第44話 駆け出し冒険者はウルフから逃げる
『鑑定眼』をかけてもウルフ達の行動に変化はなく、前方のウルフは前傾姿勢でいつでも飛び出せる体勢で待機しており、後ろのウルフ達はじりじり近づいてくる。
意を決して前方のウルフに間合いを詰めて剣を振るう。
ウルフは待ち構えていたように斬撃を回避し、後ろに下がりこちに唸る。
「やはり当たらないか」
思わず舌打ちが出る。
こいつは囮のようだ。こいつに手間取らせて後ろのウルフの連携をとり挟撃するつもりなのだろう。
剣を諦め、投擲用にとバッグに入れてあった石ころを力一杯前方のウルフ目掛けて投げつける。
【納刀】
アーツを使い素早く剣を鞘に納め、草原を目指し走り出す。目指す方向は南に一直線、私から見て左方向だ。
投擲も回避されたがわずかでも時間が稼げればいい。
ウルフは私が逃げたのを確認して唸り声を上げる。すると、じりじり近づいていた後続達が足を早め追いかけてくる。
森の浅い所までしか来ていないため大した距離はないはずなのだがその距離が大分長く感じる。
後ろからイヌ科特有の息づかいが聞こえてくる。
あと少し、森の切れ間の明かりが見えてきた。
もう少しだ、そう思い気が緩みかけた瞬間に右足を食らいつかれた。
痛みに顔をしかめるが、脛当てに守られて致命的な怪我にはなっていないですんでいる。しかし、ウルフの牙が革を貫いているのか脛当てに血が滲んできている。
「この駄犬が!」
抜刀し、食らいついているウルフに剣を振るうが回避され、そこに他のウルフが剣を振るった後の右腕の肉を噛みつかれる。
(やらせないよ)
ディクトが必死にページを飛ばして牽制する。正体不明の攻撃にウルフも警戒するが3匹を押し止めることはできない。
そんななか私は激しい痛みと流血を感じながら本気の命の危機を覚えていた。
さっきのゴブリンに食らった生命力も回復できてないし、今ので大分削られたはずだし、血も止まらない。
ヤバい、ヤバい、まだこんなところで死にたくはない!
振り返るとディクトの牽制で2匹は抑えてくれていたが残りの1匹が飛びかかってくるのが見えた。
ウルフが飛びかかってくるのがゆっくりと見える。体感時間が延長されているかのようだ。ウルフの牙が私の首を狙ってきているのがわかった。ゆっくりに感じるのに逆に身体は動かない。
これは死んだな。もっと生きたかったな。そんなことを考えていた。
(レジュメ君!)
ディクト、不甲斐ない主人で悪かったな。もし逃げられるなら逃げきってくれ。
ゆっくり近付いてくるウルフの牙は目の前だ。
目の前のウルフの頭が弾けた。




