5 大きいモンスター
「どーすっかな〜」
ナナシは素材を適当に手に取りながらそう呟いた。その横では雑多に転がる素材を簡単にでも種類分けしていくルーグがいる。
「うん、何かする気なんだよね?」
「一応はな。言って、あんま派手にやると向こうにも迷惑かかるからな」
「フィリーさんのお家か」
注意喚起して素直に聞くような相手じゃないのはフィリーたちからの話でよく分かったが、だからと言って下手なやり方をすればフィリーの実家の侯爵家に迷惑が行くだろう。
「そういえばさ、フィリーさんってナナシが拾ったんだよね」
「ああ」
「なんで貴族の養女になったの」
フィリーからも故郷の村が大量のモンスターに襲われ逃げた先でナナシに救われ、そこから数年一緒に旅をしていたまでしかルーグは知らないのだ。
「あの容姿だろ、保護してもらうには力のある家が必要だったんだよ」
「フィリーさん、美人だもんね」
村娘というのが信じられない美しい容姿を持つのがフィリーだ。本人は無頓着なので理解してないが、美男美女が多い貴族と比べても引けを取らないどころか以上と言ってもいい。
ナナシがフィリーを連れて旅をしていた時も、フィリーの容姿に目をつけられ誘拐されかけたことも幾度もあったと言う。もしくはナナシに金でフィリーを売るように持ちかけてくるなどもあった。
「なわけで、ギルに持ちかけたんだよ」
「でも、違う家だよね」
「うちでは手に余るって侯爵家を紹介された」
フィリーの容姿や過去にギルベルトの家は自分たちでは守りきれないと侯爵家を紹介した。願わくば幸せになって欲しいと。
当初難色を示していた侯爵だったが、当時侯爵夫人は難病を患っていて特効薬になる花を探しており、その花をナナシが持っていたことでフィリーの保護をしてもらえるようになったという。
「それで良かったんだけどな、夫人の好意というか、娘も欲しかったとかで養女になった」
「そうだったんだ」
知らない人だらけの場所にフィリーをいきなり放り込むのはと言う夫人にフィリー押し切られ、1ヶ月ほどナナシも食客として滞在はしていた。
「そんな経緯だな」
「意外とあっさりしてるんだね」
「言われてみりゃそうだな。そろそろ休憩すっか」
必要な素材を手に取ったナナシは炉の近くにそれを置くと、今日は俺が淹れると茶缶を手に取った。
ルーグは店側のテーブルを拭いてくるとふきんを持って扉を開けた。
「――わぁ!!」
大きな声を出したルーグは慌て怯えた様子でナナシにしがみついた。
「も、モンスター……が、いる。大きい、やつ」
「見てくるからお前はここにいろ」
職人街には立派は防壁があるのでモンスターが侵入してくるとは考えにくい、まぁ空からの対策は上手くできていないのであるかもしれないが。
それにしてもじっとしているとは思えない。
ナナシは万が一に備え7色に揺らぐナイフを片手に持つと、モンスターがいるという店側に向かった。
すると、そこには全身緑色の、玉ねぎの上に人間の上半身を乗せたのような存在があった。
ナナシはナイフを下げて目の前のモンスターに呼びかける。
「ん、ドリーか?」
「さよう。全く、妾を呼ばずして帰るとはいい根性をしておるのう、ナナシよ?」
「突然来んなよ。すげぇビビっただろ、ルーグが」
モンスターと呑気に会話しながらナナシはルーグに大丈夫だと大きな声でいった。
おそるおそる出てきたルーグにナナシは目の前のモンスターを紹介する。
「こいつはドリアードな。レインのとこで世話になったやつ」
「えっと、ドリアードって言ったら精霊……」
ナナシはまるで友人を紹介するような気軽さでルーグにドリアードを紹介するが、モンスターじゃないとわかったところでまだ余韻を引きずっているルーグにはしっかり受け止め切れるほどの余裕はない。
精霊と言えば、最古の龍と同じく現代では存在していないと言われるような存在だ。今じゃ物語にだけしか出てこない、本気でいるとはされてない。
「おお、人の子らは妾のことをそう呼んでおったな」
やはり、精霊ドリアードで間違いないらしい。
まぁ、ドラゴンも精霊も高次元な存在だし、はるか昔からいるらしいので繋がりがあってもおかしくない。ついでにいえばナナシが知り合いだということも。
「で、なんの用だよ」
「あやつだけが会うなど言語道断、会いに来ぬからこちらから顔を見に来ただけじゃ」
「そーかよ」
ナナシらしいというかなんというか、相手が精霊でも態度は変えるつもりはないらしい。レインのように付き合いが長いからと言うのもあるかもしれないが。
ドリアードはキョロリと部屋の中を見渡してなにやら感心している。
「埃を被った雑多な部屋を想像しておったが、思ったより片付いておるの」
「そりゃ、ルーグのおかげだな。俺は変わらず散らかし放題やってっから」
「そこの童か。ナナシよ、幼子にまで世話をかけるとは何様のつもりじゃ」
部屋がある程度片付いていることへの感心も何処へ、ドリアードはルーグをチラリと見たあと冷たい視線をナナシに向けた。
一触即発の空気が流れて、ルーグは左腕の腕輪に魔力を込めていつでも逃げられるように準備をしていた。
フィリーの実家
侯爵の中でも王家の信頼が厚い家。
両親の他に兄が1人いる。
娘が欲しかったと言う妻に負けてフィリーを養女にした侯爵だったが、思いのほか娘も可愛いと可愛がってる模様。




