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[完結]【猟奇的サイコスリラー】イミテーション  作者: てっぺーさま
第五章 破滅へのカウントダウン

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シオリ ①

【悪魔も聖書を引用できる——】


衝撃のラスト!

あなたはきっと騙される!!

「佐藤様、申しわけありません! ルリは急遽、お休みになってしまいまして……」

 思いがけない言葉に、佐藤は思わず声を荒げてしまう。

「はあ!? マジかよ!? わざわざ足を運んだってのによ!」 

 黒服のスタッフが深々と頭を下げて謝罪する。

「本当に申しわけありません! 代わりに、めっちゃ可愛い子をおつけしますんで」

「本当か?」

「ええ、お任せください!」

 佐藤はホスト崩れのようなスタッフのあとに続いてラウンジに向かったが、事前にルリ本人に出勤確認をしていただけに怒りは簡単には収まらなかった。

 しかし、この店はキャストの質が高かったから、怒りに任せて他の店に行くよりかはマシだろうと判断して荒ぶる気持ちを抑えた。常連として定期的に金を落としているのだから、そこそこの女はつけてくれるだろう。

 革張りの赤いソファに囲まれたボックス席に腰を下ろして店内を見渡していると、少し離れた席で黒服のスタッフが中年客に頭を下げていた。何事かと思ったところで、白いドレスを着た小柄で丸顔の女がやって来た。とたんに場が華やぐ。大きな瞳に愛嬌のある表情、性格の良さが顔からにじみ出ている。先ほどまでの不快な気分が一瞬で吹っ飛んでいった。

 女は隣に座るなり、申しわけなさそうな顔で口を開いた。

「シオリです。はじめまして……ですよね?」

「ああ、はじめましてだな」

 ルリのような、いかにもキャバ嬢らしい女のほうが好みだったが、たまにはこんな()()もいいかもしれないなと佐藤は思った。

「ごめんなさい、今日はルリさんが急にお休みになっちゃって……。あたしで、だいじょうぶですか?」

 その謙虚な態度にも好感が持てた。

「ああ、問題ない」

 正直な感想だった。

「ああ、よかったぁ」

 女は心から安心した様子で胸に手を置いた。白いドレスの胸元からは、深い谷間がくっきりと見えている。

「佐藤さん……ですよね?」

「そうだ。何で知ってんだ?」

「さっきボーイさんが教えてくれたんです。佐藤さんは大切な常連さんだから失礼のないようにって」

〝大切な常連〟と言われて悪い気はしなかった。

「水割りでいいですか?」

 佐藤がうなずくと、シオリと名乗った女は手際よく水割りを作り始めた。

 作った水割りを置くと女が口を開く。

「あたしも、いっしょに乾杯してもいいですか?」

「ああ、好きなの頼めよ」

 シオリと名乗った女はボーイにウーロンハイを頼んだ。

 ドリンクを待つ間に年齢を聞くと、二十五歳だと返された。十代でも通用しそうな見た目だったため少し驚く。煙草を咥えると、シオリが素早くライターを差し出してきた。

 佐藤は気持ちよく白い煙を吐き出してからさらに質問を重ねる。

「ここで働いてどれくらいだ?」

「うーん、二か月くらいかなぁ」

「前にもこういう店で働いたことあるのか?」

「学生のときにガルバで少しだけ。でもキャバは初めて」

 そこで、ボーイがウーロンハイを持ってやって来た。

 佐藤はシオリとグラスを合わせて水割りに口をつけ、気になっていたことを聞く。

「さっき、あそこの席で店員が客に謝ってたみたいだが、何かあったのか?」

「ああ、あれですね」

 シオリは周囲を軽く見渡し、声を少し落として続ける。

「ボーイさんから聞いた話だと、女の子がずっと喋りっぱなしで、お客さんがキレちゃったみたいです。お前らは客の話を聞くのが仕事だろって」

「なるほどな。まあ確かに、金払ってまで興味のない女の話は聞きたくないわな」

「ですよねー。でも、女の子の気持ちもわかるんですよ。緊張しちゃうとまわりが見えなくなって、つい自分のことばかり喋っちゃうんです。けど、お客さんは話を聞いてもらいたくて来てるわけですから、基本、女の子は聞く側に徹しないとダメですよね」

