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【猟奇的サイコスリラー】イミテーション  作者: てっぺーさま
第一章 悪魔は微笑を浮かべて現れる

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11/59

打ち上げ ①

【悪魔も聖書を引用できる——】


衝撃のラスト!

あなたはきっと騙される!!

「麗子さんは、何してる人なんですかぁ?」

 テーブルの向かいから質問が飛んできた。

 興味深げな視線がいくつも集まるのを感じながら麗子は答える。

「普通のOLですよ」

「えー、そんなわけないですよぉ。そんな美人なOLなんて、存在しませんからぁ。モデルさんとかじゃないんですかぁ?」

「違いますよ」

 麗子は苦笑しながら否定した。

 質問を投げかけてきたのは、今日の舞台にも出演していた役者の一人だ。二十代前半くらいで、仲間内からは「リョウ」と呼ばれている。美人の部類に入るだろうが、ややしゃくれた顎と骨太な体つきのせいで、気の強そうな印象を与えている。語尾を間延びさせる癖は、人によっては苛立ちを覚えるかもしれない。

「拓海さんとは、付き合ってるんですかぁ?」

 再びリョウから質問が飛んできた。

 麗子の隣に座る拓海が、苦笑交じりに口を開いた。

「リョウちゃん、そういうのやめてよ。麗子さん、困ってるじゃないか」

「だってそこ、いちばん気になるとこじゃないですかぁ。で、実際のところ、どうなんですかぁ?」

「ぼくと麗子さんは、ただの友だちだよ」

「えー、つまんなーい。すっごいお似合いなのにー」

 苦笑する拓海を横目に、今度は麗子が逆に質問を投げかけた。

「あなたはどうなの? お付き合いしてる人、いるの?」

 すると、とたんにリョウの顔が曇った。

「それが、いないんですよぉ……。麗子さん、誰かいい人、紹介してくれませんかぁ」

「わたしの会社は、おじさんばかりだから」

「いいですよ、おじさんでも! あたし、年上大好きですからぁ。あ、でも、お金持ってる人限定ですけど」

 その発言に、どっと笑いが起こる。

 間を置かずに、再びリョウから質問が飛んでくる。

「それより、麗子さんは今、付き合ってる人いないんですかぁ?」

「いないわよ」

「ええー、もったいない。だったら拓海さんと、付き合っちゃえばいいのにー」

「リョウちゃん、もういい加減にしてよ」

 困った顔をしながら拓海がたしなめるが、彼女はまるで気にする様子もない。

「麗子さん、おかわり何にします?」

「じゃあ、レモンサワーをお願い」

「レモンサワーですね。じゃあ、あたしも同じのにしよ」

 リョウが店員を呼んでる間、拓海は下を向いて指先をいじっていた。


 打ち上げは居酒屋のお座敷で行われていた。参加者は三十人ほど。役者やスタッフ、その友人知人が集まり、大いに盛り上がっている。演劇関係者が多いためか、自己主張が強そうな顔ぶれが目立ち、近くのテーブルでは互いの演劇論を口論に近い形でぶつけ合っている。

 すると、少し離れた席から絶叫に近い爆笑が起こる。先ほどからその席は、やや度を越した騒ぎ方をしている。

「あいつら、ちょっとうるさいよね。注意してくるよ」

 拓海はそう言って立ち上がると、離れた席にいる仲間たちのほうに行って声をかけた。場がいくらか静まり、拓海はすぐに戻ってきた。

「いつもああなんだ。お酒が入ると羽目を外しちゃって。貸し切りならまだしも、他のお客さんもいるからね」

「ちゃんと注意して、えらいわね」

「こういうのは、年長者の務めだからね」

 麗子が関心していると、先ほどまでプライベートな質問を浴びせてきていたリョウは、今は隣の男と楽しそうに話していた。田中という名の脚本家だ。色白の顔に丸眼鏡がよく似合っている。麗子は拓海とともに、彼らの会話に耳を傾けた。

