カラオケボックス
【悪魔も聖書を引用できる——】
衝撃のラスト!
あなたはきっと騙される!!
盗んだ宝飾品を換金した結果、五百万円もの大金が手に入った。低く見積もっていた分、その金額に胸は躍った。金は記録が残らないよう現金のまま隠し持つことにした。今後もどんな出費があるかわからないため、まとまった金があるのは心強かった。
佐藤への金の受け渡しは、彼の強い希望で直接渡すことになった。拓海が提案したコインロッカーや宅配便などを利用した方法は却下され、受け渡し場所は新宿のカラオケボックスに決まった。
稽古が終わると、拓海は約束のカラオケ店へ急いだ。先に佐藤が部屋を確保して待っている。
カラオケ店に到着すると、拓海はさりげなく周囲を見渡した。とくに怪しい人影は見当たらない。尾行はされていないと思うが、不安は拭えない。用心のため一人カラオケを装い、受付で一時間の利用で部屋を借りた。ワンドリンク制のためジンジャーエールを注文する。
二階の指定された部屋に入ってドリンクが来るのを待つ。室内はとても狭く、四人も入ればいっぱいになるほどだ。すぐに店員がドリンクを持って現れた。拓海はジンジャーエールを半分ほど飲み干すと、佐藤が待つ部屋へ向かった。
エレベーターを利用して三階に上がり、312号室に向かう。部屋の前に立つと、ドア越しに歌声が聞こえてきた。ドアのガラス越しに中を覗くと、佐藤が部屋の奥に座って米津玄師の曲を熱唱していた。 ドアを開けて室内に入ると、佐藤は歌唱を止めた。
「よう、早かったな」
この部屋も二階の部屋と同様にこじんまりとしていた。拓海は少し苦労しながら佐藤の斜め前に腰を下ろした。
「金は?」
「もちろん、ちゃんと持ってきましたよ」
だが、拓海はすぐには渡さず、用意していた言葉を口にした。
「今日なんですけど、薬代の他に三か月分を渡すって言ってたじゃないですか」
「ああ」
とたんに佐藤の表情が険しくなる。不利な条件を切り出されるのではと警戒の色をにじませている。
拓海は動じることなく続けた。
「でも思ったんですが、会う機会はなるべく少ないほうが安全だと思うので、今日は四か月分用意してきました」
「ほう。そりゃ、ずいぶん気前がいいこったな」
打って変わって、佐藤の目が喜びに輝く。予想通りの反応だ。
ひと月分を余分に払うのは一見損に見えるが、払うべき金を先払いするだけでいっさいの損はない。結局払う金なのだから、早いか遅いかの違いでしかない。それに、百二十万よりも百五十万のほうがキリがいい。こんな大胆になれたのも、五百万円もの臨時収入のおかげだ。
拓海は百五十万円分もの札が入った厚い封筒を佐藤に手渡した。封筒の厚みで申告通りの金額があると確信したのか、佐藤は封筒を覗いただけで数えはしなかった。代わりに、封筒の重みを確認するかのように、手のひらに乗せた封筒を上下させて上機嫌に笑った。またその金でキャバクラにでも向かうのかもしれない。
「ほらよ」
佐藤に小瓶を渡され、拓海はそれを顔の前にかざした。小瓶を光に透かし、軽く振って中身を確認する。問題はなさそうだ。
佐藤がビールを一口飲んでから口を開いた。
「しばらく会わないとなると、どう連絡し合うかだな。お前としては、電話もなるべく避けたいんだろ?」
「ええ、そうですね。尾行されてたのは間違いないと思うんで、念には念を入れたほうがいいと思うんです。記録が残るんで、電話もメールも極力控えたほうがいいかと」
「確かに慎重になることはいいことだ。それでな、いい方法を思いついたんだ」
佐藤が提案してきたのは、Gメールの「下書き」を利用する方法だった。互いに同じアカウントでGメールにログインし、下書きだけで連絡を取り合うのだ。この方法だと実際に送信する必要がないため、送受信の記録もいっさい残らない。とてもいいアイデアに思え、反対する理由はなかった。
「いいですね。その方法でいきましょう」
「でな。すでにアカウントを用意してきたんだ」
佐藤はそう言って、小さなメモ用紙を手渡してきた。
satoutosakurai@gmail.com
PW:4170imuya
メールアドレスは、「佐藤と桜井」をローマ字にしたものだった。かなり安易なアドレスだったが、とくに問題はないだろう。パスワードもすぐにピンときた。反対にすると、「ayumi0714」。「アユミ」という女に会っているときにでも作ったのかもしれない。こちらも安易すぎて苦笑してしまう。「アユミ」という女は、調査会社の報告にあった女かもしれない。
再びビールを一口飲んでから佐藤が続ける。
「おれらはこれまで月一回しか会ってこなかったんだから、毎日ログインする必要はないだろう。週一で確認するってことでどうだ?」
「わかりました。それでいきましょう」
「一応、曜日と時間も決めておくか。……そうだな、日曜の夜九時でどうだ? 連絡したいことがあれば、それまでに下書きに書いておくってことで」
「了解です。日曜の九時ですね」
「ああ、そうだ」
「じゃあ、次会うのは四か月後ってことで」
ここで、佐藤が意味ありげな笑みを浮かべて言った。
「次会うころには、あの女の遺産はお前のものになってるかもな」
「ええ、そうなることをぼくも祈ってます」
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