閑話 鍛冶師 黒田 太一 下
俺はサブマスターの言いつけを無視して魔剣や魔装を作りながらも、腕が悪いから小手先の技術に頼ると言われるのが我慢ならず基礎となる鍛冶技術も磨いていた。
そこで通達を受けたのが鍛冶の本場といわれるドワーフの多くすむフィーアでの技術留学だ。期間は2年、名目は優秀な新人の技術をさらに高めていこうという前向きなものだが、俺にたいしては違う意図があるのだろう。サブマスターのニヤケ顔、どうせ俺が帰ってくるまでに裏からてを回して店に商品を卸せなくでもする気だろう。
サブマスターの意図とはよそに技術留学は実際かなり有意義なものであった。鍛冶技術はもちろん、豊富な鉱物の知識、そして勇者たちにもたらされたという刀鍛冶の技術、特に刀鍛冶にはのめり込んでしまった。俺も日本人ということだろう。フィーアの刀鍛冶と現代の日本刀の作り方の説明や実践を重ねて満足のいったものを作り終えると無言で握手をしていた。
フィーアの鍛冶師は実用性を重視しており魔剣や魔装を作ってもアインスで受けたような扱いを受けることはなかった。留学が終わってもフィーアに残るよう勧められたがそれだとサブマスターから逃げたようで気にいらないので断った。
フィーアでの2年はあっという間に過ぎアインスに戻ることになった。ナンパした黒髪のエルフに護身用に持っていた刀を巻き上げられたりしたこともあったがいい思い出だ。
アインスに戻るとやはり予想通り商店での卸を拒否される。本当に予想を裏切らない奴だ。まぁ、幸い冒険者との個人的な売買はできたので生活に困ることはなかったが現状が面白くないことにはかわりない。
何気なしに商店を冷やかしていると面白いものを見つけた。一冊の本である。果物から生まれた人族が3体の従魔とオーガを討伐する子供向けの絵本だ。丁寧にひらがなの一覧表までついている。
完全に桃◯郎じゃねぇか。作者はレジュメ&ディクト、コイツ日本人なんじゃねか?
店主に聞くと第3開拓村から仕入れた商品らしい。確かめに行きたいが開拓村のように魔物が発生しやすいところに戦闘力の無い俺一人では行けないし、冒険者を護衛に付けていこうものなら相手を警戒させるだろう。名前を変えていることからも警戒心が伺える。
ままならないものだな。
この時はそう思っていたが出会う機会がそれほど待たずして訪れるとは思いもしなかった。




