6 ドリアード
一触即発の空気が流れたが、ルーグの不安は杞憂に終わった。
「適材適所だろ。使えるもんはドラゴンでも使えって言ってたじゃねぇか」
「そうであったな。しかし、手が足りぬわけでもあるまいし、幼子に任せるというのはどうかと思うがの」
自分が教えてきたことを実行に移されているわけなので怒るわけにもいかず、ドリアードはクスクスと笑う。
というか、ナナシの使えるものは客でも使うというのはここから来てるのではなかろうか。もちろんナナシの性格もあるのだろうけど、そうとしか思えない。
「息子が世話になっ――」
「家族ごっこはもういいだろ」
ドリアードの台詞をナナシは中断させるが、ルーグにはしっかりと聞こえている。
「家族ごっこ?」
聞こえてしまったルーグはついオウム返しに拾った言葉を呟いて、ナナシがしまったというふうに息を吐いた。
「なんてこたぁねぇよ」
「家族ごっことは何をいうか。妾は『ははおや』というものだと言っておるではないか」
「だから、それはもういいだろ。俺は独り立ち出来てんだからよ」
2人の言い合いを外から見ているとなんだろうか、まるで反抗期の子供と母親のようである。少なくともルーグにはそう見えた。
ドリアードはナナシに向かって嘆き悲しむ素振りを見せる。
「昔は愛らし……お主は幼子のころより図々しいものであったな。可愛げもあったものではないのう」
「あーもう、用がないなら帰れ!」
思い返して昔から可愛くなかったと言い切るドリアードに付き合うのも面倒になってきたのかナナシは追い出そうとドリアードの背に手を当てる。
余計なことしか言わないなら帰れがナナシの気持ちである。家族ごっこどころか家族らしいやり取りだ。
「そっか、昔からこんななんだナナシって」
「初対面で妾のことをババアと呼びおったのは後にも先にもこやつだけよ」
ルーグのつぶやきを拾ったドリアードが愉快そうに言ってのけ、ナナシはドリアードの背を押すのに力を込めながら億越えなんだからババアで間違ってないだろと言ってツルではたかれていた。
「相も変わらず失礼やつよな。まぁよい、妾は寛大な心を持っておるゆえ許してやろう」
「ひっぱたいといて許すもなにもねぇだろうが」
そんなナナシとドリアードのやり取りにドリアードへの緊張はどこへやら、ルーグは堪えきれずに笑いだした。
「ふふっ、あはは……ごめんなさい。でも、親子みたいだなって思ったら……」
「当然であろう」
謝るルーグにふふんと胸を張るドリアードは自慢げで、そのすぐそばではナナシが追い返すのを諦めたのかその場に座り込んだ。
「ところでナナシよ。レインのやつがコウチャとやらが美味であったと言っておったのじゃが、ここにもあるのか?」
「あ、淹れる途中だった。ルーグ、そいつの相手は任せた」
お茶を淹れるに戻るナナシはドリアードに余計なことを喋るなと釘を刺してから隣の部屋へと向かった。
「レインから話は聞いておったがいつもああなのか、幼子よ」
「え、あ、はい。お客さんも少ないから……」
急に話しかけられたことに驚き戸惑いつつ誤魔化しようもない事実にルーグは素直に答える。この店に来る客自体、めったにいるものじゃない。
「そうであったか」
「お店の場所が中心部から離れてるのもあって、その……」
「それもあろうが根源は別のことであろうよ」
口元を隠して笑うドリアードはこれ以上のことは話すつもりはないのか、ナナシが入っていった扉を見て茶は時間がかかるものなのかと呟いていた。
しばらくして湯気のたつカップを持ったナナシが戻ってくる。
「ほらよ」
「ほう、これがコウチャというものか。どれ原料は……」
「え、まだ熱い」
1口飲んだドリアードはティーポットをツタで抱えて持ち上げ蓋を開けて中を覗く。
湯気とはいえかなり熱いはずなのだがドリアードは気にする素振りもなく覗き込んでいる。
「ふむふむ、葉を加工しておるのか」
「加工次第で緑茶、ほうじ茶、烏龍茶とか種類も多い」
「そうであったか。畑に増やしておくとしようかの」
どうやら紅茶がお気に召したらしく、そんなことを言うドリアードに対しナナシは露骨に迷惑そうな顔をしている。
「誰も加工出来ねぇだろ」
「どうにでも出来よう。この地に劣らず職人が多いのでな」
「なら問題はねぇか」
ドリアードなど精霊たちはなにかしらに特化していることが多いので探せば誰かしら出来るやつもいるだろう。
「ここにも何か植えるか?」
「いらねぇ。影響が分かんねぇかんな」
ここで育てるくらいならレインのところまで行くか、配達してもらうとナナシは言う。
巨大になるのはあの環境下だからだろうとは思うがドラゴンやドリアードの影響がどう出るか分からないのであまり人目に晒したくない。
まぁ、話を聞く気はなさそうだが。
2杯目のお茶を飲み干すと、ドリアードは満足したのかそろそろ帰ると帰って行った。自由だ。
「なんだか賑やかな人だったね」
そう言いながらルーグはナナシの方を見て目を伏せた。
「言いたいことがあんなら吐け」
「あ、いや……なんかナナシが遠い人みたいに感じたから……」
最古の龍やオニキスドラゴン、ドリアード。
まるでナナシは人間側ではなく、ドラゴンや精霊側の存在のように思えてルーグはなんとなく距離を感じていた。
「どこがだよ。少なくとも俺は人間にしか見えねぇだろ」
「うん、まぁね」
頭をガシガシと撫でられなんだが誤魔化された気もしなくもないが、結局ナナシはナナシでしかないとルーグは笑ってカップの片付けに取り掛かった。
ドリアード
ドラゴンと並ぶ古の種族である精霊の1種。
ドリアードは植物の成長を成長を促すなど、植物関連の能力を持つ。
ちなみにナナシがレインの元でなんとか生きて来れたのはドリアードのお節介のような世話によるところが大きかったりする。




