第90話 下積み冒険者は大群から逃げる2
蟻の大群が津波のように押し寄せてくるのを逃げ足を落としながら距離を狭める。
目標は最前列の蟻たちだ。
【蓮華】
目の前のジャイアントアントの触覚を切り落とし、サイドステップしながら横のキラーアントの前足を断つ、後ろに下がりながら【噛み付き】を仕掛けてきていたジャイアントアントの攻撃を避け触覚を袈裟斬りにする。
三連撃からバックステップして距離をとる。
その間もドワ子は違う蟻を手加減しながら叩き伏せ、少年は必至に槍をふるって牽制しドワ子や私の援護をしてくれていた。
「離脱!」
ドワ子の声に従い私と少年は180度ターンして走る。
蟻たちを背に走りながら冷や汗が流れるのを感じる。
危なかった。もしあの【噛み付き】を食らおうものならあの黒波に飲み込まれていただろう。
撤退戦を開始してからも私、ドワ子、少年の三人一組状態で連携しながら必死に足止めを行ってはいるが状況はずっと綱渡りのようだ。
ちょっとしたミスが命に関わると恐々としている時のことだった。
「うわ!」
走りながら声のした方に目を向ける。
キラーアントへの攻撃が有効打にならず顎で剣を受け止められ脇から出てきたジャイアントアントに足を噛られていた。
「くそ!蟻風情が!」
冒険者へと後ろから来た蟻が群がっていく。
「ぎゃあぁぁ………」
1人の冒険者が黒波に飲まれていった。
それを見た少年は青い顔をしていたし他の冒険者たちもその様子を見ながら顔色を失っていた。
しかしここでも逃げ出すものたちはいなかった。
正直私は他の冒険者たちを侮っていたのかもしれない。この場に圧倒的実力を持つようなチートみたいな冒険者はいないがその精神はよっぽど勇者に近いものに感じた。
蟻たちの列は整然としたものから歪みが生じ始め、多少ではあるが時間を稼げてはいるようである。
しかしその貴重な時間を稼ぐために一人、また一人と犠牲者は蟻の中へと消えていきその数を増やしていく。
冒険者の怪我や死は自己責任だと言われてはいるが、ここで冒険者が命を対価に時間を稼げるように提案したのは私だ。責任を感じずにはいられなかった。




