祈祷
【悪魔も聖書を引用できる——】
衝撃のラスト!
あなたはきっと騙される!!
宣言通り、麗子は数々の民間療法に手を出していった。
拓海が知る限り、鍼灸、気功、リフレクソロジー、陶板浴、ホメオパシー、アロマテラピー、タラソテラピーなど、あらゆる方法を試していた。しかし、どれも目に見える効果はなかった。
それも当然だ。それらの効果を相殺させるために、拓海は薬の量をさらに増やしたからだ。例の薬は、期待通りの働きをしてくれているようだ。
「わたし、お祓いを受けようと思うの」
民間療法で期待した効果が得られなかったことで、ついに神頼みとなった。麗子としては、藁にもすがる思いなのだろう。
そして今日、祈祷師が屋敷に招かれることになった。
寝室に麗子を残して、拓海は沢尻と二人で祈祷師の来訪を客間で待っていた。
「その界隈じゃ、有名な祈祷師らしいです」
「へえ。じゃあ、依頼料もそれなりにするんだろうね」
貧乏育ちの性か、拓海はどうしてもその辺が気になってしまう。
「一度のお祓いで、三百万だそうです」
「三百万……!?」
予想をはるかに超える金額に、拓海は思わず声を上げた。三百万といえば、かつての自分の年収に相当する金額だ。それがたった一度の祈祷で消えるかと思うと、なんとも言えない気持ちになった。
沢尻が淡々とした口調で続ける。
「しかも、効果は保証されないそうですよ」
「え、ほんとに!?」
拓海はさらに衝撃を受ける。三百万も払って効果がなければ詐欺も同然ではないか。とはいえ、効果がないほうが都合がいいのは言うまでもなかった。
やがて、使用人が祈祷師の女を連れて客間にやって来た。
その職業にふさわしく、祈祷師は朱と白の和装姿で登場した。年齢は五十前後だろうか、白塗りの顔はどこか厳めしく、社交的な雰囲気は微塵も感じられない。
短い挨拶を交わす。拓海が依頼主の夫だと告げると、祈祷師の女は顔をしかめた。すべてを見透かされたような気がして落ち着かない気分になった。
沢尻が先導する形で麗子の寝室へと向かう。三人で寝室に入ると、麗子はベッドの上でゆっくりと上体を起こして祈祷師に向かって軽く頭を下げた。
祈祷師の女は、広い寝室をざっと見渡してから静かに口を開いた。
「ここは霊的にはとてもいい土地ですね。清らかといって言いほどに。ですから、病の原因は土地ではないでしょう。となれば……」
そう言って、祈祷師は麗子に視線を移した。彼女がびくっと肩を震わせる。
祈祷師はじっと麗子の顔を見て言葉を継いだ。
「あなたに取り憑いたものが悪さをしているようです。それを祓えば病も癒えるでしょう。では、さっそく祓っていきましょうか。心の準備はよろしいですか?」
麗子がおそるおそるといった様子で小さくうなずいた。
ここで、沢尻が祈祷師の女に聞く。
「われわれはここにいても?」
「ええ、構いませんよ」
祈祷師の許可を得て、拓海は沢尻とともにその場に留まった。
儀式はすぐに始まった。祈祷師は金色の鈴がたくさん付いた短い棒を激しく振りながら、何やらマントラのようなものを唱え始めた。鈴の音がキンキンと響き渡り、たちまち寝室の空気が緊張で張り詰めた。室温も下がったように感じられ、肌を刺すような寒気が襲ってきた。祈祷など気休めにすぎないと思っていた拓海だったが、この瞬間、霊的な力が確かに働いていることを認めざるを得なかった。
祈祷師の女は全身を震わせながら祈祷を続ける。その命がけとも思える激しい動きに拓海は圧倒された。この間、麗子はうつむいたまま身体を硬くしていた。
十五分は経ったかと思い拓海が時計を見ると、まだ五分しか過ぎていなかった。かなり濃密な五分だ。
非現実的な感覚がしばらく続き、やがて祈祷は終わった。時間にして十分弱といったところだ。どことなく清涼な空気が室内を充たし、静けさが漂っていた。麗子はというと、いまだうつむき身を震わせていた。
「奥様と二人きりにさせていただけますか?」
祈祷師の女にそう言われ、拓海は沢尻とともに退出した。
外の廊下で待っていると、しばらくして祈祷師の女が寝室から出てきた。祈祷師は小さく目礼をすると、もう用は済んだとばかりに玄関に向かっていく。沢尻が見送りのためか、あとに続いていった。
拓海は開いたドアから寝室に戻った。
ベッドに目を向けると、麗子は顔を伏せたまま両手で自分の身体をきつく抱きしめていた。
「麗子、あの人は何て?」
そう問いかけると、麗子は顔を上げずに声を震わせた。
「業が……業が強すぎるんですって……。かなりきつく言われたわ……」
涙声だった。痩せ細った肩が震えている。慰めようかと思ったが、彼女が放つ近寄りがたい空気がそれを躊躇させた。
麗子はうつむいたまま言葉を続けた。
「わたしね、今までたくさんいけないことしてきたの……。拓海さんにも言えないようなひどいことを、たくさんしてきたの……。その報いを、今受けてるんだって……」
何をしてきたのかは恐くて聞けなかった。ここでふと、例のウェイトレスの姿が脳裏をよぎり、拓海は背筋に冷たいものが走った。ウェイトレスの失踪は、やはり麗子の仕業なのか? どちらにせよ、あの怯えようを見れば、彼女が金にものを言わせて悪事に手を染めてきたことは間違いないだろう。
「ごめんなさい、しばらく一人にさせて……」
「わかった……」
拓海は一抹の不安を覚えながら寝室をあとにした。
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