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(8)視力検査を希望します!

 山の奥まで届くような木の音が消えてから、約三分。


 森の木立の奥から、いくつかの足音が聞こえてくる。落ちた木の葉や、下草を踏む音だろう。


 その音がだんだん大きくなってくるのにあわせて、私は腰に下げた剣を確かめるように手で握った。


 ざっという音が響き、森の中から、一人また一人と姿を現してくる。


「来たな」


「どうやらだいぶ近くで、お待ちかねだったらしい」


 うーん、待ちかねているぐらいなら、離宮に来てくれてもよかったんだがな。しかし、それでは、騎士隊に捕まってしまうからできなかったのだろう。来たら、三食昼寝付きの生活を送らせてやれたのに。牢の中で。


 まあ、それは今からでも遅くない。というよりは、積極的に堪能してもらおう。


 そう思うと、森から出てくる人影を数えながら隣に声をかける。


「レオス」


 レオスも、同時に数えていたのだろう。


「十一人――全員揃った」


「よし」


 その合図で、私は森から出てきた賊たちのほうへと向き直る。


 作戦開始だ。


「手紙どおり来た! お前たちが、寄越した者たちか!?」


 叫べば、賊たちの中でもひときわ背の高い赤髪の男が岩の上に立った。


「こちらの要求を守ったようだな、マリエル姫だな!?」


 どうやら、私のことを無事マリエルと思い込んだようだ。


「ああ」


 だから、私はその勘違いを疑わせないために、かぶっていたマントを頭からばさりと落とした。


 美しく巻かれた金の髪がすべて露わになり、マントの隙間から豪華な藤色のドレスが覗く。その姿に、一瞬賊たちの動きが止まった。そして、ひゅーっと赤髪の男が口笛を鳴らす。


「ほう――噂どおり、すごい美人だ! まだ若いが、あと数年もしたらまさしく絶世の美女になるだろう!」


 こいつ、実は視力が悪いのではないだろうか。私を見て、絶世がどうの――。あ、でもたしかに今日のマリエルは綺麗だったから、マリエルだったらそうなるかもしれない。


 内心で納得していると、赤髪の男は、さらに隣に立つレオスに目をつけた。


「手紙どおり、従者は一人だけにしたようだな! 念のため、お前も顔を見せろ!」


 その声で、側でレオスもかぶっていたマントを外す。


 途端に、賊たちの口があんぐりと開いた。


 ――うん、笑っていないとはいえ、やはり威力は抜群だ。


「……赤髪の旦那……あれ、人間ですか?」


「なんか人間離れしているというか、作り物の彫像でもなければありえないというか……」


 ――ついに、生物外認定されだした。頼むから、生物兵器ぐらいで留めてやってくれ。


「整いすぎて、怖いというか……」


「俺、マリエル姫のほうがいいなあ……。怖くないし、笑ったらきっとすごくかわいい美貌だし」


「うん、同じ絶世の美貌なら、生き物の人間のほうがいいなあ……」


「貴様ら――」


 ゆらりとレオスから怒気が放たれている。


「姫に不躾な言葉は許さん!」


「ふん、俺たちの目は節穴じゃねえ! お前、女性に見えるが、実は優男だろう。口は達者だな!」


 いや、節穴だろう。人は見かけによらないという言葉を知らないらしい。


 だが、それならば好都合だ。幸い油断をしている。


 だから、私は声を張り上げた。


「お前たちの要求どおり、金を用意してきた。これで、お前たちが盗んだものを返してくれるんだな!」


 レオスの馬に積んでいた革袋を指しながら叫ぶ。すると、私に視線を戻した赤髪の男が、にやりと笑った。


「ああ、いいぜ。じゃあ、姫様が金を持って、一人で取りに来い。あ、従者はそこで待っていろよ。一歩でも勝手に動いたら、これを渡す前に帰るからな」


 そう言って、男が懐から取り出したものに、見ていた私の目は釘付けになった。


 手のひらほどもある星形にデザインされた細工の中央に埋め込まれた大粒のルビー。それに連なったダイヤが鎖のようについている。間違いない王の紋章だ。


 私の目が王の紋章を捉えて、大きく開いたのに気がついたのだろう。赤髪の男が、にやりと笑った。


「返してほしかったら、迷うことはできないよな? 姫様が一人で取りに来い」


 そうだ、迷うことはできない。とはいえ、これは罠だろう。


 腰に剣があることを確かめてから、レオスが差し出した革袋を受け取る。さすが金貨千枚だ。袋に入っていても、ずしりと感触がある。それを持ち、細かい木の皮が無数に落ちている地面を一歩ずつ進んでいく。


 足の下で、木を切ったときに落ちた木の葉が、歩くのにあわせて土にめり込んだ。


 ざり、ざりと音が響く。


「来たぞ。返してもらおう」


「おお、では金が先だ。下に置け」


 袋の中でじゃらっという音がするのを聞きながら、地面の上へと置く。


「置いたぞ。ならば、今度はそちらの番だ」


 これで素直に返してくれればいいが――。


 そう思いながら、革袋を置いて立ち上がった私の姿に、赤髪の男はにやっと笑った。


「世間知らずな姫さんだな。賊が、約束を守ると思ったのか!」


 やっぱり! そう思うと、私の右前からは突然一本のロープが飛びかかってきた。



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コミカライズが6/27よりコミックシーモア様にて先行配信されます。
身代わり女王は男装騎士!?
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(画像は使用許可をいただいたものです)
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