「まあ、そうかもな」

「でも佐藤さん、安心しくださいね。あたし、けっこう聞き上手なんで」

「そうなのか? 話好きって顔してるけどな」

「あ、わかります? そうですね、普段はずっと喋ってます」

「シオリって言ったよな? なら、今日はシオリの話を聞かせてもらおうか」

「いいんですか? あたし、ずっと喋っちゃいますよ」

「ああ、構わないぜ」

「じゃあ、佐藤さんが話したくなるまで、あたしが喋りますね」

 言葉通り、話好きな女だった。高知県出身というシオリは、上京後、ホテルの専門学校に入学したそうだ。実家に経済的な余裕がなかったため仕送りは望めず、生活費はガールズバーでのバイトで自分で稼いだという。専門学校を卒業後は、学校の紹介で不動産関連の会社に就職し、タワーマンションのコンシェルジュとして二年ほど働く。しかし、入社してすぐに、事前に伝えられていた条件と大きく異なることを知る。ボーナスはなく、昇給もなし。さらに仕事はストレスの連続だったという。とくに、宅配業者とのトラブルは日常茶飯事だったらしく、毎日胃を痛めていたとシオリは嘆いた。

 タワーマンションでは、単にオートロックを一つ通過すれば済むというわけにはいかない。宅配業者が目的の部屋にたどり着くまでに複数の手順を踏む必要がある。そのため、配達件数で収入が決まる宅配業者にとっては時間のかかるタワーマンションへの配達は苦痛でしかない。その苛立ちの矛先が、シオリのようなコンシェルジュに向けられるというわけだ。

 ていねいに部屋までの行き方を説明しても、苛立った配達員から「お前が運べ!」と怒鳴られることはしょっちゅうだったそうだ。まさか社会人になってこんなことで怒鳴られるとは思ってもいなかったらしく、入社して早々に長く勤めるような仕事ではないと実感したという。

 タワーマンションの受付で小綺麗な格好をして立っていても、給料は手取りで二十万円弱。勤務していたタワーマンションの家賃の半分以下だったそうだ。だがシオリは、たとえお金持ちになったとしてもタワーマンションには住みたくないと言った。見栄だけで住むには不便すぎるというのがその理由だ。

 シオリは一つため息をついて続けた。

「だから、もし宝くじに当たっても、絶対にタワーマンションには住まないって決めてるんです。見栄張ってそんなとこに住んでも、毎日の生活が不便だったら意味ないですから」

 佐藤はシオリの話にとりあえず耳を傾けていたが、いつの間にか自分に密着してきた彼女の体温のほうに意識が移っていた。

 彼女は身体を寄せたまま、執拗に太ももを叩いたり、優しくさすってくる。この店でここまでスキンシップを取るキャストは珍しい。もしかすると、ルリの代役になった負い目から、必要以上のサービスに徹しているのかもしれない。

「あ、ごめんなさい。あたしばっかり喋っちゃって……」

「気にするな。おれがそうしろって言ったんだからな。ところで酒、全然減ってないぞ」

「あ、ほんとだ。話に夢中で飲むの忘れてた」

 過度にドリンクを要求してこない姿勢にも好感が持てた。客が札束にしか見えないホステスとは明らかに違う。

 佐藤は、シオリの形のいい小さな唇がグラスに吸いつく様子を気分よく眺めた。

「でも、ほんと佐藤さんって聞き上手ですよね。あたし、つい話し過ぎちゃった。じゃあ、今度は佐藤さんの番ですよ」

 シオリはそう言って、佐藤の太ももをポンと叩く。

「おれの番と言われてもな」

 佐藤は新しい煙草を咥え、シオリが差し出したライターで火をつけた。

 白い煙を吐き出すと、視線が自然とシオリの胸元へ向かう。白いドレスは胸元が大きく開いており、美しく盛り上がった深い谷間がはっきりと見える。巨乳といっても差し支えないサイズだ。幼い顔とのギャップが興奮を誘う。目の前の谷間に今すぐ顔を埋めたくなる。

