろいろ悪いことしてきたから、知らず知らずに悪い霊を呼び込んでたみたい。あの人から悔い改めなさいって言われて、それで思わず感極まっちゃって……」
あの祈祷師は、見た目通り只者ではなかったようだ。
祈祷師の話でいくらか表情を曇らせていた麗子だったが、すぐに明るさを取り戻した。
「でもね、祈祷を受けて身体がめっちゃ軽くなったの。だからまた、悪い霊が憑いたら祓ってもらえばいいかなって。だってそうでしょ? そのために、ああいう人たちがいるわけなんだから」
拓海はその言葉に恐怖した。どうやら、悔い改めるつもりは微塵もないようだ。
するとここで、麗子が寂しげな表情を浮かべた。
「今回のことって、パパが生きてたら絶対に反対してたと思うの。きっと、天国で呆れてるかもね、また子どもじみた真似してって。でもしょうがないじゃない。だってわたし、いつまでたっても心は子どものまんまなんだから」
そうだ。子どもなのだ。麗子はまだ、小さな子どもなのだ。だからこそ恐ろしい。子どもは残酷だ。子どもは平気で生きた虫を殺す——。
「ああ、そうそう。あなた、わたしの病室に盗聴器を仕掛けたわよね」
「え……」
拓海はまたも唖然とする。何から何まで、こちらの行動は筒抜けだったようだ。これでは排泄の様子まで覗かれていたのではないかと疑ってしまうほどだ。
「何でわかったのかって? それはね、あなたのスマホとパソコンに監視ソフトを仕込んでおいたから。あなたがネットで盗聴器を買ったのを知って、きっと病室に仕掛けるんだろうなって。それで、沢尻さんと簡単な台本を作って、あなたが警戒を解くような会話をしたってわけ」
彼らの徹底ぶりに、拓海はただ唖然とするしかなかった。
「でもまあ、全体的に計画は順調だったかな。ちょっと予想外だったのは、あなたがリョウって子に脅されたことかな。あ、あと、あなたが彼女さんを佐藤さんに近づけたことね。そんな展開は予想してなかったから意外と面白かったかも。あ、そうだ。彼女さんといえば、こんなのがあるの。沢尻さん、貸して」
麗子は沢尻からタブレットを受け取ると、画面をスワイプさせていく。やがて、目の前の液晶モニターに映像が映し出された。
「な……!?」
流れ出した映像を見て、拓海は言葉を失った。美穂のアパートで愛し合っている映像だったからだ。
麗子が愉快そうに口を開く。
「とても仲がいいのね。正直、お似合いのカップルだと思うわ。ちょっと妬けちゃうくらいにね。でも気づかなかったでしょ? 彼女さんの部屋にカメラが仕掛けてあったこと。実はね、お隣の202号室から二十四時間彼女さんを監視してたのよ」
「あ、それでか……!」
拓海は合点がいって思わず声を漏らした。麗子と付き合い始めたタイミングで、中国人の騒々しい隣人が引っ越したことを思い出す。金にものを言わせたのか、脅しをかけたかして退去させたのだろう。
「あとね、こんなのもあるの」
麗子がタブレットをタップすると映像が切り替わった。
「くっ……」
拓海は即座に顔を背けた。美穂がフェラチオをしている映像だったからだ。
「これはちょっと刺激的すぎたかしら? でも、次のはもっとすごいわよ」
麗子が再びタブレットを操作する。
「な……!?」
切り替わった映像を見て、拓海は頭が爆発しそうになった。美穂が、佐藤の尻を舐め上げていたからだ。
「どう? 知らなかったでしょ? あなたの彼女さん、佐藤さんに気に入られるためにこんなこともしてたのよ。本当に頭が下がるわ。愛するあなたのためとはいえ、すごい根性よね」
このとき初めて、拓海は麗子に対して本気の殺意を覚えた。これまで金のために死んでほしいと願ってはいたが、殺したいとまでは思わなかった。だが、今の映像を見て、抑えきれぬほどの殺意がほとばしった。
こちらの怒りとは対照的に、麗子は涼しい顔をしていた。
「そんな怖い顔しないでよ。もとはといえば、あなたたちのほうから仕掛けてきたゲームなんだから、非難される覚えはないわ」
拓海はなおも怒りのままに麗子を睨み続けたが、美穂の甲高い嬌声が聞こえてきて思わずモニターに顔を向けてしまう。正常位で佐藤と交わる美穂が鼻息荒く喘いでいた。
「ああ、すごいあったかい……。佐藤さんのおちんちん、あったかい……」
拓海は視線を外して固く目を閉じた。だが、美穂の喘ぎ声だけは遮断できなかった。
すると突然、麗子が大声で笑い出した。
「ねえ、覚えてる? わたしがあなたの用意したお水を見て、変な匂いがするって言ったときのこと? あのときのあなたの顔、ほんと傑作だったわ。目なんて、こーんなに大きく見開いて、まるで幽霊でも見たみたいな驚いた顔してて。あんまりすごい顔だったから、わたし、笑いをこらえるのに必死だったんだから。あ、そうそう。その顔もバッチリ撮影されてるのよ。見てみる?」
麗子はそう言って、タブレットに視線を落として軽快に指をスワイプさせていく。やがて、液晶モニターに流れていた美穂と佐藤のセックス映像が切り替わり、病室のベッドで横たわる麗子が映し出された。
画面を見ていると、映像が早送りされ、奥の横開きのドアからマスク姿の拓海が姿を現した。その後も、不自然にカクカクとした早送り映像が続く。ベッド脇に立った拓海がサイドーボードの上に置かれた水差しを手にして画面の外へ消え、やがて水差しとメロンの乗った白い皿を持って戻ってくる。拓海がベッド脇の椅子に腰を下ろしたところで、映像はふっと通常の再生速度に戻った。
麗子がコップの水を口に運ぼうとして、ふと動きを止める。そして水の匂いを確かめるように鼻を寄せる。
「このお水、何か変な匂いがする……」
その一言に、画面の中の拓海の顔が、一瞬にして驚愕の表情に変わった。
麗子が言っていた通り、信じられないほど間抜けな顔で驚いていた。自分の滑稽な姿を目の当たりにして、拓海は羞恥心で顔がかっと熱くなった。
「これこれ! どうこの顔、めっちゃやばくない?」
麗子は腹を抱えて笑い、目に涙まで浮かべている様子だ。
「最高よね! まさに悪さがばれたときの顔って感じで、ほんと傑作なんだけど。もう一度見ちゃお♪」
麗子は同じシーンを再び再生させて大笑いする。拓海の胸の内で、彼女への殺意がふつふつと再燃する。
気づくと、ビデオカメラのレンズがすぐ近くまで迫っていた。撮影する二人は、こんな状況でも表情を変えることなくビデオカメラを構え続けている。その無機質な姿は、ひどく不気味だ。
拓海がビデオカメラを睨みつけていると、麗子が口を開いた。
「カメラ、気になる? まあ、気になるわよね。なんで撮ってるかっていうと、ここの映像とこれまで撮ってきた隠し撮り映像を使って、わたしだけのドキュメンタリー映画を作ってもらうつもりなの。いいアイデアだと思わない? 二時間くらいにまとめてもらって、ヒマなときにでも見ようかなって。だってわたし、この日のために一年以上もがんばってきたのよ。記録に残さないと、もったいないでしょ?」
狂ってる! この女、本当に狂ってる! 拓海は彼女の狂気に戦慄した。
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