第36話 駆け出し冒険者は命の軽さを知る
ゴブリンの初討伐を成功したものの気分が優れずそのままギルドへ帰って来てしまった。
部屋に戻り、少しの間仮眠を取ろう目を閉じると精神的に疲れていたのか結構な時間が過ぎていた。
一階に降りるとギルド内がいつもの雰囲気とは違い、殺伐とした緊張感が漂っていた。
カウンターにドワ子がいなかったので代わりにいたメガネのところでゴブリンの討伐報告をして何かあったのか聞いてみる。
「今日の午前中にですね、うちのギルドで活動している冒険者が魔物に返り討ちにあい、殺害されるという事態が起こりました」
驚きながらも自身の戦いを振り返り納得する。私も初めてジャイアントラットと戦ったとき数がもっと多かったり、さらに『仲間呼び』を使われたりしていたら危なかっただろう。
「今回殺害された冒険者はEランクのギルさんです」
「え……」
(うそ……)
私とディクトは同時に言葉を失う。昨日も酒場で見かけた。相変わらずかわいい幼なじみとよろしくやっていて調子に乗って騒いでいたのだ。
「ギルさんは今日の午前中にパーティを組んでいるローザさんと森に入ったそうです。いつもはそこでEランク相当のホブゴブリンやコボルトを探して討伐していたのですが、いつもより森の深く入りDランク相当のオークを発見し、1つくらい格上なら倒せるだろうと判断し、手を出したらしいです」
経験がまだ浅いのに格上に手を出したのか、それは厳しいだろうと思っていたらそれだけではなかった。
「前衛のギルさんが殺され、ローザさんが命からがら逃げてギルドに報告に来たのです。実はギルド職員を派遣して先ほど討伐を終え戻って来たのですが討伐されたのはオークではありませんでした」
どういうことだろう?他の魔物と見間違ったのか?
「魔物の情報に詳しくなかったギルさん達はオークとハイオークを間違えたようなのです。魔物には姿のよく似かよった上位種が存在します。上位種となるとランク相当が1つ、魔物によっては2つ以上上がることがあります。周りを調査し、他にも上位種などが発生していないか確認しますが気をつけておいて下さい」
訓練場、酒場どちらにもマスターはいなかった。調査に出ているギルド職員とはマスターなのかもしれない。
酒場のカウンターで茶髪兄ちゃんの作った夕食を無理やり口の中に放り込みながらテーブルの方を見て考える。
あそこに昨日までいたんだよな。もう金髪イケメン…、ギルがもういないなんて実感がない。調子が良くて小憎たらしい奴だったが悪い奴ではなかった。嫌いではなかったのだ。
まだ高校生くらいだったのに呆気なさ過ぎる。
この世界の命は軽すぎるよ。
(そうなのかもね。でもこの世界ではこれが当たり前だよ。冒険者になった以上魔物との戦いは弱肉強食、生きたいなら強くないといけない)
そのとおりだ。ゴブリンが人に似ているからと殺してから悩んでいたが魔物は人を殺す。だから討伐しなくてはいけない。
理性ではわかっている。
ただ感情が追い付かないのだ。
人を殺したかのような錯覚、身近な知り合いの死去、処理しきれない感情に翻弄され、この日初めて鍛錬をサボった。




