本性 ①
【悪魔も聖書を引用できる——】
衝撃のラスト!
あなたはきっと騙される!!
「拓海さん、今日はとっても調子がいいの。久しぶりに、お昼は二人で外食しない?」
麗子がいつになくご機嫌な様子でそう提案してきた。
拓海はぎこちない笑みを返す。最近の彼女はどこか怖いところがある。今浮かべている笑顔も、作り物のような不気味さがある。そのため、外食は気が進まなかった。
「あそこのパスタがいいわ。ねえ、どうかしら?」
「ああ、いいよ。ぼくもパスタって気分だったんだ」
反対する理由も見つからず、仕方なく彼女の要望を受け入れることにした。
麗子の希望で青山の雑貨店に二十分ほど立ち寄ってから、行きつけのパスタ屋へ歩いて向かった。
拓海は腕を組む麗子の歩調に合わせて、ガードレールに沿って歩道を進んでいく。周囲は低層の高級マンションが立ち並び、閑静な雰囲気が漂っている。
やはり外出は身体にこたえるのか、麗子は辛そうに目を細めている。会話もなく歩いていたところで、麗子がふらっとよろめいた。
「あ、麗子!?」
慌てて抱きかかえた瞬間、拓海は強い衝撃を受けた。
つかんだ彼女の両腕からは、肉のふくらみがまったく感じられなかったからだ。服に隠れて気づかなかったが、もはや麗子の身体は骨と皮ばかりになってしまったようだ。
「……だ、だいじょうぶ?」
「ええ、ごめんなさい……。もう平気よ」
再び二人して歩き出したところで、前方から一人の若い男がこちらに向かって歩いてきていることに気づく。歩調は早く、左手に黒い蓋付きのペーパーカップを持ち、右手に持つスマホに見入っている。
拓海は麗子の手を引き歩道の左側に寄り、向かってくる男が通れる充分なスペースを作った。すると、自分たちの背後から現れた女が拓海と麗子をさっと追い越していく。そのとき、前から歩いてきた来た男がその女にぶつかるまいと慌てて身をかわした。
「あ、麗子!」
男が麗子とぶつかり、拓海は思わず声を上げた。
麗子は少し呆然とした様子で立ち尽くしていた。白いワンピースには黒いシミが広がっている。男が持っていたコーヒーがかかったからだ。
「麗子! だいじょうぶか!?」
声をかけるが、麗子はいまだ放心した様子だ。汚れたワンピースからコーヒーの匂いが漂ってくる。
若い男とぶつかりそうになった女は振り返って一瞬立ち止まったが、自分には関係ないとでもいうような態度でそのまま歩き去っていった。
一方、コーヒーをかけた若い男はひどく狼狽していた。場所柄か、ファッション感度の高そうな若い男は、白シャツの上にタイトな黒いジャケットを羽織っていた。足元の白いハイテクスニーカーは新品のような輝きを放っている。
若い男は必死の形相で謝罪の言葉を口にする。
「すみませんでした! クリーニング代、出しますんで!」
男はそう言って、尻ポケットからブランド物らしき長財布を取り出して札を抜き出そうとする。
「いいですよ、気にしなくて」
麗子が無表情のままぽつりと言った。
「いや、でも、それじゃ……」
男は財布を持ったまま困惑している。
すると、麗子が乾いた笑みを浮かべて言った。
「なら一つだけ、簡単なことをお願いしてもいいかしら」
「あ、はい! 何でも言ってください!」
「今すぐ、わたしの前から消えてくれます?」
「え?」
予想だにしなかったであろう言葉を浴びせられて若い男は唖然としていた。顔を引きつらせ、どう反応していいのかわからないといった様子だ。
拓海もまた、驚きを隠せなかった。
「あ、はい、わかりました! す、すみませんでしたぁ!」
男は頭を下げると、逃げるように去っていった。
拓海は男の背中を見つめながら、彼に同情を覚えた。確かにコーヒーをかけたのは彼の不注意が原因だったが、決して悪意があったわけではない。それにすぐに謝罪して誠意も見せていた。それなのに、あんな冷たい言葉を浴びせられては深く傷ついたに違いない。
拓海は何とか気を取り直して声をかけた。
「……麗子、だいじょうぶ?」
「ええ、平気よ。でも、このままじゃお店に入れないわね。せっかくだし、この機会に新しい服でも新調しようかしら。幸い、近くにショップもたくさんあることだし」
拓海は麗子と目を合わせずに答えた。
「……そうだね。そうしようか」
ポチッと評価、お願いします(^ ^)v




