執事の倫理観 ①
【悪魔も聖書を引用できる——】
衝撃のラスト!
あなたはきっと騙される!!
「昨日、芝居が好きだっていう看護師の子と少し話をしたよ」
「ああ、ヨシザワさんね……」
麗子は辛そうに顔をしかめながら答えた。唇は白くかさつき、昨日よりもさらに衰弱しているように見える。もう一か月ももたないのではないだろうか——。
「彼女、ぼくの舞台を見に来たいって言ってたよ」
「そう、わたしが勧めたの……。見に行ってあげてって……」
「そうだったんだ。これ、舞台のパンフレット。ここに置いとくから、来たときに渡してあげて」
「ええ、わかったわ……」
だいぶ辛そうなため、拓海はそれ以上話しかけるのを控えて文庫本に視線を落とした。
しばらくして、か細い声が響く。
「……拓海さん、サクラはどうしてる?」
「元気にしてるよ。ちゃんと可愛がってるから心配しないで」
「そう、ならよかった……。でもあの子、寂しがり屋だからちゃんと見ててあげてね」
「わかってるよ。安心して。ちゃんと見とくから」
「お願いね……」
「ああ」
か細く震える声で麗子は続けた。
「……拓海さん。わたしのこと、まだ愛してる?」
「もちろんさ」
「……本当に?」
「ああ」
「信じて……いいのよね?」
拓海は麗子の手を取り、真剣な眼差しで言った。
「麗子、あのとき誓ったじゃないか。どんなことがあっても、君を愛し続けるって」
「そうね、そうよね……。ごめんなさい、疑ったりして……。でもわたし、今こんなだから、あなたの気持ちが離れてるんじゃないかって不安で……」
拓海は彼女の手を強く握りしめた。
「麗子、心配しなくていい。ぼくは今でも君のことばかり考えているんだから。初めて会ったときからずっと、ぼくは君に恋してるんだ。ぼくには君しかいないんだよ」
「拓海さん……」
麗子の目に涙が浮かんだ。どうやら今の言葉は、狙い通り彼女の胸に響いたようだ。
彼女が望むのであれば、拓海はいくらでも愛の言葉を投げかけるつもりでいた。せめて最期だけは、穏やかな気持ちで旅立ってほしいと心から願っていた。なぜなら、資産家の家に生まれたというだけで、彼女には何の罪もないからだ。運悪く悪鬼に目をつけられただけなのだから——。
そろそろ病室に来て一時間が経とうとしていた。拓海は静かに立ち上がると言った。
「麗子、明日また来るよ」
* * *
病室を出たところで沢尻と出くわした。彼は三、四日に一度のペースで麗子の病室を訪れていた。
「拓海様、ちょうどよかった。このあと、お時間ありますか?」
「少しなら、だいじょうぶだけど」
「では、下の駐車場でお待ちいただけますか? すぐに向いますので」
「うん、わかった」
「ではのちほど」
沢尻はそう言って、横開きのドアを軽くノックしてから麗子の病室へと消えていった。
拓海は横開きのドアをじっと見つめた。いったい沢尻は自分に何の用があるのだろうか。また、沢尻は麗子とどんな話をしているのだろうか。
ふと、麗子が警察にマークされていることを思い出す。彼女が何らかの事件——たとえばウェイトレスの失踪——に関わっているなら、きっと沢尻を使っているに違いない。病室で今二人は、新たな企みを密談しているのではなかろうか。それはもしかすると、自分に関わることかもしれない——。
拓海は漠然とした不安を胸に抱きながら、重い足取りでその場をあとにした。
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