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メモからはじめる魔物図鑑  作者: 平凡な三十代
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第54話 下積み冒険者は勇者の子孫と出会う

半年はたっていても基本的な生活サイクルに変化はなく、鍛錬、討伐、鍛錬を繰り返していた。


その日もいつものように魔物討伐から戻り、師匠と組み手を行っていた。


「だから刀で受け止めない、受け流す。刀が欠けるか最悪折れるでしょ」


わかってはいるのだが技量が伴わないので言うとおりにできない。


師匠の拳を木刀で受けて持ち手から木刀が弾き飛ばされる。


木刀を拾いに行く間も油断はできない。師匠が追い打ちをかけてくることもあるのだ。


「魔物は武器を拾うのなんか待ってくないわよ」


そう、こんな感じだ。


師匠の右フックをガードしようと体を固める。


フックはフェイントだったらしく左ががら空きのボディに入る。


「レジュメは見て考えすぎね。そこは長所でもあるけど、いきすぎたらそれは隙に繋がるわよ。反射速度をあげるか、思考を加速させるか、どちらにせよ経験不足ね」


膝が笑っているがここでしっかり返事をせねば後が怖い。


「はい、ありがとうございます」



そんなふうな組み手を終え、素振りをしている時のことだった。


普段ほとんど人の来ないギルドの訓練場に数人の冒険者と思われる人達がやって来た。


「Aランク冒険者のツバキってエルフはお前か?」


話しかけてきた先頭にいる男を見ると黒髪で顔立ちは整っているが、その顔は自信に満ちあふれ、どこかゆとり世代のモンスター新入社員を思い起こされる。


「……そうですが。貴方は?」


師匠が不機嫌そうに尋ね返すと黒髪の男は待ってましたとばかりに話し始める。


「僕は勇者の子孫であるコウ=ロックリバーだ」


そこで私は噴き出したしまい、彼らに怪訝そうな目で見られたが必死に取り繕った。


岩川君勘弁してくださいよ。


改めてその姿を確認するとまだ十代後半に見えるが見るからに強そうな装備で身を固めている。鑑定してみたいがもし気づかれたら絡まれそうなのでやめておく。


しかしギルドタグを見ると黄色の装飾Dランクか、緑でEランクの私とは1つしか変わらないではないか。


「勇者の子孫である僕のパーティーに入れてあげるよ。エルフは胸も小さいし、そんなに好きじゃないんだけどAランクなら役に立つだろう」


なんという蛮勇であろうか、DランクがAランクに喧嘩を売るとは。しかも私が一切触れてこなかった師匠の身体的特徴をはっきり言いやがった。


(ツバキたんはぺちゃ……)


(ディクトそれ以上は危険だからやめておけ)


恐る恐る、師匠の方を見る。


「……断る」


断られると思っていなかったのか岩川君は驚愕の顔をしている。


いや、普通断られるでしょ。


岩川君は気を取り直し、キメ顔で言う。


「僕は勇者の子孫で、これから歴史に名を残す男だぞ。確かに今はまだ冒険者になったばかりでDランクだがすでにクラスはオーガだ。もう一度訊くが勇者パーティーに入るつもりはないか?」


ランクとクラスが釣り合わない冒険者を初めて見た。しかし、確かにDランクでオーガを倒せるということはネームバリューが高いのだろう。しかし、つまりはギルドに対する貢献度は低いということではなかろうか、それにオーガは確かCランク相当とされていたはず師匠はAランクだぞ全く釣り合っていない。


面倒臭そうなのでかかわり合いをもたないようにしようと思った。


「装備に使われるような奴に興味はないわ。革装備からやり直して来なさい」


師匠の辛辣な言葉に岩川君は顔を真っ赤にして何か捲し立てていたが仲間に引き摺られるように訓練場を去っていった。




この空気どうしてくれるんだよ、岩川君よ。


「今日はもう一度組み手をしましょうか」


「はい……」


今日の鍛錬はまだ終わらない。

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