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EP0 神代の終わり

世界が軋んだ。

 上でも下でもない場所で、二つの力が衝突していた。言葉にするなら、そこは世界の中枢だった。ただし言葉は不正確で、その場所は世界であり、世界の外でもあり、法則が書かれる以前の余白でもあった。

 階律絶対神オルドが、無階絶対神ヌルを押さえ込んでいた。

 ヌルが打ち込んだ力が、世界の一端を焼いた。オルドが返した力が、時の流れを一拍だけ止めた。その拍の間に、何億という命が生まれ、尽きた。どちらも気に留めなかった。

 決着は、静かだった。

 ヌルの力が、崩れた。

 抵抗は一瞬で終わった。何千もの時を積み重ねた戦いが、最後の一点でひっくり返った。均衡が消えた瞬間、残るのは一方的な重さだけだった。

 ヌルは落ちていった。

 消えるとき、ヌルは自分を分解した。

 意識ではなく、存在そのものを。核を砕き、力を砕き、記憶の断片を含む全てを、無数の欠片に変えた。欠片は光に近い何かで、雪に似ていた。ただし雪よりずっと細く、音もなく、人間の目には映らなかった。

 欠片は世界へ降った。

 地上の、何処かへ。

 オルドは動かなかった。

 欠片を追えた。追おうと思えば、どこへ落ちたかも分かった。何に触れ、誰に吸い込まれるかも。

 追わなかった。

 見ていた。

 欠片が散っていく軌跡を、オルドは最後まで目で追い続けた。それだけだった。追撃も、回収も、破壊も、しなかった。

 世界を揺るがした戦いが終わり、座はオルドのものになった。

 だが、何もなかった。

 歓喜がなかった。達成がなかった。次に向けた高揚もなかった。

 オルドは、長い時間、ただそこにいた。

 欠片が全て消えた後も、オルドは同じ場所に立っていた。

 何かを待つような顔だった。

 ただし、待っているものが何かを、オルドは自分でも言葉にできなかった。

 欠片は、世界へ降り続けた。

 その一つが、折坂市の上空を落ちた。

 何の変哲もない地方都市だった。坂が多く、駅前だけが新しく、少し歩くと古い建物が並んでいた。何かが起きそうで、何も起きない場所だった。

 欠片はその街に降った。

 人間には見えなかった。音もなかった。何も起きていなかった。

 世界は、まだ壊れていなかった。

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