真相
【悪魔も聖書を引用できる——】
衝撃のラスト!
あなたはきっと騙される!!
「沢尻さん、新しい男の子はいつ呼べるの?」
後部座席から声をかけると、やがて運転席から落ち着いた声が返ってくる。
「性病検査の結果待ちですから、問題がなければ数日中には呼べるかと」
「そう、わかった」
ヴィトンで爆買いをしたあとだった。ストレス発散が目的だったが、大して気分は晴れていない。最愛の家族が病に伏してるのだから無理もなかったろう。
父親を失うかもしれないという恐怖心は、買い物程度では埋まらなかった。結局、不安を一時だけでも忘れさせてくれるのは男の体温だけだ。そのため、最近はヒマさえあればセックスに明け暮れていた。とはいえ、誰でもいいというわけにはいかない。清潔感と見た目の良さはもちろんだが、口の堅い男でなければならない。麗子はそんな男たちを沢尻に手配させていた。
突然、運転席から鋭い声が響いた。
「お嬢様」
麗子は思わず身を乗り出す。
「何?」
「どうやら、尾行されてるようです」
予想外の言葉に、麗子は思わず振り返りそうになった。
「間違いないの?」
「ええ。どうされますか?」
「……そうね。とりあえず、このまま病院に向かって」
「わかりました」
麗子の胸がゾクゾクと高鳴った。正体不明の何者かにつけられているという状況が実に刺激的だ。
目的地に近づいたところで運転席に声をかける。
「どう? まだ、つけてきてる?」
「ええ」
やがて、病院のエントランスにリムジンが横づけされた。
「どう?」
「後ろに止まりましたね」
沢尻がバックミラーを見ながら答えた。
「じゃあ沢尻さん、こうしましょ。わたしのあとをつけてくる人がいたらスマホで撮ってちょうだい」
「承知しました」
「三十分くらいで戻るわ」
*
「麗子、今日は何だか楽しそうな顔をしているな」
「そう? パパの気のせいじゃない?」
「お前は、また良からぬことを企んでるんじゃないだろうな?」
「わたしのことはいいから、早く元気になってよね」
*
リムジンに戻った麗子は、身を乗り出して沢尻にたずねる。
「どう、撮れた?」
「ええ」
「見せて」
スマホを受け取り、画面を確認する。そこには見知った男が写っていた。
「その男は、確か……」
「そう。わたしの元カレさんね。佐藤良彦さん。三か月くらい付き合ったのかな? 確か、野性味のあるところに惹かれたんだっけかな。まあいいわ。とりあえず出して」
リムジンが走り出してすぐに沢尻が声を上げた。
「お嬢様、またつけてきてます。どうしますか?」
麗子は少し考えてから唇の端を吊り上げた。
「いいわ。そのまま家に向かって。あとそうね、尾行がしやすいようにゆっくり運転してあげて。せっかくだし、彼に正体を明かしてあげましょうか。うふ、なんだか面白くなってきたわね」
* * *
話を聞き、拓海は愕然とした。そもそもの始めから、麗子は佐藤の存在に気づいていたのだ。
動揺が収まらぬ中、麗子は楽しげに語り続けた。
「でね。パパが亡くなってすぐに、あなたが偶然を装ってギャラリーで声をかけてきたでしょ? その瞬間、ピンときたの。これはきっと、佐藤さんが絡んでるなってね。だってあなた、これまでナンパなんてしたことないでしょ?」
「……え、なんで?」
麗子の鋭い指摘に、拓海は言葉を失う。確かに、ナンパの経験は一度もなかった。
「あのね、ナンパしてくる人って、独特の空気感があるの。ホストといっしょ。ホストって、一目見ただけでホストってわかるじゃない? ナンパする人もそれといっしょなの。軽薄さが全身からにじみ出てるっていうか、要するにチャラいのよね。でも、あなたにはそれがなかった。むしろ、第一印象は誠実そうな人だなって思ったくらいだもの。もうね、根本的な部分って隠しようがないの。あなたみたいな生真面目な人は、絶対にナンパなんてしないの。わかる? だから、会った瞬間から違和感を感じて沢尻さんに調べてもらったの——」
* * *
「お嬢様、〝桜井拓海〟の調査報告書が届きました」
沢尻はそう言って、応接室のテーブルに写真を並べていく。
麗子は写真をざっと眺め、一枚の写真を手に取った。薄暗い店の中で、桜井拓海が佐藤良彦と会っているものだ。
「ほらね、わたしの言った通りだったでしょ? 彼、やっぱり佐藤さんの指示でわたしに近づいたようね」
「そのようですね」
「あの負けず嫌いの佐藤さんのことだから、わたしのやったことを知って、何か仕掛けてくるんじゃないかって思ってたけど。なるほど、こうきたわけね」
麗子は別の写真を手に取る。アパートのベランダ越しに撮られたもので、桜井拓海が小柄な若い女と親しげに寄り添っていた。
「交際五年とのことです」
沢尻の報告に、麗子は大きなため息を漏らす。
「ほんとわたしって、つくづく男運がないのよね。彼、けっこう好みだったのに……。ちなみにこの彼女さん、彼らの計画を知ってるのかしら?」
「さあ、どうでしょう? 調べてみないことには」
「まあ、それもそうよね」
「あとお嬢様、こちらをお聞きください。桜井拓海と佐藤良彦の会話を録音したものです。これを聞けば、彼らの計画がおわかりになります」
「聞かせて」
録音音声を聞き、麗子は彼ら二人が遺産目的で自分を殺そうとしていることを知る。
「ずいぶんと大胆な計画を立てたものね。わたしを殺して遺産を奪おうだなんて。でも、佐藤さんらしいといえばらしいかな」
「お嬢様、どうなさるおつもりで?」
麗子は少し考えてから口元に笑みを浮かべた。
「そうね、彼らの企みはわかったわけだから、しばらくはだまされたふりをしてあげましょうか」
「かしこまりました」
「沢尻さんは、引き続き二人を徹底的にマークしてちょうだい。あとそうね、拓海さんの彼女さんも念のため見張っておいて。関係者全員の行動を把握しときたいから」
「はい」
「家に盗聴器とか隠しカメラとか、何でもかんでも仕掛けて徹底的にやってね。お金に糸目はつけないから」
「承知しました」
「さあ、沢尻さん、これから忙しくなるわよ」
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