第91話 下積み冒険者は大群から逃げる3
時間を稼ぎながら蟻の群れから逃げる中で6人の冒険者が犠牲になっていった。
逃げ始めに住民と合流しにいった6人と合わせて12人が欠いたことになる。
残っている冒険者は9人となってしまった。
この状態では横並びで道幅を保ちながら攻撃からの撤退を行うのも困難で蟻たちに囲まれそうになる。
そこでとうとうドワ子は完全な撤退を指示する。
「総員撤退! 住民たちと合流する」
これまで犠牲になった冒険者たちには申し訳ないがもうこれ以上は無駄死にになりかねない。
最後の一太刀を入れ踵を返す。
その時だった。ここまで必死に食らいついてきた少年が振り返る際に足を滑らせる。
「少年!」
少年を助けようと手を伸ばそうとするが距離が少し離れており今のままでは届かない。
少年に近づこうとする。
(ダメ!)
ディクトの制止とともに隣にいたドワ子に肩を掴まれる。
ドワ子を思わず睨むがそこで少年の声に意識を奪われる。
「行って下さい!」
少年は蟻たちに噛み付かれすぐに取り囲まれる。
しかし、その顔に浮かぶのは苦痛ではなく笑みであった。
聞こえるはずのない騒音の中で大きい声ではなかったのになぜか彼の言葉は聞き取ることができた。
僕の代わりに開拓村の皆を頼みます。
歯を食いしばり足に力を込めその場を離れる。
もう少年の姿は蟻の群れに飲まれみることはできなかった。
蟻の群れから距離を取るなか少し冷静になってくる。
先ほど引き止めたドワ子を思わず睨んでしまったがドワ子の行動は当たり前だ。犠牲者を増やさないように冷静に対応しただけである。
「さっきはすみませんでした」
ドワ子に謝る。
「レジーは間違ってないよ。私も彼を助けたかった。でも、レジーまで失うわけにはいかなかったの」
泣きそうな顔でドワ子が言う。
「いや、私が頭に血がのぼって冷静じゃなかったんです。適切な判断でしたよ。私に彼を助けられるだけの実力がなかっただけです」
私にもっと力があれば、そう思わずにはいられなかった。
「私もだよ。 ……強くなりたいね」
その会話を最後に私たちは住民との合流にむけ無言で走り続けた。
走りながら頭に浮かぶのは少年の最後の笑みだ。
彼の最後の言葉、開拓村の皆を守る、私にできる限りのことをしようと心に決めた。