 長く見つめていたせいか、シオリが両手で胸元を隠す。

「やだ。あんまり見ないで」

「見るのはタダだろ?」

「そうだけど、ちょっと恥ずかしいかな」

 佐藤はウーロンハイの入ったグラスを見て言った。

「もっと飲んでいいんだぞ」

「ほんとに? うれしい!」

 残っていたウーロンハイを飲み干し、シオリがボーイにおかわりを頼む。新たなグラスが置かれると、彼女は可愛らしくグラスを合わせてきた。

「いただきます」

「ああ」

 再びシオリの胸元に視線を戻す。白い谷間はいくらでも見ていられるほどエロティックだ。彼女が胸元を隠さないことをいいことに遠慮なく白い肌を堪能する。視線を胸元から首元に移す。細い首筋もまた、しゃぶりつきたくなるほど魅力的だ。茶色い髪の下から覗く丸みを帯びた小さな耳も愛らしい。耳たぶを舐める場面を想像するが、不思議とそれがすぐにでも実現しそうな気がした。

 佐藤が黙っていると、シオリは再び自分のことを話し始めた。専門学校でのエピソードを聞いていたところで、黒服のボーイが声をかけてきた。

「シオリさん、お時間です」

「あ、はい」

 シオリはボーイに短く返事をすると、佐藤の顔を見つめて甘えた声を出した。

「ねえ佐藤さん、あたし、もう少しいっしょにいたいな」

「ああ、かまわないぜ」

「うれしい!」

 シオリは満面の笑みを浮かべ、ボーイを呼び寄せて指名をもらったことを告げた。

 佐藤が水割りを飲み干すと、シオリが手際よく新しいものを用意する。再びグラスに口をつけながら、佐藤はシオリをどう攻略するか考え始める。

 雰囲気から察するに、シオリは男に依存するタイプだ。男に尽くすことで自分の存在意義を見出す女に違いない。また、どこか自信なさげな態度はメンヘラ気質をうかがわせる。メンヘラ女を落とすのは簡単だ。強気で攻めればたいてい落ちる。ただ、執着されると厄介だ。こちらが冷めても簡単には別れてくれないというリスクがある。だが、そんな不安も、むくむくと湧き上がってきた性欲が脇に押しやる。最初から割り切った関係を強調して同意を得ておけばリスクは抑えられると自分を無理に納得させる。落とせるときに落としておかないと後悔するのは目に見えている。経験上、こんなチャンスはそう何度も訪れないとわかっていた。

 今夜ドタキャンされたルリには、これまで散々金をつぎ込んできたのに、彼女は肩を組む以上のことは許してくれない。コスパは最悪だ。もし、今夜シオリと関係を持てれば、これまでの損失を取り戻せるかもしれない。

「シャンパン、入れてやろうか?」

「えー、いいよー。そんな無理しなくてー」

 佐藤は心底恐縮しているシオリを横目で見ながらボーイを呼びつけ、五万円のシャンパンを注文した。

 隣ではシオリが感激したように瞳を輝かせ、胸に手を当てて全身で喜びを表している。佐藤はそんな姿に満足感を覚えた。

 ボーイが迅速にシャンパンを持ってやって来て、慣れた手つきで開栓する。二つの細いグラスにシャンパンが注がれ、佐藤はシオリと再び乾杯した。

「おいしい!」

 シオリは一口飲んで表情を緩ませる。瞳はいまだ感激で潤んでいる。あと一押しだ。五万円の元は絶対に取りたい。

「どんどん飲んでいいぞ」

「わあ、うれしい!」

 シオリの空いたグラスに佐藤はシャンパンを注いでやる。

「あの、佐藤さん」

「ん?」

「佐藤さんは、どんな仕事してるんですか?」

「営業だよ」

「そうなんですね。でも、すごい羽振りいいですけど、営業ってそんなに儲かるんですか?」

「いや、本業のほうは普通だな。実は副業もやってるんだ」

「副業って、どんな?」

「それは秘密だ」

「えー、気になるー」

 佐藤はここで、シオリの剥き出しの膝をつかむと言った。

「なあ、今夜アフターどうだ?」

「え……」

 シオリは少し驚いたあと、少し困ったような表情を浮かべた。

「でもあたし、今日はラストまでだから、少し待たせちゃいますよ……」

「なら、閉店までいっしょにいてやるよ」

「ほんとに?」

「ああ。お前がいやじゃなければな」

 シオリの瞳が潤んだ。

「いやなわけないじゃん」

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