第89話 下積み冒険者は大群から逃げる1
蟻の大群を前に冒険者たちは一様に顔色を失う。
しかし、その場の指揮官たるドワ子の判断は迅速であった。
「全員逃げるよ!」
もっと時間を稼ぎたいところだが確かにあの数を前に持ちこたえるのは不可能だろう。
冒険者たちからも反対意見はなくドワ子の意見に同意する。皆無駄死にはしたくないので当たり前だ。
ドワ子は続ける。
「住民たちを追いかけて合流、住民たちには休憩もなしで急いでもらってそれでも蟻たちに追い付かれたら最後は壁になって住民を守る。他にアイデアがなければこれでいくよ」
幸いなことに蟻たちの移動は大群で列を作って行われているため冒険者たちの走る速度よりは遅い。しかし、住民たちの足では追い付かれるであろう。
私は自分たち冒険者の危険度は上がるが逃げながら足止めをするアイデアを思い付いたのでそれを提案する。
「私たちの命の危険は増すのですが、蟻から逃げて住民たちと合流する前に蟻たちから付かず離れずの距離で逃げながら戦って蟻を倒すのではなく、わざと死なないように触覚や足を損傷させていけばその蟻が邪魔になって少しでも行軍を遅れさせることができるのではないでしょうか。しかし先に行ったように少しでも逃げ遅れたりしたら命はないでしょう」
ドワ子が一瞬考え込むが時間はない、すぐに判断を出す。
「確かに少しでも時間を稼がないと追い付かれる。私はこの作戦で行こうと思う。でも危険、無理強いはしない。逃げたい人は先に住民たちに合流して……」
そうして私たち冒険者のギリギリの逃走が幕を開けるわけだが意外なことに先に住民との合流を選んだのは6人だけで約7割の冒険者は殿を引き受けてくれた。
蟻たちの数と状況をメガネへ伝えてもらうように頼み6人を送り出す。
残っている冒険者は住民の中に家族がいるものも多く家族や村の住民のためにと命をかけるようだ。その勇気に素直に感心する。
私やドワ子、提案者や指揮者が逃げれるわけながない。また槍使いの新人の少年も残っていた。先に合流するように促したが決意は固く、説得に諦め一緒に殿をこなすことにした。
戦争において撤退する際というのは被害が出やすいと聞いたことがある。
ここにいる冒険者の中から何人が生き残ることができるだろうか。できることなら皆で生きてアインスまで逃げ延びたい。
しかしその実力を持たない私たちにはそれを実現することはできないだろう。でも願わくば……
蟻をの大群との防衛戦はこうして撤退戦へと移行していった。




