4 子爵の正体
最近、街によく下りること以外は変わったことは特になく、ナナシもルーグも相変わらず店の中で自由に過ごしていた。
ルーグはモンスターの素材図鑑を読みながら、近くで作業するナナシを観察している。
魔道具のようだが色々な手を加えているようで、もはや原型が分からないほど多機能になっていってる。どこまで機能を増やせるか試しているのかもしれない。
そこへフィリーたちがやってくる。
ギルドからの頼まれた依頼をやっと終えて戻ってこれたらしい。
「ただいま!」
「あ、おかえりなさい」
「おう、おかえり」
元気良く扉を開けて戻って来たのはフィリーだ。
純粋で素直なフィリーは久しぶりに会えるナナシが嬉しいらしい。まるで人懐っこい犬のようである。
他のメンバーはもはや恒例になっているだけに苦笑するだけで何も言わない。
「ルーグ、茶を頼んでいいか。ゆっくりでいい」
「うん。すぐに話聞くのは無理そうだもんね」
「理解が早くてたすかる」
街にいた妙な貴族について手紙の返事もない今、すぐにでも聞きたいところなのだが1度フィリーを落ち着かせてからの方がいいだろう。
ナナシはフィリーたちの今回の冒険に話をある程度聞くことにする。
「ま、座れよ」
全員が着席すると今回の冒険についての話が始まる。
「行ってきたのはロイのことで呼ばれる前に攻略してたダンジョンなんだよ」
ダンジョンとは古代のものが多く眠る特殊な場所のことで、現在はほぼモンスターの住処になっている。時折中の構造が変わることもある。
「副ギルドマスターがさっさと攻略しろってうるさくて、口先だけしかないくせに」
シーナが怒ったように言う。
ギルドマスターは元冒険者が務めるが、副ギルドマスターはそうでもないためシーナの言うこともうなずける。
「ギルドマスターはゆっくりでいいって言ってくれていたんだけどね」
「昇級のこともありますのであまり放置も良くないと思いまして」
ナナシが呼び出してからは割と自分たちのことを優先していたのでここらで本腰を入れてダンジョン攻略を言うことになったらしい。
ギルドマスターはかなりフィリーたちに依頼を頼んで働きずめにしていたと、自分たちの時間を持ってくれることに安心していたのだが。
「そうだったか、悪ぃな」
「ううん、大丈夫。それでね――」
フィリーがダンジョン内でのことを話し始めて、中盤に差し掛かったころルーグがお茶を持ってくる。今日は心を落ち着かせる効果があるやつ、フィリーのために。
「お待たせ」
「ありがとう、ルーグ君」
少しはフィリーも発散出来ただろうとナナシは今この街で起きていることを伝えるために口を開いた。
狙いがフィリーたち黄昏の歌の可能性があるなら、フィリーたちが相手を知っていてもおかしくない。依頼人の逆恨みなど冒険者に限らず職人街なんかじゃたまにある。
「お前ら、コネリー子爵って知ってるか?」
ナナシがそう切り出すと全員の顔色があからさまに変わった。表情は好意的ではなく、嫌悪感を抱いている。温和なガラドまでとは珍しい。
「あいつ、まさかここまで来たの!?」
「いい加減しつこいですね」
反応からよく知っているのはわかったが、どうやら付きまとわれていると言ったふうである。
「あの人、好きじゃない……」
「まさか、ここに訪ねて――」
ガラドがよぎった不安を口をするが首を横に振ったルーグと言葉すぐに否定したナナシによって杞憂だとわかる。
「いや、来てねぇよ。因縁でもあんのか」
「どうもこうもないわよ!」
シーナは大層ご立腹で大きな声を出すと荒い鼻息を出す。
「あいつ、フィリーにずっと付きまとってんよ!」
「フィーに?」
フィリーはこくりと頷くと、何度も妻になるように言われているのだと困ったように口にした。
結婚をするつもりもないのでフィリーは断っているのだがそれでもしつこく付きまとってくるらしい。フィリーの実家である1度公爵からハッキリとコネリー子爵に対し声明を出してもらったのだがやめる気配はないようだ。
コネリー子爵からすれば、フィリーは養女であって公爵家の人間ではないのだが好きに出来ると思っているのではないかというのがアルゼルの推測だ。
「なーる。それでか」
「こちらの情報はお伝えしました。あなたからその名が出た理由を聞いても?」
「最近、職人街で妙な貴族がいるって話があってな――」
ナナシは街で集めた情報、ギルベルトからの返信、ロイのお抱えにならないか言う打診があったことを全て伝える。
「そんなことになってたなんて」
「どこからか情報を掴んだのでしょう。何か対策を考えなくてはなりませんね」
自分だけの問題だと申し訳なさそうにするフィリーだが、シーナもアルゼルもガラドも一切迷惑だとは思っていないようで大切な仲間であるフィリーを守ろうとしている。
それをナナシは親のような気持ちで口出しせずに見守っていた。
ギルドマスター
冒険者ギルドの規定で冒険者の経験があるものが務めることになっている。
大体は頭も回る人がなるのだが、まれに割と脳筋のやつが就くこともあり、副ギルドマスターは文官タイプが多く現場をしらなかったりする。