「最高の映画監督の一人に、ラース・フォン・トリアーは外せないよね」

「誰それ?」

「え、知らないの? 役者やってるなら、ラース・フォン・トリアーくらいは押さえとかなきゃ」

 脚本家の田中は呆れ顔で言った。

「その人、どんな映画撮ってるの?」

「いちばん有名なのは、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』かな」

「うーん、観てないなぁ、きっと」

 リョウの答えに、田中は再び呆れた表情を見せる。

 そこへ、別の女性が割って入ってきた。

「わたし、あの映画ダメだわー。観たあと、気分悪くなっちゃったもん」

「グロいの?」

 リョウが聞く。

「グロくはないけど、何か救いがないって感じ」

「あれがいいんだよ」田中が力強く言う。「バッドエンドだからこそ、強く訴えかけてくるものがあるんだよ。ハリウッド映画みたいに、何でもかんでもハッピーエンドじゃ、つまんないだろ」

「そうかなぁ」

 リョウは納得いかないようだが、田中は構わず続ける。

「それに、ラース・フォン・トリアーのすごいところは、普通の映画って、濡れ場は擬似の演技じゃん? だけど彼の作品では、役者にガチでセックスをさせるんだよ」

「ええ、マジ!?」

 リョウともう一人の女性が、興味津々といった様子で話に食いつく。

「これがマジなんだよ。監督はリアルな映像にこだわっててさ、『マンダレイ』って作品では、正常位で攻めてる俳優を後ろから映してるんだけど、黒人俳優の金玉がモロ見えだったからね」

「やだぁ、モロ見えってー」

 女性陣が愉快そうに声を上げた。

 拓海が苦笑しながら口を開く。

「麗子さん、ごめんね。品のない話ばかりで」

「ううん、だいじょうぶ。わたしも楽しんでるから」

 その言葉に、田中がうれしそうに反応した。

「麗子さん、ラース・フォン・トリアーは知ってますよね?」

「もちろん。わたしは、『ドッグヴィル』が好きかな」

「ああ!」田中が感嘆の声を上げる。「『ドッグヴィル』、いいですよね! 『マンダレイ』は、あれの続編ですからね。ちなみに、ラース・フォン・トリアーの撮影って過酷らしくて、撮影中の俳優たちが監督に愚痴をこぼすだけのドキュメンタリー映画も作られてるんですよ」

 それから拓海も交えて映画談義に花を咲かせた。リョウはそれほど映画に関心がないようで、いつの間にか隣の女性と恋愛論を語り合っていた。しばらくして、映画談義に演出家の男も加わり、シナリオの構成やカメラワーク、構図、色調など、ずいぶんマニアックな話に流れていった。

 そんな中、黒いジャケットを着た男がやって来て、拓海の右隣に座った。三十代半ばくらいの野生的な顔つきの男で、日に焼けた顔には尊大さが貼りついている。茶髪に染めた髪が汚らしい。一見して、人好きのするタイプではなかった。

