ブレイクタイム5
「そろそろ帰るね」
ルーグは空になった前日のお弁当箱を持ってそう言った。
「おう。――あー、ちょっと待て」
「なに?」
帰ろうとしたルーグを引き止めたナナシは、ドリアードが帰る前に押し付けてきた苗をルーグを渡す。
ナナシはいくつも育てる気はないらしい。
「え、これ育てても大丈夫なの。レインさんのところみたいになったりしない?」
「ま、お前んとこなら大丈夫だろ」
レインのところにあった畑がドリアードの用意したものだと知ったルーグは不安が過ぎった。あの巨大作物はあまり人に知られるべきではないだろうし。
それに対してナナシは大丈夫ははずだと言う。
あんなふうに巨大化しているのはあの森の磁場やドラゴンの存在、それとドリアードの植物に対する知識などの要因が重なった結果だと。
「なんかあるとしたら、成長が速いとかそんなだろ」
「そっか。母さん、ガーデニング好きだしいっか。ありがと」
大丈夫そうなので家に持ち帰ることにする。
○○○
「ただいまー。あれ、父さんもう帰ってたんだ」
ルーグが家に帰るとするにウォルバーグがすでに家にいた。今日は仕事が終わるのが早かったようだ。
「おかえり、ルーグ。今日は店の近くで乱闘騒ぎがあってな早めに閉めたんだよ」
「そうだったんだ」
この街じゃ年に数回は周囲に被害が出るような乱闘騒ぎが起こる。店の外壁が壊れたりなど結構な被害が出ることもある。
「その葉っぱはなんだ?」
「あ、これは今日、あいつからもらったんだ。母さん、植えることってある?」
ナナシと植物の繋がりがみえず、ウォルバーグは首を傾げる。大体、普段街に降りてくることがないナナシが手に入れることが不思議なのである。
ルーグは気にせず母に植えるところがあるか尋ねる。
「そうねぇ、あるわ。それにしても立派なトマトの苗ねぇ」
「うん」
「じゃあ、明日植えましょうね」
ルーグが手を洗いに向かうとウォルバーグは何か不審に思うことがあるのか、ルーグがもらって来た苗に変なところがないかを凝視していた。
「父さん、大丈夫だよ。あいつが改造したものじゃないから」
「疑いすぎよ、あなたは」
「そうは言ってもなぁ」
素直に受け入れられるほどウォルバーグは人がいいわけではないし、なによりナナシはおかしなことをよくやっているので疑ってしまうのも無理はない。
「これはドリアードさんがナナシに押し付けたやつでおすそ分けだから」
「………………」
なんとも頭の痛くなる話である。
ルーグは今より幼い頃からナナシの異常性に触れて来たために、常識とわずかにかけ離れているくらいにしか思ってない。レインに会いに行ってそれが拍車をかけてるはずだ。
なので何も言えなくなるウォルバーグの反応の方が一般的なのである。そうじゃなければ冗談だと笑い飛ばすだろうが、ドラゴンに育てられたことを知っているので冗談ではないと分かっている。
「まぁ、あいつも大丈夫そうだから渡したんだろうが」
「うん。それでね、ドリアードさんは紅茶飲みにきたみたいで――」
ルーグはドリアードとナナシのやり取りを両親に話していく。
まるで親子のようだったこと、ドリアードは自らのことをナナシの母親だと名乗っていたことなど。
その異常性についてルーグは何の疑問も思わないらしく無邪気に話すがウォルバーグは言葉が出せず、ルーグの話を静かに聞いていた。
「レインさんのところにあるナナシの家がキレイだったのはドリアードさんが掃除してたみたいで、だから埃かぶってなかったみたい」
「そうか」
ドリアードが帰ってからナナシにドリアードのことを色々と聞いていたようで、ルーグはそんなことまでウォルバーグに伝えていたのだが、それらを聞いていたウォルバーグはなんとなくナナシは人外の知り合いの方が多そうだと考えていた。
ドリアードの苗
育てやすいように改良はされているため丈夫。
通常は一般的な作物と同じ大きさにしか育たないが、大きな実をつけさせることも可能。
ただし、レインのところと違いバランスがとれないようでいまいちな出来になるとか。