 男は腕を伸ばして拓海の肩を抱き、馴れ馴れしい口調で語りかける。

「拓海君、元気?」

「ええ、まあ」

「今日の演技、いい感じだったよ」

「ありがとうございます」

 拓海が愛想笑い浮かべて応じる。

 男は次にリョウに顔を向ける。

「リョウちゃん、久しぶり」

「あ、お久しぶりです」

 リョウは拓海と違って満面の笑みで応じる。

 続いて男は、麗子に声をかけてきた。

「はじめまして、ですよね?」

「ええ、そうですね」

「イシバシっていいます」

「どうも。新庄麗子です」

「麗子さんですか。ここの舞台は初めて?」

「ええ」

 その間、拓海は間に挟まれて居心地の悪そうな顔をしていた。

 ここでリョウが割って入る。

「イシバシさん、仕事は順調なんですか?」

「ああ、順調だよ」

 仕事の話を振られたことがよほどうれしかったのか、イシバシと名乗った男は酔った顔に満足そうな笑みを浮かべた。

 イシバシは拓海の肩に手を回したまま、麗子を意識した様子で彼に話しかける。

「拓海君ってさぁ、バイトしながらお芝居やってるんだよね?」

「ええ、まあ」

「出演料なんて、大したことないんだろ?」

「まあ、そうですね」

 拓海が苦笑しながら答える。

「ってことは、主な収入源はバイト代なわけだ。年収で二百万くらい? いっても三百万くらいだろ?」

 相当失礼なことを言われているが、拓海は苦笑するだけで、とくに腹を立てている様子はない。酔っ払いの戯言だと受け流してるのかもしれない。彼の精神的な成熟度が見て取れる。むしろ、脚本家の田中と演出家の男のほうが明らかにイシバシの発言に苛立っていた。

「おれってさ、自慢じゃないけど、年収一千万超えてるんだよね。会社では、いちおう取締役っていう肩書きもあってさ」

「それはすごいですね」

 拓海は穏やかな笑みを浮かべて応じる。

「だから拓海君もさ、おれと年齢そんな変わんないんだから、そろそろ身の振り方を考えたほうがいいと思うよ。まあ、夢見るのは勝手だけどさ」

「取締役って、すごいですよね」

 リョウが興味津々といった様子で言う。

 彼女の言葉に気を良くしたのか、イシバシは拓海の肩から手を離すと、テーブルに身を乗り出すようにして話し始めた。

「うちの会社で最年少の取締役なんだ。まあ、IT企業って年功序列とか関係ないから、実力さえあれば、どんどん上にいける環境なんだよね」

「へえ、そうなんですねぇ」

 リョウが目を輝かせながら相づちを打つ。

 それまでじっと黙って聞いていた麗子だったが、得意げに語るイシバシの顔が鼻につき彼らの会話に口を挟んだ。

「でもそれって」

「ん?」

「会社の中でだけ通用する肩書きですよね」

「え?」

 狙って放った辛辣な一言に、イシバシの顔が急にこわばった。場が一瞬で凍りつく。隣に座る拓海も、驚きの表情を浮かべている。

 言葉を失っているイシバシに対して、麗子は気を良くしながらさらに畳みかける。

「会社でしか通用しない肩書きで虚勢を張るのは、会社の中だけにしたほうがよろしいんじゃないですか?」

 イシバシはショックを受けたように固まっていた。まわりも、どう反応すればいいのかわからないといった様子で黙り込んでいる。やがて、イシバシは動揺した様子で立ち上がると、「ちょっとおれ、ションベン……」と言って逃げるように席を離れていった。

「麗子さん、ガツンと言いましたねぇ」

 演出家の男が満面の笑みを浮かべて言った。

「つい、ね。ちょっと大人げなかったかしら?」

「いいんですよ。ああやって肩書きでマウントとってくるようなやつには、少しきつく言ってやったほうが相手のためですよ」

「でも、年収一千万は魅力でしたけどね」

 リョウの言葉に笑いが起こる。

 麗子は時間を確認すると拓海に言った。

「わたし、そろそろ帰らないと」

 脚本家の田中が目に見えて落胆し、懇願するような目を向けてきた。

「麗子さん、二次会は参加しないの?」

「ええ、明日は朝早くから予定があって」

「そうなんだ……」

 連絡先を聞かれては面倒だと思い、麗子はすぐに拓海に顔を向けて財布を取り出した。

「いくら払えばいい?」

「いいよ。麗子さんの分は、ぼくが出しとくから」

「そんな、悪いわ。五千円くらいでいい?」

「そんないらないよ。じゃあ、二千円もらってもいい?」

「二千円でいいの?」

「うん」

 拓海は、麗子が渡した札を財布にしまうと言った。

「駅まで送ってくよ」

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